08.19
愛車が鉄の塊になった話
今朝、我が愛車であるBMW X2が単なる鉄の塊になった。スターターボタンを押しても、
スン…スン…スン
というばかりでエンジンがかからなかったのである。
車というものは、走って、曲がって、止まってこそ存在価値がある。止まりっぱなしの車など、迷惑な鉄の固まりに過ぎない。
しかし、どうしたのだろう? 昨日までは快調に走っていたのに。とは思うが、そんなことより、一刻も早く、止まるだけでなく、走って曲がる車に戻さねばならない。
この中古車を仲介してくれた沼田屋に電話を入れた。
「何か、バッテリーが上がったみたい。エンジンがかからないんだわ」
車の救急車に駆けつけてもらい、その車のバッテリーから電力をもらえば走り始めるはずだ、と軽く考えていた。とっころが、である。
「大道さん、いまの車のバッテリーは容量が増えて、それではエンジンがかからないことがあるんですよ。そうなると車を工場まで運ばなければなりません。そうすればかなりの費用がかかります。車の保険に入っているでしょ? まずそこに電話を掛けてください。そして、バッテリーが上がって困っている、といってください。そうすれば、車を牽引する費用は保険から出ますから」
へー、知らなかった。そういうものであるか。
保険会社に電話をした。確かに、15万円までの牽引費用は保険から出るのだそうだ。それを沼田屋に伝えると、やがて車を積み込むことができる大きなトラックが我が家に横付けになった。沼田屋のレスキュー隊である。
トラックを運転してきたお兄ちゃんは、まず車から降ろしたバッテリーと、我が車のバッテリーを繋いでエンジンをかけてみた。だが、ウン、程度しか反応がない。
「あー、やっぱりこれじゃだめなんだ」
次にお兄ちゃんはトラックのバッテリーと我が車のバッテリーを接続した。トラックのエンジンはかけっぱなしである。それで始動を試みる。
「あー、これでもだめか」
そういいながらお兄ちゃんは、2つの車の接続を外そうとはしない。
「かからなかったんだから、無駄じゃないの?」
と聞いてみた。すると
「いや、いま大道さんの車のバッテリーに充電しているんです。それなら何とかなるかもしれないので」
充電が進むまでしばらく暇である。そこで、どうしてもエンジンがかからなかった時はどうするのか、聞いてみた。
「助けを呼んで、みんなでBMW X2をトラックの荷台に積み込みます」
えっ、そんな、人力でBMW X2をトラックに荷台に押し上げるなんて無理でしょ! だって1.7トンぐらいあるんだぜ!!
「いや、積み込む時は荷台をほとんどフラットにするので大丈夫ですよ」
そうなのか。
ところで、工場に持ち帰ってどうするの?
「そうですねえ。バッテリーを交換するのが一番確実かと」
なるほど、そうかもしれない。この車は3年落ち、1万4300㎞走行で買った。そして桐生に届いた時、エンジンがかからなかった。バッテリーが空になっていたのである。中古車になった後、かなり長い間売れなかったらしい。BMW X2は人気がない車種なのである。その間エンジンをかける人もなく、そのためバッテリーがすっからかんになっていたのだろう。
沼田屋ではバッテリーの交換を勧められた。だが、金を惜しむ私は、
「充電したら使えるでしょ。だって、まだ3年の車なんだから」
と主張し、バッテリーに充電してもらって使い始めた。
しかし、完全に空になったバッテリーは傷むと聞いたような気がする…。今回の騒ぎはそのためか?
だから、バッテリーの交換には同意した。せざるを得なかった。
ところで、バッテリーの在庫は持っていないでしょう。そうすると、これから注文して取り寄せることになりますね。であれば、その間私の車は使えないことになる。だが、ほとんど山の中腹のようなところに住んでいる私の暮らしは車なしでは成立しない。その間、代車はある?
「あ、そうですね。ちょっと聞いてみます」
お兄ちゃんは沼田屋に電話を入れた。
「明後日の朝からなら代車が空くそうなんですが」
いや、それでは私の今日と明日の暮らしが成り立たない。この山の中腹で逼塞してるわけにはいかないのだ。取材の予定も入ってる。
その瞬間、思いついた。あのO氏は複数の車を持つ。彼のBMW320dはあまり使われていない。あれを借りよう、っと。
「というわけでさ、バッテリーの交換が終わるまで車を貸して欲しいんだけど」
彼はすぐに我が家まで駆けつけてくれた。そんな次第で、いま我が家の駐車場には、白のBMW320dが止まっている。私が期待した通り、O氏は
「ああ、いいよ」
と車を貸してくれたのだ。
さて、私の車の話に戻る。それだけの手配を済ませると、私は自分でBMW X2のスターターボタンを押してみた。すると、何ということだろう、エンジンが快調に動き始めたではないか!
それを見届けて、私はO氏をご自宅まで送り届けた。その間、沼田屋のお兄ちゃんはトラックの荷台に、動き始めたBMW X2を積み込み、工場に戻ったはずである。
夕刻、沼田屋から電話をもらった。
「バッテリーは明日の夕方には届きます。工賃込みで6万円ほどです」
痛い出費ではあるが、仕方がない出費でもある。
バッテリーの急逝。自分の車を持って50年以上になるが、初めてのことである。ま、それでも明後日になれば快調に走って、曲がって、止まる愛車が戻ってくる。一日千秋の思いでその時を待つ私である。