06.01
ステレオ装置の合理的なまとめ方 その6 私のステレオ装置の説明 2
私がマルチアンプ方式にしないのには、それだけの理由がある。雑誌にアンプの製作記事を発表する位だから、そして一応、ひと通りの測定器を持っているのだから、でてくる音はともかく、マルチアンプにする位は私にとって、むずかしいことではない。
チャンネル・ディバィダ(Channel Devider)には、長所も、欠点もある。ディバイディング・ネットワーク(Deviding Network)にも同じようにその長所と欠点がある。だから頭ごなしに、そのどちらが良いと決めつけられるような要素はひとつもない。
東芝の厠川研究所の設備の何千万の一位の測定装置しか、私は持ちあわせていないので、少しでもトラブルの少ない単体アンプ方式に決めたわけである。簡単なもの程、トラブルが少ないもので、スピーカにしても2ウェイの方が、3ウェイよりトラブルが少ないのも当然のことである。
そういった理由によるものか、どうかは知らないが、今までに私は “さすがにマルチアンプ方式だ” と感心させられた装置には一度も接したことがない。なかには馬鹿でっかい装置に、何十本もの真空管に灯をともして、ハムだらけの音の中から音楽がでてくるというのにぶつかったことかある。アンプに年中扇風機をあてているのも趣味の一つ、私ごとき門外漢の嘴を入れる筋合いではない。
アメリカの表現に “Poverty in Rich(富の中の貧困)” というのがある。自分で築きあげたオーディオ装置という怪獣に組みふせられているのは、はたから見ていると滑稽ですらあるものだ。
複雑なものの方が、そして高価なもの方が良いと思っているのは、劣等感のあらわれである。現代医学では、どうしようもない精神病の一つのである。
雑誌の製作記事を頼りに、しかも自分の考えで、あまり知識のない者が下手に改造して、そのうえ作りっぱなしという風にでき上がったアンプが、知らぬ間に3台になったから、マルチアンプにしたというのは、最もいましめなければならないオーディオ装置のまとめ方である。
最近、ある音楽雑誌でお目にかかった話である。ときどき名前をみかけるから割合有名な評論家なのだろうが、何んでも「ある市販高級パワーアンプで、低音で鳴らしたらパネルメータが100Wをスコンスコンと振り切っているのに、あんまりうるさい音にならなかったので、やはリパワーアンプは大出力でなければ音楽は駄目だ」と述べている。ひょっとしたら、この男、つんぼなのかも知れない。つんぼでなければVUメータが本当に100Wを指していたのか、疑間を感じるくらいである。ついでに「だから音楽を聴くには、マルチアンプでなければ」と結論を出している。高級アンプが売れるわけである。
どうも私の話は横道にそれていけない。
スピーカシステム
ラジオ技術1971年5月号に発表しててるので、一部の読者の方はご存じかも知れないが、5年あまリコーラル12L-1を使っていた経験がある。まえまえから、このクラスのウーハから出てくる低音が、俗に言われる紙くさい音であるばかりでなく、切り込んでくるような迫力がない。音として出ていても音楽性に欠ける。何んとなくオーディオ評論家的表現になったが、とにかく、何がしかの不満を感じながら音楽を聴いていたし、口のうるさい友人達がやって来ては、低音の不足をよく指摘されたものであった。
あくまで音楽に徹すると言う事であれば、それでも音楽は聴けないわけではなかったのである。
ところが、1973年4月に機会があったので、ニューヨークのリンカーンセンターにあるフィルハーモニーホールを訪ずれた時の事である。曲目はヤナーチェックその他4曲ばかりであったが、ラフアエル・クーベリック(レナード・バインシュタインが海外演奏中であったため)の指揮によるニューヨークフィルハーモニーオーケストラの演奏するベートーベン交響曲第7番。低音がまるっきり違う。楽器が良いのか、音楽ホールの音響効果がすぐれているのか、あるいは演奏が熟練しているせいかも知れないが、今までに聴いた事のないような低音であった。
ウーハをなんとかしなければならない。国産品で数種あたってはいたのだが、どのような原価計算に基ずいたのか、非合理もはなはだしい価格である。高い方が良いと決めつけているオーディオマニアのあおりをくって、私達オーディオリスナーがべらぼうなコストパフォーマンスの悪いものを買わされるのは、まったく腑に落ちない。そんな時である……。
(5)スピーカ:昨年渡米した折りに、ロスアンジエルスに1週間近くいたので、JBLをおとずれてその代理店のお世話でLE14AとLE175DHLを入手した。まえまえからランサー101の音が好きで、そのスピーカの音をもうすこしダイナミックに、そして中高音のつなぎ目を改良したら、もっと音が良くなるだろうと思っていた。
スピーカ・ニュートは両方ともかなり良いものなのに、ランサー101の内側を調べたら、アテツネータ付ネットワーク(LX10)が実に貧弱で、その上商品として市販されるための制約から、箱があまりにも小さすぎる。本物か似せ物かは、どうでも良いとしても、あんな大理石一枚位で音が抜群に良くなるとも思えない。その上、ランサー101の国内販売価格が、あまりひとを馬鹿にしたような値段なので、本国で工場卸し値でユニットだけ買いこんだ。なぜだか知れないが、国産の高級ユニットよりはるかに安価であった。
ネットワークは1000Hzで切ったものを誂えて、ラックスのアッテネータ(AS-6)と組み合わせ、ウーハを200リットルの密閉箱に入れて、予期していたような音を出したわけである。ランサー101の片方よりもはるかに安価で、ステレオスピーカが出来上がった上に、音の方もランサー101からその欠点だけをとりのぞいた、実に満足すべき音が毎日私を楽しませてくれる。JBLはジャズ向きだなんて、真赤な嘘である。
(6)ネットワーク:ネットワークによる2 Wayなり3 Wayだから、このネットワークとアッテネータの品質は非常に大切なのである。そこで一つ、それぞれの働きについて考えてみる事にする。
まず最初、簡単で比較的トラブルの少なぃ2 Wayから考えてみる。第2図がその回路図と部品、つまリコイルとコンデンサの数値の計算式である。今仮りに1000HZで高低2 Wayに分割するためには
の計算から、L1及びL2は1.8mH、C1及び C2はともに 14μF とわかる。
まず、コイルには2種類あって、鉄芯入りと空芯のものに分かれる。鉄芯を入れると、同じヘンリー値のものを作るには、形が小さく出来、芯があるので、コイルに仕上げやすいところからメーカー製のネットワークによく使われる。しかし、理論上からは空芯ものの方が、この使用目的にはすぐれている。なお、カットコアー入りのものもあるが、まだ試した事はない。
実際に作ってみると、このコイルを巻くのは、考えている程むずかしいものではない。いずれ項をあらためて詳述するが、コイルを自作するのに一番大きな問題は、巻き上がったコイルが何ヘンリーであるか、という事である(「。」が抜けている)三田無線のデリカ・ミニブリッジ(M1型)などを使うと簡単に測れるが、たかがコイルを4~5本巻くのに、三万円近い測定器を購入するのは、オーディオリスナーにとっては、不合理きわまりない話である。
コンデンサにして見ても、まず、無極性のコンデンサの入手にアマチュアには、それだけの問題である。よしんば入手出来たとしても、その容量の公値がどの位正確なのかという事にも間題はある。ミニブリッジの御世話になるか、もっと信頼性のあるデータをとるには、岩通のVOAC 77またはその上のVOAC 707のために用意されたコンデンサ容量測定アダプタだけで13万円。ゼロを一つ減してもオーディオに無用の長物になる。
止むなく、あるオーディオ屋を通して、YL音響に依頼した。2 Wayの事だから、片方ぜいぜい六、七千円だろうと値段も聴かずに1000Hzで切ったものを一組頼んだ。予定よりはるかに遅れて出来上がって来て、あきれかえったわけである。一組¥14,000、合わせて¥28,000(1973年6月)の納品書が付いてきた。銀メッキ線を使ったわけでもあるまいし、人を馬鹿にした値段である。
“なんでこんなに高いか” と尋ねたら “材料をはりこんであるので” と言う。どうはりこんのかは知らないが、値段を聞かずに注文したのが悪いのだから、今さら文句を言うのは筋違いである。