昨日、大きなミスを犯した。「台風のごとく襲来し、台風のごとく去った。あかり」とタイトルに歌っていながら、書いたのは「襲来」だけで、「去った」を書かなかった。寝酒のウイスキーが適度に回り、昼間の疲れもあって中途半端な原稿になった。ごめんなさい。
ということで、今日は田植え本番を書かねばならない。
あかりたちは桐生市内のホテルに投宿していた。妻女殿の病が高進した結果、わが家には誰も泊めなくなったからやむを得ないことである。
田植えは午前8時半の開始である。長男たちは午前8時過ぎにわが家に来るようにいっておいた。遅くとも8時15分にはわが家を出たい。そのため、いつもは8時起床の私は、午前7時に布団を抜け出し、簡単な朝食を済ませ、朝のパイプ喫煙をやや少なめにしてあかりたちを待った。
この日は私の車で動くつもりである。そのため私の車を車庫から出し、長男の車が入るようにした。やがてやってきた一家は妻女殿に朝の挨拶をし、私の車に乗り込んで田んぼに向かった。わが家から10分ほどの道のりだ。
幸い雨は降らず、日差しもない薄曇りの日だった。これなら熱中症の心配はない。それでも念のために途中のコンビニで水のペットボトル買い、田んぼに到着するとすでに20人ほどの親子が田植え開始時間を待っていた。田植えをやりたがる親子がこんなにいるのか、と驚くが、なーに、あかりの一家だって同じである。ほかの参加者と違うのははるばる川崎市からやってきたことぐらいだ。
やがてMa氏による田植えの仕方の授業が始まった。
「これが苗です。これを3本ずつぐらい取って(苗は塊になっている)田んぼにぐっと差し込むだけです」
といった中身だったと思うが、あまりちゃんと聞いていなかったので自信はない。
やがて親も子も苗をもって田んぼに入り、ピンと貼られたロープに沿って苗を植え付けていく。わが家からはあかりとそのママがはだしになってヌルヌルした田んぼに足を踏み込み、田植えを始めた。
「どうですか、おじいちゃんも一緒にやりませんか?」
と声をかけてきたのは、この企画の主催者、あのO氏である。
「いや、私はシティ・ボーイだから、土の匂いは嫌いなんだよ」
九州の山猿と自己紹介することもある私がシティ・ボーイであるはずはなく、ましてやボーイの時期はとうに過ぎ去っているから、これは不正確な日本語であることは重々承知している。だが、土いじりが嫌いな爺をどう表現したらいいのか思いつかなかったから、こんな言葉になってしまった。
シティ・ボーイの私はもっぱらカメラマンである。重い一眼レフを首から下げ、シャッターを切る。が。撮影位置から見ると、田んぼは下にある。田植えは下を向いて進める作業だから、顔の表情を写し取ることができない。はだしになって田んぼに入り、カメラの位置をずっと下げればいい写真が撮れるのかもしれないが、シティ・ボーイはそれを断固拒否する。ま、撮れないんだからしょうがないだろ? ってないい加減なカメラマンなのである。
田植えは10分の中休みを挟んで2時間ほど続いた。ずっと眺めていたが、途中から田んぼで田植えをする人数が減った。多くの子どもたちは作業に飽きたのだろう、田んぼを出て虫取りを始めた。
「かまきり捕まえたぞ!」
「カタツムリがいたよ!」
ヌルヌルした田んぼより、乾いた土の上の方が楽しいようだ。ひょっとしたら彼らは将来のシティ・ボーイなのかもしれない。
そんな中で、あかりは最後まで田植え作業を続けた希有な子どもたちの1人だった。しかも、作業が丁寧だ。苗の根っこを土の中に押し込まずに置くだけの子もいる中で、きちんと根を押し込んでいた。真面目そのものの作業ぶりである。
「私の真面目な血を受け継いだか」
と嬉しくなったが、ひょっとしたら単なる身贔屓による錯誤かもしれない。
田植えが終わると、近くの田んぼでじゃがいも掘りが計画されていた。Ma氏が育てたじゃがいもで、ここでもMa先生の「じゃがいもの掘り方」の授業があったことはいうまでもない。あかりとそのママが取り組み、ビニールの手提げ袋2つ分のじゃがいもを掘り出した。
すぐ近くに広場があった。これこそ私が欲しかった場所である。何故か。もう一度「明日はあかりがやってくる」をお読みいただきたい。私は「秘密のプレゼント」を用意していたのである。あそこに書いた「映画『バグダッド・カフェ』を見ていてふと思いついた」というヒントで、「秘密のプレゼント」の正体に気がつかれた方はどれほどいらっしゃるだろうか? 答えは「ブーメラン」。バグダッド・カフェに、放浪者のような青年がブーメランに興じている印象的な一場面があった。
「そういえば、子どものころブーメランが欲しいと思ったことがあったな。結局手にはしなかったが、投げると戻ってくるブーメランはあかりも喜ぶのでは?」
と思いつき、Amazonで子供用の、危険度が少ないブーメラン(3枚羽根だった)を購入していたのである。この広場こそ、ブーメランを楽しむ絶好の場所だ!
あかりと私とあかりのパパでやってみた。しかし、ブーメランはなかなか難しい。オーバーハンドで少し傾けて投げる、と説明書きにはある。確かに戻って来そうになるが途中で失速して地面に落ちる。あるいは、リリースが遅すぎて地面に激突させる。
30分ほど遊んだが、一度も手元には戻ってこなかった。そのためだろうか、何となくあかりの関心はブーメランから離れていったようだったが…。
昼食は意見が2分した。こんどうの鰻重を主張したのはあかりのママである。彼女は鰻が大好きなようだ。これに対してあかりのパパは
「しみずやのうどんがいい」
両親の意見が分かれ、最終決定権はあかりのものとなった。
「あーちゃん、鰻好きでしょ?」
「あーちゃんはうどんの方がいいよね」
選挙運動さながらの票の争奪戦が繰り広げられたが、あかりは
「うどんがいい」
どうやらあかりはパパっ子らしい。
そして私のコメントは
「ああ、俺の財布が助かるわ」
しみずやで彼らはうどん、糖質制限を続けている私はそば。
その足で本屋に向かい、あかりが欲しい本を買う。7、8冊買って7000円少々。これ、経費で落とすもんね!
わが家に戻り、あかりに
「ほら、近くの公園に行ってブーメランの練習をしないか?」
と誘ったが乗ってこず、
「ピストルがいい」
ピストルとは私が所有するBB弾を使うワルサーP38である。わが家であかりがこの玩具に触れたのはもう2年ほど前だろうか。弾が的に向かって飛び出すのが楽しいらしく、来るたびにワルサーP38で遊ぶ。このワルサーP38、本物の銃でいえばスライド部分をカチリというまで後ろに引いて発射準備をするのだが、最初のころあかりの力ではそれができず、私がやっていた。しかし、4年生ともなると力も付く。この作業が自分でできるようになったから、楽しさが増したのかもしれない。
駐車場で、ペットボトルを的にして遊んだ。あかりはなかなか的に当てることができない。
「いいか、あかり。弾はここ(銃身)を通ってまっすぐ飛ぶ。だからここが的にまっすぐ向かっていないとあたらないぞ。ここと的を一緒に見て狙いを定めるんだ」
それから数回発射していて徐々に当たるようになった。少しはコツをつかんだらしい。
こうしてあかりたちがわが家を去ったのは午後4時過ぎである。
話は元に戻る。田植えをすれば稲が育ち、やがて稲刈りの季節になる。そして、あかりたちが植えたのはもち米である、ということは、成果物を餅にするもちつき大会までが企画に含まれている。
「あかり、稲刈りに来るのかね?」
「うん、やってみたい!」
「もちつきは?」
「来る!」
しばらくは、もち米が私とあかりを繋いでくれるようである。

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