暮らしをもっと良くしたい、もっと楽をしたい、自由な時間を増やしたい、という私たちの欲求が、様々な発明の母である、と前回書きました。だが、発明の母はもう1つあります。戦争です。
最も新しいところでは、インターネットが軍事目的で生まれたことは有名です。1969年、冷戦下のアメリカはARPANET(Advanced Research Projects Agency Network)を開発しました。核戦争が勃発すれば通信ができなくなる恐れがあります。重要拠点間で情報の伝達ができなければ戦えません。この問題を解決しようと、敵の攻撃で通信網の一部が破壊されても、迂回して通信ができるシステムでした。インターネットはここから発展しました。
そのインターネットを使うのに必要なコンピューターも、戦争が開発を促進しました。複雑な弾道計算を瞬時にこなす機械が、第二時世界大戦中に求められたのです。いまは評判が落ちていますが、一時はエネルギー問題、地球温暖化問題の解決策と評価された原子力発電も、戦争のために開発された原子爆弾の平和利用です。家庭にある電子レンジは、戦争で使われたマイクロ波を使っています。
意外なところでは、家庭で美しい映像を楽しめるデジタル・ハイビジョン放送も軍事と無関係ではありません。当初、ハイビジョン開発で世界の先頭を走っていたのは日本のNHKでした。NHKは自らが開発したハイビジョン規格を国際規格にしようと動きました。これを受けて、その画質の精細さに恐怖を感じたのがアメリカでした。
ハイビジョンは高解像度が売りです。解像度が高いと、遠く離れたところから撮った映像でも細部が明瞭に写し取られます。ハイビジョンカメラを偵察衛星に積めば、地上の様子が手に取るように分かります。この映像技術で後れを取り、他国に技術的優位を持たれてしまえばアメリカの国防が脅かされる。当時は東西冷戦下でした。NHKがソ連と手を組むようなことになってはアメリカの軍事的優位が崩れてしまう。アメリカはそう考えました。
NHKの規格を受け入れるという選択肢もあったはずです。しかし、それでは技術の根幹を他国に握られることになります。何かが起きたとき、アメリカと敵対する国に根幹技術が流れ出ないとも限りません。それでは安心できません。
アメリカは、放送のデジタル放送を提案しました。当時、NHKが開発していたのはアナログ波を使ったハイビジョン放送でした。アナログの世界では、いまからではNHKに追いつけない。しかし、放送をデジタル化すればNHKと同じ地点から開発競争を始めることができる。それに、デジタル技術ならアメリカはNHK、いや全世界のライバルに比べても一日の長がある。こうしてデジタル放送の研究・開発が始まりました。
もちろん、放送のデジタル化には、電波の有効利用など別の長所もあります。だから、軍事目的だけが放送のデジタル化の目的ということはできないでしょう。しかし、軍事利用も目的の1つだったことは疑いありません。
(以上は20年近く前に読んだ本で仕入れた知識です。確認しようと思いましたが、本は誰かに貸したまま戻っておらず、書名は忘れてしまったため、ネットでの検索はできませんでした。しかし、この話は複数の人に口頭で伝えたことがあるので間違いないと思います=筆者注)
前置きが長くなりました。
実は、自動運転車の開発にも、軍事という側面がつきまとっています。何しろ、世界で最初に誕生した自動運転車は軍事目的だったのです。
1912年、アメリカの2人の発明家が、光に向かって自分で走る車を開発しました。この車は光を感知する2個のセレン光電池を積んでいました。セレン光電池は少し離れて設置されているため、光源からの距離が異なると、違った反応をします。これを利用して、常に2つのセレン光電池が光源と同距離にあるようにハンドルを動かす仕組みを作れば、車は光源を目指して一直線に走ります。この車に爆弾を積み込み、夜、敵陣に向ける。敵のサーチライトがこの車を照らし出すと、車は敵陣めがけて爆弾を運んでいくのです。
2人はこの自動運転車に、「ドッグ・オブ・ウォー(戦争の犬)」という恐ろしげな名前を付けました。この原始的な自動運転車の写真はここで見ることができます。このページでは「The Electric Dog」と呼ばれています。
戦争では自軍の損傷をできるだけ減らし、敵の損害をできるだけ大きくすることが求められます。そして、そのためには惜しげもなく資金が投じられます。自動運転車もこうして最初の一歩を踏み出していたのです。
そしていまも、自動運転車の開発には軍事目的が色濃く影響しているのです。

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