2021
05.16

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その1 プレーヤシステムの巻 1-1

音らかす

月例(つきなみ)な標題になってしまったが、音楽雑誌などによく見られる、オーディオ評論家の書いた、コンポーネントの組み合わせ、鳴き比べのたぐいの記事を書くつもりは全くない。

どこそこのアンプは、どのスピーカをつなぐと、どんな音が出て、どこのスピーカからは、指揮者の直後ろに立って聴いたような音がする。という話は、オーディオ道楽として、自分の装置が何十万円かかって、このスピーカは神戸に何台しかない、という事が唯一の楽しみで、青江三奈の唄をならすのに、何個ものカートリッジを取り換えて見せる、いや聴かせる人々にとっては、酒の肴みたいなものであって、『あっしらには、かかわり合いのない事』なのである。

音楽を聴く事が本当に好きで、自分の装置から出て来る音を、何とかして少しでも良くしたいと考える人々。語弊があるかも知れないが、オーディオを道楽としてではなく、趣味として楽しんでいる方々の参考になるかも知れない、といった事柄をまとめたつもりである。

ラジオ技術にも書いた。私はひとの道楽を食いものにするイカ銀は大嫌いである。『この壺は、もと紀州藩のさるお屋敷にあったもので、 どこそこの何という陶芸家が焼いた代物、二百万は全く安い。見る人が見りゃ、その値打ちが解る、というもの(で?)ゲス』そんなに立派な品物ならてめえが買っときゃ良い。私の最も嫌いな話である。そんな壼を買い込んで、晩めしまでふるまって、ひとに見せびらかすにいたっては阿呆の骨頂で、イカ銀から見れば、良いカモである。あとで、専問的に鑑定して見たら、にせものであった、なんて事になると、泣くにも泣けない事になる。

趣味と道楽とは同じものではない。文化は金で買えるかも知れないが、文明は金を出したからといって自分のものにするわけにはゆかぬ。黄金(こがね)造りの茶室を造って見ても、茶の道をきわめる事は出来ない。

趣味には勉強がつきものである。音楽の好きな人が音楽の勉強をするのは当然の事ではあるが、オーディオを通して音楽にしたしむのに、電気の勉強はいささかお門(かど)違い。そこで、イカ銀がはばをきかす事になる。

これも、めしのたね。私ごときアマチュアが首を突っ込むすじあいは全くない。

オーディオシステムといっても、あくまで物理的原理を応用して出来上がったものであるという前提のもとに、出来るだけ合理的に、そしてあまり無駄な費用をかけないで、音づくりをやっていく方々のために、今までに何度も壁にぶつかった経験をもとにして、その合理的なまとめ方と、試し方などについて、何ケ月かの間書いてみる事にする。読者にとって、何か得るところがあれば幸いである。

ものをまとめるためには、その部品なりパーツ、コンポーネントを選ばなければならないし、アンプのように、自分で作ったものの方が良い場合には、自作もしなければならない。ものを選んだり、自分で作ったものは、何らかの方法で測定(テスト)しなければその良し悪しは解らないもので、測定する事も、非常に大切な事である。従って、合わせて測定の仕方などについても、順を追って述べていくつもりである。

これは何の場合にも当てはまる事であるが、グレードアップという事で、評論家先生のおすすめになる高価なコンポーネントを、次から次へと買い換えるのは愚の骨頂。ものを良くする秘訣は、欠点を一つ一つなくして行くのが一番早道で、次に順次述べる項目もあくまでこの思想にもとづいたものである。

レコードプレーヤ

ディスク再生の折りの音の入り口である。それから先、スピーカまでの200倍以上の増幅を考えれば、ここんとこでトラブルを出したのでは、それが200倍にも拡大される事になり、手も足もつけられない。結論から先にいう。メーカー製のプレーヤ・システムは、 これから始める人はまず見送るのが賢明である。オーディオにはいろいろな楽しみ方があって、タチの悪いのになると、他人をゆすぶる楽しみ、けなす楽しみ、なんてものもある。自分では良い音だと、ゴキゲンに聴いているところへ、他人がやって来て、ヤレハウリングがどうの、 ビリつきが出ている、なんて事をいわれて見ると、成る程その通り。そうなると、もう音楽なんぞ聴いていられない心境になるものだ。

考えて見ると、これがあるから進歩があるわけで、わざわざひとに頼んで自分の装置を診断して貰うのもそのためである。日頃何となく気になっているところを指摘されたとなると、そこんとこを直さないわけには行かなくなる。そんな時に、アームも何もかもがついて一体になっているメーカー製のプレーヤ・システムだと、 どうにもならない事が多い。

ひとそれぞれ専門があって、モータ作りの名人、カートリッジの専門メーカー、 トーンアームの事ならまかしとき、 という具合である。いきおい、システムをまとめ上げるのに、メーカーとて、それぞれの専門工場へ下請けに出すようになるのは当然で、第一自分で造るより安上がりである。

フォノモータ

別々にしつらえると話が決まったところで、まず考えなければならないユニットが、ターンテーブルを含むフォノモータである。日曜電気大工ではないのだから、モータだけ買って来て、糸かなんかをひっぱってターンテーブルを回すなんて事は、労多くして効少なし。何とかいう評論家先生が、グラビアページに発表したからといって、その真似をするのは愚の骨頂。マニアと呼ばれて喜んでいる気違いのサンプルみたいなものである。

マニア(mania ・メイニア=狂とか癖の意)と呼ばれてその気になって、通人ぶっている人の中には、いろいろな症状があるようだ。青江三奈を含めてレコード10枚以下しか持っていないのに、カートリッジは世界の一流品と称するものがゴロゴロ。合ゎせて13個という人を知っている。残念ながら、現代の医学ではどうしようもない重症である。

レコードプレーヤとはいえ、民生機器の一種である。シェパードの棺桶みたいに、馬鹿デッカイ箱の上にターンテーブルをのせて、まわりに、オーディオショップの陳列台みたいにトーンアームが3本も4本も並んでいて、何10キログラムとかの鉛を張りつけた、とこれが自慢のタネ。あまり箱が大きいので、 レコードを裏がえすのに腹をひっ込めているのは、あまり格好の良いものではない。こんなに鉛をぶらさげないと、ハウリングが止まらないのは他に何か問題があった筈であり、やたらにつっかい棒を入れなければ、シャンとしない家みたいなもので、大して自慢にならない、 と私は思う。

という私も、実のところ6~7年前まで、ハウリングに悩まされた事がある。ターンテーブルの下に鉛を張ったり、スポンジを敷いたりで、いろいろやって見たがなかなか完全に止まらなくて困った事がある。ニート製でリムドライブのものであったが。メーカーが破産するに及んで、取り換え用のリムが入手出来なくなったのを機会に、やぼったいプレーヤ・ボックスの自作に見切りをつけて、いろいろ物色したがプレーヤ・ケースに入っていて、トーンアームのついてないのが殆どない。

だいたい、街のメーカーで作ったプレーヤ・ボックスには、ロクなものがない。一流メーカーでは、デザインをするにも専門家の手を煩わすせいか、ハコだけを作って売っている木工所のものより、一般にうまく出来ているものだ。市販のハコならまだましであるが、自分でスケッチを書いて、家具屋に頼んでいたのでは、良い物は永久に出来ないものと、相場が決まっている。一番問題になるのは、ワンハンドで開け閉めの出来る蓋がない事である。ひとかかえもある大きなアクリル製の蓋を両手で取り除き、そばに立てかけておいて、けと(と=不要)飛ばしたり、蓋を取るはずみに何本かのアームの一本のお尻にひっかけてカートリッジをこわすにいたっては、泥沼の中のマニア。お気の毒なハナシである。

あれやこれやで、残念ながらティアックの80Cだけが、上の条件にどうやらあてはまるという事で、入手したついでに、自作やら誂えのボックス類を全部取っぱらって、オカムラのホームユニット(ラジオ技術’71年5月号参照)に入れ換えたら、ウソみたいにハウリングがなくなってしまった。80Cに鉛など張っていないのは勿論の事である。やはり小屋はつっかい棒なしにシャンとしている方が良いようだ。まことに残念な事に、ダイレクトドライブが、はばをきかすようになるに及んで、せっかく良いと思っていたこの機種が、製造中止。全く残念な話である。

そこで、 このハウリング退治の要領を一つ。つまりそのテスト法である。測定器はダンヒル型のライターが一つあれば良い。もちろん舶来である必要はないので念のため。S.T.(エス・テ)デュポンを出して来ると、格好が良いと思われる方は、それも結構。但し、鉄、ニッケル、ステンレスなどは磁気を帯びるので、ダメ。

そのライターを。ターンテーブルのすぐ横に写真1のように置く。そしてその上にカートリッジをそっと降ろす。この時、プリアンプのボリュームはしぼっておかないと、ガリッという音が出るので不愉快である。モータを止めたままボリュームを、ソロソロ上げて行く。普段レコードを聴いているところ位でスピーカからブーンという音が出たら、 もうその装置はお話にならない。ハイファイを止めて、ポータブルラジオでFMを鳴らしている方が音が良い位である。

ボリュームをいっぱい開いてもハウリングが出なければ、もう一度しぼって、今度はモータを回してみる。同じように音量を上げて行くと、ワーンとスピーカが鳴り出す事がある。これがハウリング。アンプからハムが出ていてもこの現象が起こる。ローカットフィルタを入れても止まらなければ、ハイファイヘの道は入り口で落第である。

鉛を張って止まったとしても、欠陥車は欠陥車である。人命にかかわりはないから運輸省に届け出はしなくても良いが、ゼロからやり直さなければ、いつまでたっても良い音は聴けぬものである。

ミもフタもないと言われればそれまでだが、内閣が替わっても、物理の理論が変わらないかぎり、どうにもならない問題である。

このテストで、モータのゴロがあれば、スピーカ(「で」が消えている)はっきり聴きとれるのでついでにテストして見る。

さっき、オカムラのホームユニットと80Cでハウリングが止まったと書いたが、私の家で以前に少しばかり出ていたのには、 もう一つ問題があった。本誌1970年12月号に発表したクリスキットマークVの前に使っていたマークⅣから少しばかリハムが出ていたのもかなり大きな問題点であった事を参考までに述べておく。現在のアンプ(クリスキット・マークⅥ)でも、バイパスしておいたトーンコントロールを入イ(「イ」は不要)れると周波数カーブがうねって来るせいかやはりハウリングには弱くなるようである。アンプの項で述べるが、トーンフラットといっても、バイパスしたものでないかぎり、かなり周波数のカーブがうねっているものであるからこのハウリングの問題はのこる。

幸ぃ12畳近くある部屋で、本造ではあるが、洋間で、どちらかといえば、ライブな方で、 ピアノを演奏してもかなり音が響く。天丼を放送局のお世話で張りかえたり、床にナイロン絨毬を敷いたり、カーテンをあれこれ変えて見たりしたのはその頃である。

これ等いろいろな要素の中で、プリアンプからハムを完全に追い出したのが、ハウリング退治に一番大きな効果があったのだと思う。とにかく、現在、前記の方法で、ボリュームを最大にして、その上、プレーヤをコンコン拳骨で叩いても全然ハウリングは出なくなった。これがオーディオ装置のテスト中で最も基本になるところであるから少々時間を掛けても是非実行しなければならない点である。

ダイレクトドライブであろうと、ベルトドライブであろうと、ハウリングが出る、出ないには、あまり関係はないようで、問題はそれ以外にもいろいろある事を‐重ねて明記しておく。.

近ごろ、どのメーカーも競って、ダイレクトドライブに切りかえているのは、まことに困った事で、ダイレクトドライブの方が、従来のものより、すべての点ですぐれている、と思うのは大間違いの勘五郎である。

最近良く耳にする話であるがダイレクトドライブに変えたら、いっぺんにに静かになった、 といぅ人がいる。今まで使っていたプレーヤ・システムから精米機みたいな雑音が出ていたのだろうか。『どう静かになったのでしょうか』と尋ねて見ると、 とにかく静かになった。とお答えになる。今までのが、よっぽど悪かったのかも知れぬ。とにかく、道楽とは、まことに結構なものである。