06.21
ステレオ装置の合理的なまとめ方 その13 パワーアンプその2-2
発振について
上記のようなテスト以外でも、パワーアンプに10kHz以上の正弦波または方形波に入れて、その出力波形を見るだけでも、もしその発振状態がひどい場合には、少々オンポロのオシロスコープでも発見する事が出来るので、自作アンプは勿論の事、メーカー製のものでも、スピーカにつなぐ前に、必ずその波形を観察する事をおすすめしたい。
残念ながら、今までに観察した発振アンプのオシロスコープ写真を保存していないので、第39図にその代表的なものを示しておく。こんなアンプでもその症状がかなり重症でない場合にはピーとかギヤーとかシーといった音が聴こえない場合が多いので、気がつかずにいる人が多いが、少し馴れて来ると、その再生音がにごっている事が解るようになる。甚だしいときには、ピュッピュッといった音になるものもある。
こんな事を書くと、ハンダ付けがまずいために起こる、プツップツッとか、サーとかいうノイズまで、これは発振だと決めつける人がある。私のところへ御質問を寄せられる方の中に、こんなのが時々混じって来る。
一例を上げると『クリスキットマークⅥカスタムが出来上がって、その音質の良さは大いに気に入ったのだが、スイッチを入れ、10分ばかリボソボソというノイズが、PHONOに切り換えた時にだけ出て来る。10分もすれば出なくなるのだが、その発振の原因を教えて欲しい』と書いて来られた。多分、その方の傍には、自称先輩がおられて、生かじりのオーディオ論を吹き込み、これは発振である、なんて教えたのであろう。
お返事を差上げて、プリント基板のハトメラグ端子のところへもう一度ハンダを盛ってもらったらピタリと止まると、まるで病気を治してもらった方が、名医にお礼をのべるような調子でお返事をいただいた事がある。
アンプに灯を入れて、暖まって来ると、接触不良の箇所がくっつくので、ノイズが止ったわけである。こんな生兵法先輩には、発振が聴いていやな顔をしているかも知れない。
アンプは4台も作ったから、アンプの事なら何でも解ると言う、先輩がかなりおられるので、こんな方々のアドバイスはあまり聴かないほうがよろしい。こんな手合いに限って、測定器の使い方も知らないのが多いものだ。
歪率について
パワーアンプを、測定器を使って分折(Analyzing)する方法の一つに歪率がある。
カメラに詳しい方なら御承知の事と思うが、 レンズには収差(aberration)というものがあって、そのために、ピント(focus)がポケたりするものである。これは、光の屈折を利用して、レンズが作られているからで、その屈折のときに起こる球面収差(Spherical aberration)とか色収差(Chromatic aberration)及び、オシロスコープなどで取り上げられるアスティグマテイズム(Astigmatism)つまり、日本語にどう訳されているのか知らないが、(0ff-axis aberration)がある。(第40図参照)
〔第40図〕の注
Astigmatism. This is the most difficult phenomenon to eliminate. Light from a distant point subject passes through the lens and forms two separate line images. The image further from the lens is a line which points toward the axis of the lens. This is the “sagittal” focus. The image nearer the lens is a line at right angles to the sagittal image. This is called the “tangential” image. It is tangent to a circle around the axis.
他にコマ収差(Coma aberration)や、糸巻型歪、タル型歪(Distortion)などもあるが、今ここでカメラの講義をしようと言うのではない。この(Distortion)という言葉の説明をしたかったのである。
一般に良いレンズはこれ等の収差が少ないものである。といっても、収差が少なければ良いレンズであるも言とい切れない。集積回路などを、リングラフィ(多分、「リソグラフィ」だと思われる)(lithography)法でフォトマイクログラフィ(photomicrography)により作成する時に使われる、アポクロマート(Apochromate)と呼ばれるレンズなどは、正確にもとのパターンを縮少して行くためのものであるからひずみがあると、正確なICが出来ず何枚か重ねてフィルム撮りするときにズレが生ずるので、使いものにならない。
といって、こんなに正確なレンズでも、美人のポートレートには使いものにならないもので、適当なボケ味もなければ、良いレンズとは言えないものがある。
アンプのひずみもこれに似たものがある。
ひずみ(=distortion)は、どんなものにでも存在する。材木を切って、板を作って置いておくと、反って来る。ひずみである。安物の板ガラスを張った窓から外を見ると、景色なり通行人がゆがんで見える。これもひずみである。
音にだって同じようにひずみが存在する。この音はひずんでいる。良く言われる言葉である。ひずんでいると言われる限り、先程の例と同じように、“もとの形や音ゆがむことを指すのに違いない” と私は考える。私でなくたってそう考えると言われるかも知れない。だとすると “その方に元の音を知っていてそう言っているのか” と私は聴き度い。音楽会に一度も行った事がなく、生(なま)の音を聴いた事のない方が『再生音を聴いて、この音はひずんている」といった表現をされるから、私はそんな方々の事をマニアと呼ぶのである。
どだい紙の振動でバイオリンの音を出そうという方が間違っているし、四畳半のリスニングルームに、ベルリンフィルハーモニー全員を入れよう、という考えが、始めから無理なのである。といってしまえば身も蓋もない事になるが、音楽会だって日本ではそうしよっちゅう行くわけにも行かない。そこで、少しでも楽しく、家庭で名曲に親しもう、 というのが、 この『オーディオリスナーのための装置のまとめ方』の目的であり、クリスキットもそういった私の願いから生まれたわけでアある。
だから、今自分が使っている装置からもしひずんだ音が出たら、或るいは満足出来ないものがあったら、それを理論的に追及して行こうというのである。ステレオが科学という理論から生まれたものである限り、理屈抜きではその問題点は解決出来ないのは当然の事である。
といって、あまり理詰めでものを考えるのも考えものである。日本のスピーカに、すべて周波数特性のグラフがついているが、外国のものには、殆どそんなものがカタログには出ていないものである。JBLでも、アルティクランシングでも、工場研究室ではこんなグラフは作っているのだけれど、カダログには、載せる必要がないから、印刷していないのである。『日本人はデーター好きである』とは誰かが言った言葉である。
重箱の隅をつつく、という諺がある。爪揚子を使って、四隅をきれいに掃除をしたのは良いが、真ん中に穴があいていて使いものにならなかったら何のための掃除なのか解らないことになる。英文法の屁理屈には詳しいが、外人としゃべる事が出来なければ、何の役にも立たない。だから、教授以外の職業につけないのであろう。くどくどと書いたが、歪率という事柄について考えるのに、その本当の意義を考えないで、その理屈も解らない者が、カタログに出ているグラフだけを見て、そのアンプの性能を判断したり、そんなマニアを煙に巻こうというメーカーの塊胆に警告を発したかったのである。
そして、マニアと呼ばれて、その気になって、オーディォの泥沼につかっている人々に呼びかけたかったのである。