06.10
ステレオ装置の合理的なまとめ方 その10 プリアンプのインピーダンス 1
入カインピーダンスについて
インピーダンス(Impedance)とは一体何か、という疑間が生まれる。オーディオが好きなのに、この疑間が生まれなかったら、その人のマニア度はかなり高い。抵抗(Resistance)には違いないのだが、インピーダンスは、テスタや、オーム計では測る事は出来ない。それが一番大きな違いである。抵抗体などの、テスタで測れる純抵抗の抵抗値は、直流に対しても、交流を流してもその抵抗値は変わらないものである。だから純抵抗と呼ばれるのであろう。
コンデンサには直流は流れない。つまり無限大の抵抗を持っている。けれども交流なら通る。その原理は、中学校の物理の教科書に出ている。そしてその交流の周波数によって通る分量が違う。その上、コンデンサの容量によっても、その同じ周波数に対する抵抗値は変わる。この事をリアクタンス(Reactance)と呼んでいる。
コンデンサの他に、交流に対して抵抗を持つものにコイルがある。コンデンサと違って、コイルの方は、その使用電線の直流抵抗分は別として、直流を完全に通す。そして交流に対しては、その周波数によって変わるが、それぞれの抵抗値を示す。
これもリアクタンスと呼ばれ、単位はヘンリー(H)。抵抗である事には変わりはない。
真空管のプレート~カソード間は、その球が働いていないとき、つまり灯を入れていないときは無限大の抵抗を持っているが、灯を入れてしばらくすると電流が流れ始める。電流が流れる限りに於いては、或る抵抗値を持った抵抗体と考える事が出来る。これを真空管の内部抵抗(Internal Resistance)と呼んでいる。そしてゼロバイアスになったとき、もしカソードに抵抗体を入れていなければ、真空管の内部抵抗がゼロに近くなって、その電流×電圧=電力が、プレート損失を越えたときに、その球は飛んでしまう。
トランジスタにも、それが半導体(Semi-Conductor;Semi-Resistor と考えても良い)である限り、ベースにバイアスを掛けると、コレクタからエミッタヘ(PNPでは反対)電流を流す働きを持っている。
このように電子回路にはいろいろな抵抗が存在する。そのすべての抵抗をひっくるめて、インピーダンスと呼んでいる、と考えるのが、電子回路を理解する早道である。
今、ここに第22図のような増幅器があったとする。このアンプの入カインピーダンスZが未知の場合、どうすれば測定出来るか、という疑間が生じる筈である。おどろいた事に、私が何度口をすっぱくして、この事を言って見ても、関心のない方々には、文字通り馬の耳に念仏で、そのくせ、ダンピングファクターが大きすぎると音がつめたい、てな具合の、耳年増的表現だけはうまい方が多いのは、まことに困った事である。
疑間が生じた方々のために説明する。
同図の下側はボリューム等でお馴の回路であり、Rx=Rzのときは、その二つの抵抗の中点には、上側の場に減衰(attenuate)された電圧が出る事は誰でも知っている。ところが、この事を前回に述べたオームの法則と結びつけて考える人は割合に少ない。もしRx及びRzがそれぞれ50kΩだったとすると、E=I・Rに当てはめて、
200mV=2μA×(50,000Ω+50,000Ω)
と計算し、もし電流と抵抗値が解かっているとすれば、電圧200mV
[2μA x(50,000Ω+50,000Ω)=200mV]
で、抵抗値が、その中点で1/2になれば
2μA×50,000Ω=100mV
になるから、電圧が半分になり、これをデシベルで表わすと、−6dBになる。
これは非常に簡単な事なのだが、オーディオ回路について考えるのに非常に大切な事なのだから、ここんところを素通りして、ダンピングファクターがどうの、と言う方には、何度も言うようにオーディオを楽しみながらの満足感は得られないものである。これは右側に書いた回路でも全く同じ事になる。オーディオ回路の入カインピーダンスを測るには、この原理を応用すれば良いわけである。
第22図がその原理である。つまり、アンプの入力回路にシリーズに100kΩのボリュームコントロールを入れて、まずその抵抗値を0Ωにする。
仮にそのアンプの増幅率(Gain)が30倍あったとすると、オーディオジェネレータを使って、200mVの入力信号をボリュームの手前に与えると、6Vの出力が出てくる筈である。
そして、このボリュームコントロールをまわして行き、その抵抗値を大きくして行くと、6V出ていたアンプからの出力電圧が、だんだん下がつて行く。だんだん下げて行って、その出力電圧が、もとの半分(−6dB)つまり3Vになつたところでボリュームコントロールをまわすのを止める。その時のボリュームコントロールの抵抗値が50k Ωであったら、そのアンプの入力インピーダンスが50k Ωであった事が解かる。
これが入カインピーダンスの測定なのである。
こんなに簡単に測れる回路インピーダンスに、実は非常に大きな意味がある。ここんところを無視して、ダンピングファクターがどうの、RIAAカーブが、プラマイ零点何デシベルなんて言っているのがマニアのサンプルみたいなもので、私がもっとも苦手な人々なのである。
例えば入カインピーダンス47kΩのソリツドステートパワーアンプに、管球式プリアンプをつないだとする。通常市販品の管球式プリアンプは、もともと、入カインピーダンスが、ソリッドステートのものより高い管球式パワーアンプとつなぐように設計されているものだから、その出力用カップリングコンデンサには、0.05μF前後のものが使ってある。
それを等価回路で表わすと、第23図のようになり、68Hzでその信号電圧が約半分(実際はもっと複雑な計算と理論によるものなのだが)になる。とすると、オクターブ当たり、−6dBとして、136Hzより低い周波数では、ローカットフィルタ(Low cut filter)の働きをしてさっぱり低音に力がなくなり、音が硬くなるのは、理の当然である。こんな事で私のところへお便りを頂く数が割合に多い。一つ一つお返事を差し上げる私の身にもなって欲しい。しかも、こんなのに限って、オーディオ雑誌で身につけた耳学問で、屁理屈をこねる。高級カートリッジー個の値段で、ジェネレータと、ミリバルが買えるのに……。それでいて泥沼からはい出せない人々が多い。困った事である。
この事は何も低音に限ったものではなく、高音特性にも大いに影響がある。例えば、第24図aのように入カインピーダンスが500kΩの回路に、メートル当たり400pFもの容量を持つシールド線を使ったとする。そのシルード線の長さが30cmあると、その容量は、120pF(=400pF×0.3)で、同じく1/2πRCに当てはめると、2,653Hzより高い周波数がアースヘ落ちてしまい、ハイカットフィルタと同じような働きをする。これでは、サッパリ高域は出ない。やっぱり自作機はだめだという方は、オーディオ雑誌のイカ銀評論家の、『クオリティーからリヤリティーヘ』なんて解ったような、解からないような表現を読む暇があったら、この計算についてもう少し時間を裂くのが賢明な策というべきであろう。
コンデンサは、交流電圧に対してリアクタンスと呼ばれる抵抗値を持ち同じ値のコンデンサならば、周波数が高くなる程、そのリアクタンスが小さくなるもので、その値は1/2πfCで計算される。例えば、120pFのコンデンサに、2,653Hzの交流信号電圧を通して見る。第24図aの下の計算に当てはめると解かる。それを第24図bのように回路に当てはめると、抵抗をパラレルに並べたわけで、
となり、そのインピーダンスが半分になるので、(本当の理論はもっと複雑であるが、オーディオリスナーには、専門家になったり、原稿を書く人以外には、かえってややっこしくなるので、考える必要はない)オームの法則に準じて2,653Hzの信号が約半分になり、それより高い周波数では、コンデンサのリアクタンスが減るので、オクタープ当たり6dBの割合でアースヘ落としてしまう事が解かる。
この計算で、1/2π=0.159を使えば計算が簡単になるが、理屈も解らないのに、こんな事をするのは、あまり賞めた事ではない。面倒でも、計算式通りにやってみる癖をつけるのが良いと思う。この事が、良い音で音楽を聞くのに、一番確実な方法である。