06.29
ステレオ装置の合理的なまとめ方 その15 スピーカシステムその1-1
チャンネルディバイダとネットワーク
もし一本で、最低音から最高音まで、出来るだけ原音に近い音で音楽を更生(「再生」が正しい)してくれるようなスピーカがあったとしたら、オーディオ用スピーカの問題点は、はるかに少ないものになる。
金属性のものもあり、木管から出来上がったもの、金属の絃を使ったものガット(gut)又は、ナイロンの線を弾いたり、弓でこすったりして音を出すもの。楽器の振動源は実に様々で、それが混全一体となってハーモニーを作り上げ、音楽を作り上げて行く。
紙というか、パルプを原料としたコーン形スピーカを例にとって考えて見ると解るが、これ等、種々雑多の音質を、一枚の紙の振動で作り出そうと云うのである。スピーカというものは、設計製作者にとって、実に複雑怪奇なしろものなのである。
同じ一枚の紙の振動で、ストラデバリの音が出たり、オモチャにに(「に」がひとつ不要)近いヴァイオリンの音との違いがハッキリ解る。考えて見ると、誠に不思議な現象である。しかも、その一枚の紙の振動で、百人近い人々の奏でるいろんな違った楽器の音を出そうと云うのであるから、物事あまり理論に走ると、つかみ所のない所迄、行ってしまう可能性がある。
私個人の考えで結論を出すのは、いささか危険ではあるが、今迄に耳にしたスピーカでシングルコーンで下から上迄、満足な再生音を出すものは見当たらない。
物事シンプルに、というモットーを持っている私の事だから、こんなのがあれば早速、買い込んだと思う。スピーカシステムに余分のトラブルが出なくて済むからである。
残念な事に、私の耳は、ホーン形スコーカに買い(「飼い」の間違い)馴らされている。トランペット等の金属楽器、ピアノの絃。それ等の音の生々しい再生音。ホーン形スピーカの魅力は捨て難い。と云って馬鹿でっかいコンクリートホーンの為の煙突を付けたり、床下にコンクリートダクトを仕込むのは、これから新築する時でさえ少々馬鹿げている。となると、低音はコーン形ウーファー、そして、その上の周波数はホーン形スピーカと云う考えから、私は自分の装置をまとめた訳である。
当所3WAYから出発したのに深い理由はない。そこに山があるから登るんだ、という考えがあるように、Woofer、Squaker及びTweeterという言葉に従ったまでの事である。いってみれば実に単純な考え方である。今になって反省してみると、人の事をマニアといえた話ではない。
2より3の方が良い、という事は真理ではない。2で済むものを3にしたとすれば、という考え方に問題がある。
日本の製品の中には、スーパートウイターというのがある。
20,000Hzょり高い音を再生する、とカタログに書いてある。仮にそれが本当だとして、実際にその音が人間の耳に聴こえるとしても、その為に3WAYに割った音の上に、更にスーパートゥイターをのっける事により、他に問題が起こりはしないだろうか、 という事を、読者の方々と共に考えてみたい。
最初にシングルコーンー発で何とかならないものか、と述べたように、抵抗やコンデンサで、あるいはコイルやコンデンサで音を割る事が、音の濁りの原因になっていない、という約束はないのである。
これ等の素子が、単に音のもとになる交流信号の流れを妨げる(impede)だけの働きだけではなく、交流がコンデンサを通ると、位相が遅れ、コイルに流すと進む。これは誰が何といおうと厳然たる事実なのである。その事を考えると四つはおろか、三つに分割する事に対しても、私は抵抗を感じるのである。
性能が同じであれば、原理なり、仕組みは出来るだけ簡単な方が良い。複雑なもの程良いと考えたり、高価なものの方がすぐれていると考えるのは、劣等感の現われである。ひどい言葉を借りて云うならば、精神的かあるいは肉体的に欠陥を持つ人々が、陥り易い悪癖だと私は思う。
メーカーにとっては商売。マニアであろうが阿果であろうが、金を払って買ってくれるとなりゃ、物も作るし宣伝もする。現代の化学の常識から全温度チェアー(「全温度チアー」だと思われる)でなくたって、洗剤の大部分が、湯でも水でも溶けると解っていても、宣伝の力があれば売れる。そして全温度チェアー(同上)でなければ、水はおろか湯でも溶けないような気になるものである。まして化学的知識に乏しい人々にとっては、その宣伝たるや抜群の威力を発する事になる。
スーパートゥィターをくっ付けたら音がガラッと変わった、とおっしゃる。そしてまた数ケ月経ってアンプを買い変えたら、再びガラッと音が変わるのである。こんなに度々、ガラッと音が変わったら、もとの音がとっくの昔になくなって、ヴィオラがヴァイオリンのような音になってしまうかも知れない。
見出しにも書いたように、チャンネルディバイダか、ネットワークか、という事は、もう既に語り尽くされた話題である。正直いって、私にはどちらが良い、と決めつけるだけの根拠はない。けれど常に私はネットワークを勧めているし、自分でもそのシステムを採用している。理由は二つある。
まず、私には、さすがはマルチアンプだ、と言うシステムを作り上げる自信はない。今乞に、さすがにマルチアンプだと感じたシステムに、お耳に掛かった事がない、と言うのもその原因の一つなのかも知れない。
もう一つの理由は、ネットワークの方が、はるかに簡単で、無駄な経費や維持費がいらない上に、最初に述べたように、両者は一長一短で、どちらにもその良さがあるとすれば、簡単にその良さが得られるのなら、簡単なものの方が良い、と言う理屈が成り立つ。どちらにも、決定的な良さもなければ致命的な欠点がないとすれば、私はその二つの内で、簡単でトラブルの少ない方を取る事にする。
だから、大勢のクリスキットの愛用者の方々から、マルチか、ネットワークか、と相談を持ちかけられると、決まって、問題のないネットワークをお勧めする事にしている。マルチアンプの方が、少なくとも、クリスキットが一台でも余計に必要になり、それだけUNITEの売り上げが増え、それだけローヤリティも上がるのだけれど…。
まして、測定器もロクに持ち合わせずに、回路理論にも余り明るくないアマチュアが、ただ、格好良いという理由からか、余り当てにならない先輩に勧められたから、という理由だけでマルチアンプに取り組む気になったとすれば、お気の毒な話だが、その人は泥沼町一丁目あたりをうろついている、マニアのサンプルになる資格充分な人だと思う。
まして、テスター丁で作り上げた管球式パワーアンプが3台になってしまったので、マルチアンプにしてやろうというのに致っては、仕末が悪いという他はない。そんなのに限って、チャンネルディバイダの適当な製作記事が見当たらないので、という事でメーカー製の安物のディバイダーを買い込む。ハムが出るやら、音が濁るやら、定位が決まらなかったり大弱り。
勿論、それも道楽の一つ。あっしには、カカワリ合いのねえ話で……。
ネットワーク
私と同じように、パワーアンプ1台で、2WAYなり3WAYのスピーカシステムを自作しようという方々に、ネットワークについて説明をする。
以前に述べたように、ネットワークによるマルチウェイとなると、このネットワークが充分吟味されたものでなければならない事は言うまでもない。と言って人を馬鹿にしたような値段のメーカー物は論外で、高価なものすなわち高級であると思うのは大間違い。といって弁当箱を思わせるような安物は、私が過去に使った経験からお勧めしたくない。
結局、自作するのが一番合理的な方法である。しかし、コンデンサの方は後に述べるように余り問題はないのだが、コイルが少々難物である。
何でも自作でやってのける筆者の事だから、一度コイルを自分で巻いてみたのであるが、1m/m~1.2m/mφのエナメル線を奇麗に巻いてコイルを作る事はなかなか難しいものである。という事で、トランスメーカーに頼んで、お手のものの巻線機を使って、2、3個作ってもらった。
さすがに専門家が専門の機械を使っての仕事である。写真25で見られるように、アマチュアの手巻きによるものとは比べものにならない程、非常に奇麗でしっかりしたものが出来て来た。
ひとりひとりの御要求でいちいちメーカーの手を煩わしてまで、読者の方々のお手伝いをするのも大変なので希望者が多ければ、例によって、一つ一つヘンリー数を実測して、次に述べるコンデンサと共に、パーツセットにしても良いと考えている。参考迄に御意見を葉書きででも、神戸港郵便局私書箱31号迄よせていただきたい。
コンデンサの方は、比較的話は簡単である。良く極性のないオイルコンデンサでなければならないという話を聴く。これは一種のジンクスみたいな物で、電解コンデンサのように極性のあるものは勿論いけないが、写真に見られるような、箱形のオイルコンデンサでなければならないという理論上の裏付けはない。
これは、念の為に、コンデンサメーカーの専門家の方々に尋ねたので間違いはない。
従って、要望があれば先程のコイルと共にパーツセットにすれば、アマチュアの方々のお役に立てるものと考えている。パーツセットにより自作するとなると、人を馬鹿にしたようなメーカー物の何分の一かで、立派なものが出来上がる事になる。
問題は、何ヘルツで切るか、という事に話がしぼられる事になる。
これがなかなかの難問である。公式か何かがあって、何立方米の部屋で、何センチのスピーカを使う時には、クロスオーバー周波数を何ヘルツにするてな具合には行かないから、仕末が悪い。
ところが、幸いな事に、それぞれのスピーカには、その使用周波数範囲が明示されているので、ネットワークの設計の折りに、そのクロスオーバー周波数を大体決める事は、そんなに難しくない。例えば、 500~18,000Hzの範囲で使えるスコーカーがあったとする。解り易くする為に、これをグラフに表わすと、第48図のようになる。勿論スピーカの周波数特性は、こんなに滑らかではないが、説明の都合上、 こんな風に画いた訳である。500Hzから18,000Hzというとかなり広い範囲をカバーするように見えるが、図でも解るように、両端が下っているので、ギリギリに使うのは、スコーカーを壊す壊さないはともかく音質上、あまり感心しない。