自動運転車とは、コンピューターが人に代わって車を動かすものです。そのコンピュータに十分な信頼が置けないとしたら、自動運転なんて実現できるのでしょうか?
「だからこそ、私たちの方が先に自動運転タウンを実現することができる」
というのが群馬大学のチームです。
それは何故なのでしょう?
例えばトヨタ自動車が製造、販売する車を考えてみましょう。
いまの車は人が運転します。だから、走る、曲がる、止まる、の3つの機能を最高度に組み合わせ、それに優れた乗り心地を加えれば素敵な車になります。
その素敵な車は販売店を通じて消費者に渡り、日々の暮らしに使われます。いったん消費者の手に渡ってしまえば、その車がどこを走るかはトヨタ自動車の関知しないところです。群馬のディーラーで販売された車は、主に群馬県内を走るでしょうが、時には東京や埼玉、長野に遠乗りすることがあるかも知れません。あるいはご主人の転勤で、北海道や沖縄を走ることになるかも知れません。
同じ車を中国に輸出しても、サウジアラビアで販売しても、あるいはめぐりめぐってアフガニスタンの武装ゲリラが乗ることになっても、車としては何の問題もありません。車がどこに持って行かれても、運転するのは人です。目的地や周囲の状況、突発事態に判断を下すのは人です。
いまの車は、走ることができる道がある限り、世界中どこでも走ることができるのです。
しかし、自動運転車はそうはいきません。前にも書きましたが、コンピューターは「初めて」のことを判断するのが苦手です。一度でも行ったことがあるところなら記憶することができますが、初めて乗り入れるところは、その都度、常識に従って車を操作しなければなりません。ところがいまのコンピューターは、人であれば誰もが持つ「常識」をなかなか身につけられないのです。
その「常識」をコンピューターに記憶させるのに、ディープラーニングが期待されていますが、まだ信頼できるレベルに達していないことはすでにご説明したとおりです。
では、どこでも走ることができる自動運転車をどうやって作るのでしょうか。
車に地図を記憶させます。いまのカーナビで使われている2次元=平面の地図ではなく、3次元=立体の地図を覚えさせるのです。
自動運転車はセンサーで常に車の周りを見ています。車が三次元の地図をもっていれば、いま見ている周りの景色から、自分がどこにいるかを割り出すことができます。指紋認証も易々とできるようになったコンピューターにとって、自分がもっているデータといま見ているデータを比べて同じかどうかを判断するのは得意な仕事です。
アメリカのグーグルが全米各地に車を走らせて収集に努めたのは、この3次元地図のデータです。自動運転の実現には地図データが欠かせないことは開発陣の常識で、地図データを持つ会社と自動車メーカーの提携が、世界中で広がっています。よりよい地図を手に入れたところが、より優れた自動運転車を生み出すともいわれるのです。
【注1】
3次元高精度地図(HDマップ)の重要性が認識された後、日本では産官学オールジャパンで「ダイナミックマップ基盤株式会社(DMP)」が設立され、高速道路や主要幹線の3D地図データの整備が進められた。しかし、高速道路などの広域・単調な路線データの整備は進んだものの、全国の一般道・生活道路に至るまでの莫大な路面・構造物データを網羅・維持することは膨大な費用と労力を要し、普及の大きな課題であり続けた。
「それだったら、どこでも走ることができる自動運転車だって造ることが出来るのではないか?」
いや、ちょっと待って下さい。車が記憶すべき地図を作るのはそれほど簡単なことではないのです。
【注2】
その後、世界の自動運転開発は「高精度3D地図を事前に読み込ませて走る派(Waymoや日本の主要プロジェクト)」と、「地図に頼らずカメラとAIのリアルタイム視覚認識のみで走る派(テスラ等)」に大きく二分された。
前者は走行の安全性が高い反面、「事前に緻密な3D地図を作成した限定エリア(過疎地のバス路線や指定都市など)でしか走れない」という本質的な制約を抱えることになった。群馬大チームをはじめとする当時の開発陣が直面した「地図作成・更新の果てしないコスト」という課題は、そのまま自動運転が全国の公道へ広がらない最大のボトルネックとなっていったのである。

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