私と朝日新聞 桐生支局の14 放射線の人体への影響

第2章 人体への影響

放射線の影響について、「直線しきい値なし仮説」というものがある。放射線は浴びないのがベストで、浴びれば浴びた分だけ悪い影響が拡大する、という考え方だ。0がベストで、1浴びれば悪影響が1出る。100浴びれば100出る。つまり、放射線を浴びた量とそれによる悪影響は正比例する、という仮説(あくまで仮説)である。
1958年、国連科学委員会(UNSEAR)で「原子放射線の影響」が採択された。この説を押したのは遺伝学者、反対したのは医学者だった。その後、ICRP(国債放射線防護学会)はこの仮説を採用した。

1958年夏、テネシー州オークリッジの米国立研究所のウラン精製工場で5人が被曝する事故があった。被曝量は300ラド=3グレイ=3~60シーベルトである。
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ここは少し難しいかもしれない。ラドとは、人体が吸収した放射線の総量を表す古い形式の単位である。最近は、グレイという単位を使う。1グレイ=100ラドである。
グレイを、新聞などでおなじみのシーベルト、つまり人体への影響を量る単位に直すには、放射線荷重係数をかける。これは、放射線の種類によって人体への影響が違うからである。

種類 荷重係数
X線、ガンマ線などの光子 1
ベータ線、ミューオンなどの軽粒子 1
中性子10キロ電子ボルト以下 5
中性子10-100キロ電子ボルト 10
中性子100-2000キロ電子ボルト 20
中性子2000-20000キロ電子ボルト 10
中性子20000キロ電子ボルト以上 5
反跳陽子以外の陽子でエネルギーが20000電子ボルト以上のもの 5
アルファ線 20
核分裂片 20
重原子核 20

まあ、私にも個別のことは分からない。ここは、放射線の種類によって人体への影響度が違う、ということを理解するだけで先に進む。
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放射線を浴びた5人は直後から吐き気、嘔吐に見舞われ、2、3日続いた。
それから10日間は何事もなく、2週から10週の間は、放射線の影響で骨髄が減少する期間にあたる。
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なぜ骨髄が減少するかはあとで出て来る。ここは、そういう時期なのだと思って読んでいただきたい。
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このため5人は25日~30日にかけて出血を見た。また、感染症にかかったのは10~15日と、30~34日だった。
40日で全員退院した。

1963年、中国で被曝事故が起きた。子供がコバルト60という金属を持ち出したために起きた事故で、6人が被曝した。
6人については次の表を見ていただきたい。

患者 E F A=女44歳 B=男20歳 C=女13歳 D=男39歳
平均線量
(ラド)
8000 4000 800 600 400 200
白血球最低
数/立方mm
100 55 55 297 213 6000
白血球最低の時期 10日 10日 25日 17日 28日 白血球の減少なし
出血 10日 8日 8日 15日 8日 なし
高熱 8日 8日 8日 20日 26日 なし
感染 + + + + + —
急性症状 小腸障害? 同左 骨髄障害(重) 同左 骨髄障害(中) 骨髄障害(軽)
脱毛 + + + + + —
骨髄移植 + + + + — —
治療結果   死
(12日目)
死
(11日目)
無月経 永久不妊症
生活正常
1男1女
(正常)
一時不妊

これが6人の急性障害である。
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これも被曝単位がラドになっているので分かり難いかもしれない。
ウィキペディによると、 コバルト60は、ベータ崩壊をしてニッケル60になる。このとき放出されるベータ線のエネルギーは0.318メガ電子ボルトである。そして、崩壊生成物のニッケル60がガンマ崩壊をして1.17メガ電子ボルトと1.33メガ電子ボルトの2本のガンマ線を放出する。
つまり、コバルト60ベータ線とガンマ線を出す。
これで計算すると、ベータ線もガンマ線も荷重係数は1だから

8000ラド=80グレイ=80シーベルト
4000ラド=40シーベルト
800ラド=8シーベルト
600ラド=6シーベルト
400ラド=4シーベルト
200ラド=2シーベルト

となる。
新聞で見るのはミリシーベルト、マイクロシーベルトである。ミリに直すには、これを1000倍する。80シーベルト=8万ミリシーベルト。ちょっと想像もつかない被曝線量である。
それでも、4人は助かっている。
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X線をマウスに照射する実験をした。X線の荷重係数は1である。
500ラド=5グレイ=5シーベルト以下では、マウスはまったく死ななかった。
800ラド=8シーベルトでは50%が死んだ。
8シーベルトを浴びたマウスに骨髄移植をすると、1匹も死ななかった。
900ラド=9シーベルトを浴びせると100%が死んだが、骨髄移植をしたら90%が生きた。

以上からいえるのは、中程度の被曝をすると、一時的に急性症状が出るものの、やがて回復するということである。ただ、性細胞だけは回復に時間がかかる。要する時間は白血球が回復する10倍ほどである。

白内障は、150ラド=1.5グレイ=1.5~30シーベルト以下では起きなかった。それ以上になると多発する。

染色体の異常は半永久的に残る。しかし、それが健康に影響があるかは別の話である。

放射線を浴びると短命になるという説に、今のところ証拠はない。

がん死亡率は、60ラド=0.6グレイ=0.6~12シーベルト以上被曝すると、被曝量に比例して増える。しかし、20ラド=0.2グレイ=0.2~4シーベルト以下の被曝では、全く問題ない。
放射線の種類によるが、200ミリシーベルト以下の被曝には問題はないと見られる。

チェルノブイリでも10ラド=0.1グレイ=0.1~2シーベルトではがんのリスクは全くなかったことが分かっている。

胎児に関しても、被曝リスクが最大になる8~15週の間でも、20ラド=0.2グレイ=0.2~4シーベルト以下は無害というデータがある。

奇形児に関しては、次のようなデータがある。

異常頻度(異常体個数/調査個体数)
調査した遺伝的異常 対象 被爆 親の被曝量
周産期異常 4.99 5 36
早期死亡 7.35 7.08 40
平衡型染色体再配列 0.31 0.22 60
性染色体異常 0.3 0.23 60
突然変異 100万分の6.4 4.5 41
遺伝性ガン 0.05 0.05 43

周産期異常とは、死産、奇形、新生児死亡
早期死亡とは17歳までの死亡
平衡型染色体再配列とは、全身の細胞に発生する染色体異常
突然変異とは、末梢血液細胞全体に見つかった変異遺伝子の割合
遺伝性がんとは、20歳までに発病したがんの中で、遺伝的要素が大きいと考えられているもの
数字は%である。

被曝量の単位はレム。100レムが1シーベルトですから、36レムは360ミリシーベルトである。

つまり、このデータは、被曝と子供の先天性異常には関係がないことを語っている。

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