自動運転入門第3回
自動運転を支える技術②—車を運転するとは

車を目的地まで運転するには、まず、自分がどこにいるのか、どこに行こうとしているのか、どの道を通るのかを知らなければなりません。自分がいる場所は、道に迷ったりしていなければ自明のことです。目的地も、あなたが行きたいところなので分かりきっています。しかし、どこを通っていくかには判断が必要です。
何度も行ったことがある場所なら簡単でしょう。せいぜい、

「今日はどの道にしようか?」

と考えれば済みます。しかし、遠いところ、初めての場所ではそうもいきません。そんな時、私たちは長い間地図に頼ってきました。道路地図帳は車を運転する必需品でしたし、渋滞を避けるにはどの道を選べばいいかというありがたい情報が掲載されている抜け道マップなどを活用された方も多いはずです。

自動運転車とは、言い換えればロボットが運転する車です。ロボットは、教えられなければ自分がどこにいるかは知りません。目的地もありません。ましてや、どの道を通るかなんて考えたこともないでしょう。それでも、優秀なロボットなら、ぶつからずに車を運転することはできます。だが、ぶつからないだけの車は実用的ではありません。

 「だったら、カーナビを使えば?」

その通りです。いまいる場所を知るためのGPS(全地球測位システム)と、目的地、どの道を通るかを判断するための基礎情報である地図を組み合わせたのがカーナビです。最近ではVICS(Vehicle Information and Communication System)も付いていて、渋滞や交通規制の情報も手に入ります。優秀なロボットと、あなたの車にもついているに違いないカーナビを一緒にすれば、自動運転車になるはずです。

しかし、です。あなたがハンドルを握る車なら、いまのカーナビの性能で充分でしょう。カーナビに従えば目的地に行けるし、渋滞を避けることもできる。それでも、カーナビはあなたの補助手段であることを忘れてはいけません。ロボットはあなたのように優秀な頭脳を持っていないのです。いまのカーナビで使われている程度の地図情報では、ロボットは安全、快適な車の旅を保証してくれません。
例えば、運転していれば信号が青なのか、赤なのかを判断しなければなりません。ロボットがそうするためには、どこに信号機があるのかの3次元の情報が必要です。この情報はいまのカーナビには入っていません。他にも、制限速度の情報、走っている道の車線数、右折レーンはどこにあるのか、中央分離帯はあるのか、など、いまのカーナビの地図には入っていない膨大な情報がなければ、ロボットは目的地まで車を運転することができません。

【注1】
その後、一般的なカーナビやナビアプリでも「制限速度」「車線数」「右専用レーンの位置」などの情報は標準的に搭載され、ドライバーに案内されるようになった。ただし、自動運転用としては「情報がある」だけでは不十分であり、信号機や白線、標識の位置をセンチ単位で立体的に把握するための「高精度3次元地図(HDマップ)」が引き続き不可欠とされている。

それに、いまのGPSは誤差が10メートル近くあるといいます。トンネルに入ればGPSからの信号を受け取ることはできません。電波が途切れることもあるかもしれませんし、都会では乱立する高層ビルでGPSからの電波が乱反射して間違った位置情報を伝えてくることもあります。あなたのカーナビで、自分の車が道路を大きく外れて走っている映像をご覧になった方も多いはずです。ロボットがそんな情報を元に運転しては、事故を起こしてしまいます。

【注2】
GPSの精度誤差や受信障害は、その後の準天頂衛星「みちびき」の運用開始やRTK測位技術によって、ミリ・センチ単位にまで劇的に補正されるようになった。しかし、トンネルや高層ビル街での電波遮断・乱反射という課題は依然として残るため、車載カメラやLiDAR(光センサー)で捉えた周囲の景観と「3次元詳細地図」をリアルタイムで照合する技術(SLAM等)との併用が、現在の自動運転の主流となっている。

 自分で持っている地図とGPSからの位置情報で運転しなければならない自動運転車は、どんな障害が起きても、正確に安全に走らねばなりません。では、どうするか? 詳しい3次元の地図を自分で持つのです。GPSの信号に頼れなくなったら、その詳細地図と、いま見える周りの景色で自分の位置を判断して運転を続けます。
2017年6月13日、三菱電機、ゼンリン、それに自動車各社や政府系のファンドがつくった「ダイナミックマップ基盤」という会社が、高速道路と自動車専用道の詳細な3次元地図データを集める、と発表しました。つまり、高速道路と自動車専用道で完全自動運転ができるよう、準備を始めたわけです。ダイムラーやアウディ、BMWも同じ動きを始めました。

【注3】
ダイナミックマップ基盤(DMP)が作成した高精度3次元地図(HDマップ)は、その後の日本における自動運転の骨格となった。日産の「ProPILOT 2.0」による高速道路での手放し運転(ハンズオフ)や、ホンダが世界で初めて市販化したレベル3自動運転車「レジェンド」なども、このHDマップを活用している。現在では国内の高速・自動車専用道路を網羅し、北米など海外の地図会社買収を通じてグローバルなインフラへと発展した。

 完全自動運転車の実現に向けて、いま自動車の世界が変わり始めました。
そして私たち沼田屋タクシーは群馬大学理工学部にご協力し、桐生市内全域の詳細地図を集める機器を積んだタクシーを、2017年秋から1年間運行します。ご協力をお願いします。

【注4】
残念ながら、詳細地図を集める機器が沼田屋タクシーに届けられることはなく。地図データの収集は行われなかったのはすでに書いた通りである。

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