桐生市の地図を少しでもご存じの方は、前回の説明に首をかしげられたかも知れません。
「桐生市に限った自動運転車というが、桐生市は飛び地合併をしたではないか。隣のみどり市を通らなければ行けないところがあるはずだ」
その通りです。しかし、心配はいりません。桐生市の三次元地図に、必要な分のみどり市の三次元地図をつくって加えればいいだけです。それだけの作業で、桐生市内なら、みどり市を通ろうと通るまいと、自動運転車は走ることができます。
そうなのです。群馬大学の自動運転車は、完全な三次元地図がある地域ならばどこでも走ることができるのです。最初に桐生市の完全な三次元地図をつくる。それができれば、次はみどり市全域、隣の前橋市、伊勢崎市、太田市……、と次々に三次元地図をつくっていけば、いずれは群馬県全域を走ることができます。全国に、それぞれの三次元地図データを持つ地域が広がればデータをお互いに融通して日本全国を走る完全自動運転車もできます。三次元とはいえ、地図データはそれほど容量をとりません。メモリー類もずいぶん価格がこなれてきました。いずれは日本全国どこでも走れる完全自動運転車になり得るのです。
メーカーやIT企業が一挙に全地球を捉えようとしているのに対し、群馬大学チームの戦略は、点を線に、線を面に広げ、やがては全地球を覆ってしまおうというものなのです。
三次元地図は、一度つくれば永遠に使える、というものではありません。カーナビでも地図データの更新は常識です。いまは更新しなくて不完全な地図になっていても、足りないところは運転している人が補います。しかし、完全自動運転車では三次元地図が頼みなのです。不完全な地図では運転を誤ってしまう恐れがあります。だから、三次元地図は頻繁に更新しなければなりません。
群馬大学のチームは
「地域限定だから地図の更新は簡単にできる」
と考えています。桐生では私どものタクシーがご協力することもあるでしょう。桐生以外で自動運転車を走らせようという地域が出てくれば、地域間で連携してデータを相互に融通して、どちらの地区でも走ることができるようになります。将来は全ての自動運転車に地図データを集める機器が搭載され、ネットワークで繋がることですべての車が常に最新の地図データを持つようになるはずです。
【注1】
「局所的な3D地図作成を積み重ねて全国へ広げる」という構想は極めて論理的だったが、前回書いたように、桐生市に限っても3D地図データを完璧にするのは至難の業である。また、道路工事や車線変更などによるデータ更新のタイムラグをいかに無くすかが最大の課題であり続け、後に世界中で「車自身がカメラでリアルタイムに地図の差分を書き換える技術」や「クラウド経由のリアルタイム配信」へと深化していくこととなった。
対するメーカーは、市販を前提に車を作る以上、世界中どこでも走ることができるようにしなければならなりません。人がほとんど行きそうにないところの地図も一度はつくることができるかも知れません。しかし、頻繁な更新は無理です。コストがかさんで自動運転車の価格に跳ね返り、天文学的な値段になりかねません。
つまり、世界中どこでも走ることができる完全自動運転車は地図には頼れないのです。コンピューターが人の認識力、判断力に追いつくまでは実現しない、というのが論理的な結論なのです。
いまのコンピューターはまだ、完全に信頼するには足りないという前提で開発を進めている群馬大学は、もう1つ、自動車と交通の安全性を高める仕組みを組み入れています。中央管制センターとでもいうべき機能です。
交通状況は日々刻々と変わります。ある日台風が上陸して土砂崩れが起き、自動運転車は危険と判断して緊急停止しました。このままでは、車はどうしていいか判断がつきません。何が起きるか分からない将来について、全ての「起きうること」と、その時の対処法をコンピューターに記憶させるのは、いまの技術力では不可能だからです。
群馬大学のシステムでは、中央管制センターがすべての自動運転車とネットや無線で繋がり、運行状況を監視します。土砂崩れなどの交通状況もセンターには刻々と入っており、センターは全ての状況を総合して止まっている車に指令を出し、安全なところまで走らせます。他の道を選べば目的地に行けるのなら、車が自分で動き出せるところまで導きます。
まずは桐生市に中央管制センターを置き、桐生市全域で完全自動運転車がいつも安全に走行できるシステムを築きます。といっても、まだどのような監視の仕方、どんな指令の出し方が最適なのかについては経験の蓄積がありません。桐生市をモデルケースにして、管制センター運営のノウハウを蓄積することも、群馬大学の研究テーマです。
桐生市を皮切りに自動運転地域が広がれば、1つの管制センターでどの程度の広さの地域を監視できるのかも自ずから見えてくるでしょう。それができれば、日本全国を自動運転地域にするには、何カ所の管制センターが必要なるかも分かります。
このシステム、ノウハウの開発はNTTデータが引き受けています。
【注2】
ここで描かれた「中央管制センターによる運行監視と指示」という仕組みは、まさに2023年4月の改正道路交通法施行により実現した「レベル4(特定自動運行)」の必須要件(遠隔監視・特定自動運行主任者の配置)そのものであり、群馬大チームとNTTデータの構想は極めて先駆的であった。
しかし、中央管制センターに災害情報が入るには必ず時間がかかる。土砂崩れや道路崩壊が起きても、センターが知るのは役所の担当員が現状を把握した後になる。目撃者から役所に連絡が入り、担当員が現場に赴いて確認する。どうしても数十分から数時間のタイムラグができる。あの間に災害現場を走行する自動運転車があったとしたら…。
その後、実証実験を経て全国各地で遠隔監視による自動運転バスの運行が始まり、NTTグループをはじめとする通信事業者が遠隔監視システムや5G通信基盤の開発を本格化させた。しかし、
「1人のオペレーターが同時に何台の車を安全に監視できるか(通信遅延やパニック時の対応能力)」
という運用の限界と人件費コストの問題は、いまなお完全無人化へ向けた大きな議論のテーマであり続けている。

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