07.26
管球式プリとソリッドステートアンプ用 アッテネータの製作 2
ついでであるが、本誌6月号に述べた二連型ボリュームコントロールの、ターミナルの向きについて述べる事にする。
クリスキットの大勢の愛好者のおかげで、最近になって、やっとメーカーのコスモスが、私の要求を受け入れてくれて、写真5にあるような、ターミナルの向きがアベコベになっているものを引き受けてくれることになった。
本稿が誌上に出る頃には、ユナイトから出ているクリスキット マークⅥカスタムのパーツセットに入れるようになると思われるので、あらためて、同機のフロントパネル部の配線要領について、最も確実に、しかも仕上がりがきれいになる方法について述べる事にする。
毎日平均一通の割りで、読者の方々からお便りをいただくが、それ等のお礼状などに混じって入って来る御質問の大部分が、クリスキット マークⅥカスタムのフロントパネル部の配線についてである。
今迄に、一台でもアンプを自作された方なら、何でもなく出来上がるのだが、最近になって急に需要が増えて来たせいか、ハンダごてはおろか、テスタなるものを使った事がないという方々が、マークⅥ カスタムをお作りになるケースが多い。手前味噌で恐れ入るが、 こんな方々にでも、ちゃんと予定通りの音の出る立派なプリアンプが出来上がる。けれども、折りにふれ、こういったアンプを拝見する度に思うのだが、もう少しすっきり出来る筈でその配線の要領が解れば、誰にでも、もっと奇麗に出来上がると思う。その方が、後日出るかも知れないトラブルを未然に防げる事はいうまでもない。あれだけお勧めしても、回路図及び、それを実際の配線要領通りに画き換えた実体回路図を見ないで配線する方が多い。実体配線図と首っ引きで、それに色鉛筆で印を付けて、このピンからここを通って、どのスイッチの何番ピンヘといった具合に配線して行く。勿論これでも立派にアンプは出来る。
グルマ坊や用の6石スーパならともかく、こんな方法は最高級のプリアンプ作りには、お勧めしたくない。ものの理屈を考えないで、ものを作ったのでは良いものが出来るわけはない。だから、自分で作ったものに自信が持てなくて、その上、測定器もなければ、理論も解らないとなると、果たしてうまく行っているのだろうか、という事になり、カートリッジがこわれていて左側の音が出なくなったのまで、自作のアンプのせいではなかろうか、 という事で、せっかく苦心して作り上げたものを、あっちを外し、こっちの部品を取り換え、しまいには、訳が解らなくなって、私の所へ尻を持ち込む。あまりほめた話ではない。
ファンクションスイッチには、かなり大きなシールド板が二枚付いているので、パネルに取り付けてからだと、ウェーファー(Wafer)のピンが隠れて見えなくなり、配線がやりにくい。だからこのスイッチは、前以て配線しておく。シールド線は芯線が細いため切れ易いのでTuner、Tape及びAux.への線は、それぞれ30cm位に切ったものを、4月号68頁の図に従って配線した上で、チャンネル毎に3本まとめてモノフィラメント(ビニール製の細ヒモ)でしっかりと東ねておく。
星電パーツの浜田氏が、自家用に組み立てた時、片側音が出ない、というので大騒ぎ、よく調べたら、シールド線の芯線の出し方が足りなくて、シールドの一本が信号線に触れているのを見つけたのは良いが、せっかく奇麗に出きたものを、あちらこちらハンダ付けを外してやり直し。お客様に注意するのと、自分で組み立てるのとでは、ちと条件が違うと見える。
内緒の失敗をバラすつもりは毛頭ないが、同じような失敗をした方々を何人も知っているので、念の為に述べたまでである。
マークⅥカスタムのパネルの配線法
ここまで出来たら、この頁の左側に入れておいたゲージのコピーを作る。ゼロックスなどで多少コピーが縮むものもあるが、実用上差し支えないと思う。(小西六のユービックスは正確に現寸のコピーがとれるので、近所にコピーサービスがあれば利用すると良い)
このゲージを写真6のようにフロントパネルの内側上部に、左の端を合わせてセロファンテープで貼りつける。ゲージに示した番号が、信号基板の手前のピンの番号の位置とに合わせてあるのは、フロントパネルのみを外して配線する折りにそれぞれの線を持って行く場所が解るように考えたからである。
(ゲージの番号に二重丸がある所がシールド線の印である)
パーツセットを購入された方からのお便りで、線の長さが書いてないので、と言って来られる方が多い。そんな方には、 このゲージが役に立つと思う。
(ゲージのコピーが作りにくい方は、郵便切手50万円〔恐らく「50円」の間違いだと思われます〕送っていただければ、コピーを作ってさし上げます)
例えば、ローブーストスィッチ(S-5)の0番ピンにつなぐ線は実体回路図で解るように、信号基板の18番ピンにつながるように設計されているので、スイッチヘハンダ付けした線をウェーファーとフロントパネル上縁との中点で右へ折り曲げて、ゲージの18番まで導いて、そこで再び手前へ折り曲げて60m/m残して切り取る。このような作業を各スイッチとバランス、ボリュームの順に進めて行って、全部が出来上がってから適宜、モノフィラメントで結束しておけば、後でフロントパネルを本体に組み付けてから、パネルからの線を信号板へつなぐだけなので、誰がやっても、奇麗に仕上がる。第7図にフロントパネル部分のみの実体回路図を示して置いた。参考になれば幸いである。ややこしくなってもいけないので、片チャンネルのみ示してあるが、もう一方(下側)は同じ要領で配線すれば良い。
これで解るように、ボリューム、バランスは、写真5にも示しておいたように、向きがアベコベになっている方が、仕事もやり易いし、チャンネルセパレーションの為にも良い。面倒な特注に対して御協力をいただいたコスモスの中村氏に誌面を借りて心からお礼を言いたい。
アッテネータを付ける方は、ボリュームの代わりに取りつければ良いので別に説明の要はないと思われる。勿論このアッテネータは、仕上がった後からでも、所定の位置に、ポリュームを外して入れ換えられるように設計してある。
ついでのついでに、(誠に妙な日本語であるが)アッテネータの記事のついでにプリアンプのフロントパネルの事を書いたついでに、マークⅥカスタムの残留ノイズの改良について少々述べる事にする。
今迄に、内外一流のプリアンプ(プリメインも含めての話)と比べた上で手前味嗜ながら、それらのどのアンプよりも、マークⅥカスタムの方が、残留ノイズは少ない確信を持っているがノイズなんてものはたとえそれがごくわずかなもので、深夜スピーカに耳をくっつけなければ聴き取れないものであっても、なお少なく出来るものであれば、少ない程良い事は当然である。
特に、マークⅥカスタムでは、ハムと呼ばれる低域雑音がゼロに等しい所迄なくしてあるので、真空管では、殆ど止むをえないようなフリッカーノイズ、ショットノイズ等を何とか消せないものか、と考えたわけである。中には、トランジエントの悪いスピーカがあって、増幅率の高い真空管からの高域ノイズが比較的目立つものもあって今迄に解った所ではスピーカの過渡特性が悪いためだと思われるパイオニアCS―R70、PAX―A20、 PE-16の二つのスピーカだと、よっぽど高域特性の悪いパワーアンプを使っている時は別として、前述のようにスピーカに耳をくっつけなくても聴こえるものもあると見えて、今迄に7人の方々から相談を持ちかけられていた。
札幌市の菊地氏も、その内の一人で今から述べる改良法を実行する以前にダイアトーンのスピーカに取り替えて止まったという事ではあるが、出来れば、少々オンボロのスピーカでも深夜耳をくっつけなければ聴き取れない程ノイズを減らす事が出来れば、文字通り、ノイズフリー(Noise free)のプリアンプが出来た事になる。最高級の音質という定評をいただいているのだから、ノイズの方も世界一少ないものに仕上げたいという私の念願がかなった事になる。
能書きはそれ位にして、改良点について説明する。第8図がその理屈である。
現在迄の、市販品(管球式)高級プリアンプの殆どすべてに使ってある回路を左側に示してある。
クリスキット マークⅥ (驚いた事に、これがローマ数字の6である事を御存じない方が、本機の愛好者の半分位おられる)カスタムでも、この回路を採用してある。
当初、これは、回路からコンデンサを一個でも省くためだと思っていたのだが、いろいろ調べて見ると、部品節約によるコストダウンである事が解った。そこで、同図の右のように改良したわけである。管球式である限り、全段直結にはならないのだから、ここんとこでコンデンサが一つ入ったって、音質には何の影響もない。
手持ちのマークⅥ カスタムを、このように改造するのはわけのない事で信号基板(1973-8370)の8番ピンのターミナル、つまりV4のGへつながる所と、その隣にある3.9kΩの抵抗のアース側との間に1MΩのノイズレス抵抗で橋をかける(やりにくければ、3.9kΩのアース側の代わりに50pFのアース側を使っても結果は同じである)。
勿論、左右チャンネル同じようにする。
次に8番ピンと24、25番ピンの間に入っているジャンパー線を中央で切って、その間にO.22μFのフィルムコンデンサ(部品は両方共、クリスキットの取り扱い店で入手出来る)を入れるだけで事が済む。
勿論、今後のパーツセットには、 これ等の部品は追加されているし、プリント基板も変更されている。
価格据え置きで、これ等の改良に応じてくれたユナイトに感謝したい。
このように改良したもので、デンオン103を昇圧トランスなしで、かなりの音量で鳴らして見たがJBL LE14AとLE175DLHからは、ほとんどノイズが出なかった。日頃、果れる程の懲り性も、こうなると案外役に立つものである。
以上、電波技術 1974年11月号
(大道注)ゲージは、プリントアウトしても正確な寸法にならない恐れがあります。まあ、この記事をもとにアンプをお作りにある方はいらっしゃらないと思いますが、念の為です。