現在位置、目的地、経路が分かりました。あとは自動車を安全に、快適に、目的地まで運転するだけです。それには3つの作業が必要です。
1つは「見る」ことです。道路は直線か、カーブしているのか。進行方向に障害物や人がいないか。危険な動きをする対向車はいないか。それに、信号や道路標識も見なければなりません。前の車との距離も目で測ります。交差点や踏切では一時停止して左右の安全を確認します。車線を変えるにはサイドミラーの助けで安全を確認します。後退するときは窓から顔を出したり、バックミラーを使ったりして車の後ろの状態を確かめます。見て、車の周りの情報を取り込むこと。それが車を安全に走らせる第一歩なのです。そう、時には車内の速度計やタコメーターも見なければなりません。
見たら、すぐに「判断」する必要があります。いまはアクセルを踏むときか離すときか、ブレーキを踏む必要があるか、ハンドルはこのままでいいのか、左に回さなければいけないのか。ウインカーを出すタイミングも計らねばなりません。ワイパーを動かしたり、ライトを点灯したりするにも判断がいります。
判断を下したら、その判断に基づいて手と足を動かしてハンドルやアクセル、ブレーキを適切に操る。こうして車は、目的地に向かって安全に走ります。
いまの車では、この作業のほとんどは運転席に座ったあなたの仕事です。自動運転車はこの3つの作業を車がやらねばなりません。機械やコンピューターは人間のように、1つ(1人?)ですべてに対応することはできません。だから、運転に必要な機能を区分けし、それぞれの機能を機械に置き換えます。
「目」の代用で最も有望だといわれているのが、「光探知測距」(ライダー=LIDAR)です。レーザー光を使ったレーダーで、短い時間で点滅を繰り返す光線を出し、跳ね返ってきた時間を計って車の周囲の3次元デジタルモデルを創り出します。発光装置、受信装置を上下に複数個重ね、360度回転させます。誤差範囲は数㎝以下と信頼度は高いのですが、欠点は価格です。2015年現在、8000ドルもしています。しかし、量産されれば価格は劇的に下がるでしょう。また、膨大なデータを扱うので処理速度が遅く、瞬時の判断には使えない、ともいわれますが、コンピューターの性能が年々上がっていることやソフトウエアの技術で間もなく解決されると見られています。
【注1】
予測通り、LIDARの低価格化と小型化は急速に進んだ。機械的に回転する大型・高額なタイプから、可動部のない半導体型(ソリッドステート式)などが開発され、数十万円〜数万円程度にまでコストダウンが進んだ。現在、Waymoなどの完全自動運転タクシー(レベル4)や、ホンダ・メルセデス等の高級レベル3市販車にはLIDARが標準搭載されている。処理速度についても車載AIチップの飛躍的進歩によりリアルタイム処理が可能となった。
いま最も使われているのが、「デジタルカメラ」です。立体視できるよう1台の車に複数のカメラを搭載することもあります。コンピューターと組み合わせることで対象の動きも分かります。①左上隅に歩行者、秒速1.23mで右へ移動中②右端に消火栓、静止物③左車線に乗用車、秒速5mで接近中④南東に不明の物体、静止物、という具合です。最大の弱みは泥です。しかし、レンズが覆われれば見えないので、ワイパーや人間の涙やまぶたのようなものを設置する方法が考えられています。濃霧や豪雨でも性能が落ちます。
【注2】
画像認識AI(ディープラーニング)の爆発的進化により、カメラの「見る能力」は当時から比較にならないほど高くなった。標識や歩行者の識別だけでなく、距離計測の精度も劇的に向上している。イーロン・マスク率いるテスラ社のように「人間が目(2つのカメラ)だけで運転できるのだから、車もカメラだけで十分」としてLIDARやミリ波レーダーを全廃し、カメラのみで高度自動運転を行うアプローチも登場した。一方で、悪天候時の視界不良という本質的弱点を補うためのレンズ洗浄(ウォッシャー)やヒーター技術は現在の市販車にも広く実装されている。
これから先は、補助的な「目」です。
電波探知測距(レーダー):電波の跳ね返りを利用します。いまでもアダプティブ・クルーズコントロールや見通しの悪い場所に車がいることを知らせる運転支援機能に使われています。泣き所は特定方向の狭い範囲しか「見る」ことができないことです。自動運転車のレースではレーダーを3つ並べて180°の視界を確保する車もありました。霧や雨、土埃、砂埃に強く、ドップラー効果で動く物体の速さも検出できますが、解像度は高くありません。
超音波センサー(ソナー):霧や砂埃の中でも見通せ、太陽光線に妨害されることもありません。解像度は高く、小さな物体まで検知できます。しかし音波は減衰ペースが速く(遠くまで届かず)、風の影響も受けやすいので近距離の物体しか検知できません。
今のところ一長一短です。開発中の自動運転車ではこれらを組み合わせて人間の「目」の代わりにしています。
【注3】
「一長一短あるセンサーを複数組み合わせる(センサーフュージョン)」という考え方は、現在の自動車業界において最も標準的な安全設計手法となっている。カメラで対象物の種類(人か車か標識か)を判別し、ミリ波レーダーやLIDARで正確な距離と速度を測り、超音波ソナーでごく近距離の障害物や駐車場での低速取り回しをカバーする、という形で、現在の市販車の予防安全・運転支援システム(ADAS)のほぼ全てに継承されている。

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