群馬大学の自動運転
第7回 三次元地図(下)

考えてみてください。
自動車メーカーは世界中のどこでも走る車を作るのが使命ともいえます。グーグルやアップルが自動車メーカーになったとしても、グーグル・カー、アップル・カーは、どこでも走れなければなりません。カリフォルニア州限定、愛知県限定などという車は、車とは呼べません。だから、メーカーは世界中の三次元地図を造らねばなりません。

世界中の3次元地図です。地球の陸地の総面積は1億4724万4000km²もあります。その全ての道だけでなく、車が走れるだろうと思われるところはすべて地図データにしなければなりません。なぜなら、人が運転するいまの車は、そんなところも走ることができるからです。
できるでしょうか? やる気になればできるでしょう。でも、コストが膨大なものになりことはたやすく理解できます。

コストの話を続けましょう。地図データを完璧にするには、一度だけのデータ収集では不完全です。自然は四季折々で姿を変えます。一度目のデータ収集が夏だったら、草原は草に覆われているでしょう。でも、秋から冬になれば草は枯れ、まったく違う姿を現します。雪が降り、氷に覆われればまるで別物になります。小雨の日、大雨の日、自然は刻々と姿を変えます。夏に集めたデータだけでは、自分の位置を確定するデータとしては不十分なのです。ほとんど車が行かないだろう辺鄙な場所の三次元地図データまで集めるのに膨大な経費をかける。コストは跳ね上がり、車両価格は急騰します。それでも車を作ろうという経営判断をする企業があるのでしょうか?

【注1】
全世界の道路をミリ単位の3Dデータ化し維持し続けるコストの壁は、IT巨人の目論見すら砕いた。2020年代半ば、巨大な資金力を持つアップル(Apple)は自社ブランドの自動運転EV(いわゆるアップル・カー)の開発計画を完全に断念・撤退した。また、グーグル傘下のWaymoなども、世界中をカバーすることは諦め、「あらかじめ緻密な3D地図を作成・維持できる特定の都市部(サンフランシスコやフェニックスなど)の限定エリア」での無人タクシー(レベル4)へと舵を切らざるを得なかった。

 さらに、それだけでは足りないかも知れません。ひょっとしたら人跡未踏の地に向かう探検隊がその車を使うかも知れません。目的地に向かっていた車が、突然、

「ここから先は地図データがないので走れません」

と警告を出したのでは、実用からはほど遠いものになってしまいます。

問題はコストだけではありません。
いまだにふるさとに戻れない被災者が残っている東日本大震災、その後何度も日本を襲った集中豪雨。自然は時として猛威を振るい、私たちの暮らしがズタズタに引き裂かれます。
もし、何らかの手段で全世界の三次元地図をもった自動運転車が実現したとしましょう。そうすれば、ズタズタに引き裂かれるのは私たちの暮らしだけではなくなります。ある日、その車がある地域一帯が台風に襲われ、あちこちで道路の陥没や山崩れが起きました。その時、自動運転車は走れるでしょうか?
自動運転車が持っているのは、通常の三次元地図です。陥没した道路や山から崩れ落ちた土砂で埋まった道路は地図に含まれてはいないのです。
道路を覆った土砂なら、自動運転車に設置されているセンサーで「障害物」と認識し、止まることができるでしょう。
でも、道路の陥没はどうでしょう?
自動運転車がもっている3次元地図では、ここは真っ直ぐな道路が通っています。周りの景色も、豪雨の時の3次元地図と照合ができました。車はそのまま走ります。さて、この車は、あと10m走ると、突然道路がなくなっていることに気がつくでしょうか?
自動運転車に乗っているセンサーの弱点は死角でした。道路の上に被さっている土砂は見ることができますが、陥没してなくなっている道路は死角に入ってしまいます。つまり、自動運転車は、道路はこのまま続いていると判断して走り続けかねません。そして……。

センサーやコンピューターには、まだまだ処理できないことがたくさん残されているのです。

【注2】
地震や豪雨による道路崩落・冠水・土砂崩れといった「地図データと現場が劇的に異なる状況」での判断能力は、3D地図に依存する自動運転システムの最大の急所であり続けた。
道路形状が物理的に変化した際、事前データ(地図)とリアルタイムセンサーの差異をAIが正しく処理できず暴走・停止するリスクを排除しきれなかったのである。この「災害国・日本における自然変化への対応力」の壁こそが、群馬大チームが指摘した通り、どこでも走れる自家用車の完全自動運転化を阻む決定的な要因となった。

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