03.21
クリスキットユーザーがまた1人、桐生で増えました。
朝から、クリスキットの据え付けにいってきた。新しくユーザーになったのはN工業を経営するNさんである。
Nさんとは記者時代の取材を通して知り合った。しばらく付き合いは途絶えていたが、最近の飲み友だち、東京から越してきたMさんが
「N工業の工場を見てみたい」
といいだし、あのO氏も加えて工場見学に行ったのは、かれこれ2年ほど前だったと記憶する。以来、Mさん、O氏らと不定期に開いている飲み会にNさんも加わり、飲み会仲間が広がった。
いまやO氏もMさんも、私の勧めに従ってクリスキットのアンプをヤフオクで購入、あわせてネットワークオーディオの友となり、私がリッピングした音楽コンテンツを差し上げる対象となった。ちなみにMさんは、クリスキットの音にすっかり惚れ込み、間もなくタンノイのスピーカーを購入(桝谷さんが「絶対に買ってはならないスピーカー」としてタンノイを挙げていることは、Mさん宅のタンノイを見るまで彼に伝えるのを忘れていた)、音楽を楽しんでいる。
考えて見ればO氏は当初、クリスキットを勧めても
「俺、音の善し悪しなんて分からないから」
と私に追随することを峻拒していた。その彼にネットワークオーディオを導入させ、クリスキットを購入させ、あわせて映画の楽しみを教えたのは私である。さらに、
「俺は国産車党」
といって憚らなかったO氏の車はいま、かつて私が勧めたBMW(もちろん中古)である。
Mさんにクリスキット、ネットワークオーディオを勧めたのも私、中古ならBMWが安く買えることを教えたのも私である。
私の追随者が2人。
Nさん宅に向かいながら、
「私は桐生における文化の伝道者である」
とMさんに向かって宣言したら、
「そう、BMWを教えてもらって本当に良かった」
とおっしゃった。彼は音楽より車の方が好きらしい。
それはともかく。
N工業社長のNさんが、
「俺もこれが欲しいな」
と口にしたのは、Mさん宅で昨秋開いた飲み会でのことだった。とりあえず腹が膨れると、音楽室に席を移して音楽を聞くのがこの飲み会の定番である。そこで、クリスキット、タンノイの組合せで音楽を奏でるネットワークオーディオにNさんはいたく興味を惹かれたらしい。
「いや、うちにもステレオがあるんだけどさ、最近調子が悪くて」
との話だったので、Mさん、O氏、私が口をそろえて
「それならアンプはクリスキットにして、ネットワークオーディオにしましょう」
と半ば押しつけた。
そして、我々の役割を分担した。
Nさんはすでに80歳近い高齢である(なのに、私とは6歳しか違わない。何となく計算が狂っているような気がするが……)。ネットでの買い物は難しかろう、と考えたのである。
そこで、すでにクリスキット、タンノイのスピーカーと立て続けにヤフオクで落札しているMさんに
「貴方はヤフオクでクリスキットを落札して下さい」
とお願いした。
O氏には、ラズベリーパイと組み合わせるDACカードの購入を頼んだ。いま手に入る中では最高の性能を持つと思われるTerra-Berry Dac3である。これをラズパイに差し込めばネットワークプレーヤーが出来上がる。私がMさんに譲ったシステムは、1つ古いTerra-Berry Dac2だったが、3には旭化成のAK4493が使われている(2はAK4490)。折角クリスキットを使って音楽を聞くのなら、最高の音にしたい。
私が受け持ったのは極小コンピューター、ラズパイと、音楽を貯め込むHDDである。
Mさんは無事、6万円弱でクリスキットのプリとパワーを落札してくれた。O氏も私に何度も促されてDACカードを買った。さて、これで準備は整った。あとはラズパイ、と私が行動を起こしたとき、ラズパイが市場から姿を消していた。世界的な半導体不足のあおりである。
何でも、世界の半導体工場のいくつかで事故が起きて操業がとまった。新型コロナウイルスの世界的流行で需要減を予測した半導体メーカーが生産調整に入った。ところが需要は減るどころか逆に増え、あわてて増産に移ろうとしたが、すでに労働者はレイオフしており、それを呼び戻そうとしたらコロナのために必要人員が集まらなかった。コロナは物流にも悪影響を与えている……。
とにかく、いくつもの要因が重なっての半導体不足だと言われる。当初は
「2022年には復旧する」
といわれていたが、時がたつにつれて復旧見通しは後ろ倒しとなり、いまや2023年にずれ込んだそうだ。
ありゃま、である。ネットでは、かつては4千数百円で買えたラズパイが2万円を超している。今日を見込んで買いだめていた不届き者がいたようである。不届き者に金儲けをさせることがあってはならない。私は復旧を待つことにした。Nさん宅のネットワークオーディオシステム化は頓挫した。とにかく、ラズパイが市場に出回るまでは打つ手がない。
ということはNさんにお伝えして了解をいただいていた。
しかし、すでにアンプはある。Nさん宅のステレオは不調である。加えて、Nさんは高齢である。グズグズしているのはいかがなものか、と考え出したのは3月に入ってからだった。
そこで15日に開いた例の飲み会で、Nさんに提案した。
「とりあえず、CDで音楽を聴けるようにしたらどうでしょう?」
という流れがあって、今日のクリスキット設置となった。
Mさんが、落札したクリスキットをご自慢のBMWに積んで我が家に来たのは午前9時半である。これに私は、工具セット、ハンダごてセット、念の為にクリスキットのパーツ、そして使っていないCDプレーヤーを積み込んだ。前の3つは今日の作業に必要なものである。CDプレーヤーは
「いや、うちにもあるでぇ」
とNさんはいっていたものの、何となく一体型ステレオではないかとの疑いを持ち、そのCDプレーヤーが使えないときに備えるものだった。必要がなければまた車に積んで持ち帰ればよい。
到着して応接間に誘われると、まあ社長宅とは思えない貧弱な一体型ステレオセットがあった。確かにCDプレーヤーも一体の中に組み込まれているのだが、アウトプット端子がない。つまり、このCDプレーヤーはクリスキットには繋げない。
プリ、メインを設置し、私が持ってきたCDプレーヤーをつなぐ。このセットに付属しているのだから、スピーカーもろくなものではない。だが、Mさんも私もスピーカーの手持ちはない。とりあえずこれを使うしかない。
セットを終えると、無事音楽が流れ出した。
「うわ、なんだか音楽に奥行きができたようやわ」
とはNさんの発した言葉である。
「このスピーカーでこんないい音がするとはねえ」
とはMさんの感想である。随分使い込まれた様子のクリスキットは、まだまだ十分に現役で活躍できる音を出してくれた。
「ありがとう」
Nさんは机の引き出しから、見たところ10枚ほどの1万円札を取り出し、Nさんに渡そうとして。クリスキットの代金+お礼の気持ち、ということらしい。しかし、ことは友人ベースで進んできたのである。代金をいただくのは当たり前だとしても、+お礼の気持ちは受け取るわけにはいかない。Mさんと2人、なんとか押し返し、
「それでも」
というNさんとの間に私が入って、
「じゃあ、6万円にしましょう」
で手を打った。
私が持参したCDプレーヤーは、これがなければNさんは音楽を聞くことが出来ない。聞けば
「買い取りたい」
とおっしゃるので、Mさんに
「2万数千円で買ったやつだけど、いくらだったらいいと思う?」
と意見を聞き、
「1万円!」
というMさんの言葉に素直に従った。
さて今頃、あの応接間でNさんは音楽に耳をそばだてているのだろうか?
見たところ、CDは「世界のムード音楽」「吉永小百合」など、まあ、そんなものが3、40枚あった。ふむ、これがNさんの好みらしい。が、ネットワークオーディオのシステムになれば、我が家にある6500枚分ほどの音源をそっくり持ち込める。Nさん、それまでお待ち下さい。音楽の世界が広がりますぞ!
といいながら、
「それまで、CD-Rで音楽を増やしてあげようか?」
とも考えている私である。