06.08
ステレオ装置の合理的なまとめ方 その9 プリアンプの残留ノイズと増幅率 2
プリアンプの増幅率
RIAA偏差、最大許容入力、最大出力、ひずみ率などの数値にえらくこだわる方々に、貴方のプリアンプのイコライザ段の増幅率(ゲイン)はいくらですかと尋ねると、100人中、99人までが御存じない。こんな人々は、数値について語る資格はない、と私は思う。
話は横道にそれるが、この項の読者の中で果たして何パーセントの方々が、自分が使っているパワーアンプのゲインを知っておられるだろう。アンケートでも取って見たら、多分びっくりする程知らない人が多いと思う。そんなのに限って、ダンピングファク夕がどうの、スルーレートがどうのと、通人ぶった言い方をされる。入力0.5Vで最大出力になる、とお答えになる方は、大いにましな方(ほう)である。
最大出力何ワット。大いによろしい。しかしそれがE2/Rの計算で、8Ω負荷だと、(16.73V2÷8Ω=)35Wになる事にもう少し関心を持って欲しい。だから16.73V÷0.5V=33倍だと解らないのに、ダンピングファクタがと言っているから、いつまで経っても自分の装置に満足出来ないのだ、と私は断定する。
だから、あり合わせ程度で良いから、ジェネレータと、ミリバル、出来ればオシロスコープだけは手に入れて欲しい。と、私は常に述べているのである。物差しなしで、ものを測るなんで芸当は、超能力保持者のする事である。
また話が横道にそれた。
プリアンプには、イコライザがつきもので、それぞれの信号周波数によって、そのゲインが変わるものであるから、一般に1,000Hzでの増幅度がいくら、と言う習慣になっている。
測り方はすこぶる簡単である。ジェネレータでプリアンプに1,000Hzの信号を入れて、まず出口に何ボルト出ているかを読み取る。というより、その時のミリバルの読みが、7.75Vになるようにジェネレータの信号を加減する。そしてその時のジェネレータの出力信号電圧が0.0775(77.5mV)であれば、(7.75+0.0775=)100倍のゲインがあると分かる。(プリアンプによっては、 ここまでの出力信号電圧すら取り出せないのもある)
直接ミリバルのdBm目盛りで読むと、7.75Vは+20dBmで、77.5mVは−20dBmだから、その間に40dB(100倍)の増幅があったというわけである。
この増幅度は、いろいろな特性を考えるのに是非必要なものであるから、必ず知っておきたいと思う。RIAAカープが、各周波数に於て、それぞれ違った増幅率を持っているために作り出されている事を考えれば、ここに述べる増幅率というものが、いかに大切であるかが分かる。
回路インピーダンスについて
私が初めてオーディオ回路について勉強しはじめた頃先輩から、回路インピーダンスが解ったら一人前だと良く言われた事を覚えている。
なる程、調べれば調べる程複雑怪奇なのがこのインピーダンスである。と言って、頭から難かしいと嘆いてかかったのでは、いつまでたってもオーディオ回路は理解出来ないものである。
大方の物理の理論が、その実験を抜きにしては理解出来ないものである。百聞は一見にしかずとは良く言ったものだ。実際に、そこにある回路のインピーダンスを実測して見るのが一番手っ取り早い理解への方法である。
測定に先立って、この測定、と言うより、オーディオ回路のすべてに必要なオームの法測について考えて見る事にす‐る。
E=I・R
誰でも一度は耳にした公式である。中学校の物理の時間にも教わった筈である。
E=I・Rと書くよりV=A・Rと書いた方が解り易いかも知れない。E(V)は電圧を表わし、その単位はV(Volt=ボルト)である事は誰も知っている。I(A)は電流で、単位は勿論A(Ampare=ァンペア)。RはResistance、つまり抵抗の事で、Reactance(リアクタンス)もImpedance(インピーダンス)もその起こり方が違うだけで、抵抗である事には違いない。これは英和辞典などで、resist、react及びimpede の単語を引けばうなづける事であろう。
今ここに第21図のような10の抵抗体があるとする。その一方から他方へ1Aの電流を流したとする。その時にその抵抗体の両端に1Vの電圧が出るというのがオームの法則なのである。これは1kΩ(1,000Ω)に1mA(0.001A)の電流を流しても同じく1Vの電位差が、1kΩの抵抗体の両端に現われる。アンペア(I)と、オーム(R)とを掛け合わせたら、電圧(E)になるこの実験で、E=I・Rになるオームの法則が実証された事になる。
ここで注意を要する事は、その抵抗の左側又は右側が、アースに対して何ボルトあるか、 という事には全然関係がないという事である。アース(earth or ground)、 つまり地球、又は地面が0Vであるという事は、このオームの法則は関わり合いを持たないものである。その抵抗体を電流が通る事により何ボルト電圧が降下したか、というわけである。
この事が分かれば、 このオームの法則を暗記する必要は全くない。自然に覚えられる筈である。そしてこれを覚えたら、E=I・Rから、
は簡単に導びき出せるから、電圧(降下分)を抵抗で割ればそこに流れる電流が分かり、同じく電圧を電流で割れば、抵抗値が求められる。
こんな簡単な事を考えないで、雑誌の製作記事で実体図だけを頼りに、何台もアンプを作って、作りっぱら(「な」の誤り)しでそのアンプが発振しかかっているのも知らずに、やっぱり球の音は、とゴキゲンな顔をしていたのでは、いつまで経っても良い音は期待出きない。カートリッジを買い換えたり、口形の大きなウーファーが使えないので欲求不満になっている人々が、こんな連中の中に多いものである。JBLのウーファーにあこがれて見たり、KT-88の音を夢見たりする前に、ものの道理をまず考えるのが、合理的というものだ。
自分でアンプを作ったり、スピーカユニットを買って来て、苦労して自分の音づくりをしている連中は大いにまして(「で」の誤り)、オーディオ雑誌を頼りに、誰それが主張する、実戦的コンポ作戦、なんてまるで、真珠湾奇襲作戦みたいな記事ばかり読んでいる手合に至っては、お話にならないものだ。
これも商売、青江美奈をレインジャーパラゴンで鳴らそうが、四枚しかレコードがないのに、カートリッジを13個持っていようが、俺の知ったこっちゃない。こんなカモがいなけりゃ、オーディオ屋は儲からない。
オームの法則にはまだつづきがある。こんな手合に係わり合っていないで先を急ごう。
松本にある親戚を訪れた時に、黒部ダムを見た事がある。おっそろしい高さである。あんなに高い所から水を落とすのである。力も出ようというものだ。しからば、そのダムの上に立ってオシッコをたれたら、下にある大きなタービンは回わるだろうか。そんなこたあ聞かなくても分っている。
電圧ばかり高くっても、電流がオシッコのように少なくてはパワーは出ない(「。」が抜けている)それを証明するのが、
E・I=P
というもう一つのオームの法則である。
つまり電圧と電流の二つがあって始めて力(電力W)が出るという理屈である。V(ボルト)×A(アンペア)がP(パワー=W)だ、という法則である。
これが覚えられたら、P=E・Iで、E=I・Rを前の式のEに当てはめると、P=I×R×Iとなるから、I2×R=Pの式はすぐ理解出来るし、I=E/RをP=E・IのIに当てはめるとP=E×E/Rになるから、E2/R=Pである事もそんなにむずかしい事はない。これを理屈抜きで暗記するから、数学は面白くない。
ここで、今までの公式をまとめると、
の六つの基本公式がある事が理解出来た。
ここまで理屈がのみ込めたところで、次回に、この公式を利用して、回路インピーダンスを測定する事によって、オーディオ回路を理解する糸口を作る事にする。
以上、電波技術 1974年8月号