08.17
2010年8月17日 グシュン
やたらと鼻がむずがゆい。
鼻が詰まる。
時折、鼻水が出る。
勢いよく空気を吸い込むと、グシュン、と音がする。
ハックション!
どう考えても夏風邪である。
私は、夏風邪を引いてしまった。
それはそうであろう。ほぼ1週間、夏風邪の瑛汰を抱いて寝たのだ。高い熱が出た初日は氷枕を取り替え、額を冷やすタオルが暖かくなるたびに取り替えた。その夜から、夜といわず、朝といわず、昼といわず、瑛汰は私にしがみつくようにして眠りに落ちた。
夏風邪の瑛汰と数十時間にわたる添い寝。そりゃあ、うつるわな、色っぽくも何ともないけど。
せっかくなら、夏風邪(に限ったわけではないけど)で寝込んだ、妙齢の美しき女性にうつしてもらいたかった。
彼女がベッドに、赤い顔をして寝ている。ドアを開けた私に
「すっぴんだから来ないで」
と口では言うが、なあに、私が看病にやってきたことが嬉しくて仕方がないのだ。そばに来るなとは、照れである。
額に手を置く。
「熱いね。医者には行ったのか?」
おけとタオルを用意して、濡れタオルを額に置く。
「熱があると寒さを感じるんだよね。よし、私が温めてあげよう」
布団の片側をめくって身体を入れる。
「ダメ。うつっちゃうよ」
「いいよ。俺にうつしたら風邪は治るだろ? ついでだ。風邪の菌、吸い取ってあげよう」
てな具合でうつった夏風邪なら、まあ、人には言えなくても、1人で満足できる。
それなのに、あのときも、あのときもうつってくれなかったのに、瑛汰からはうつるのかよ……。
神様は色っぽさを好まない?
その瑛汰から、昼間電話があった。
「ボス、どこにいるの?」
「床屋さんで髪を切ってるんだ」
「じゃあ、瑛汰、いまから行くよ」
「おいおい、ここは瑛汰のうちから遠いところの床屋さんだよ。瑛汰1人じゃ歩いてこられないよ。パパに車に乗っけてもらわなくっちゃ」
「大丈夫だよ。瑛汰、羽根があるんだ。だから(瑛汰の場合は『はから』に聞こえる)、ビューンって飛んでいっちゃうんだ。速いよ」
「そうか、だったら、いまから飛んでこい。ボス、待ってるよ」
「うーん、いまからアラジン3(瑛汰がこちらにいる間に録画してやったアニメ)見るから、暇がないんだ。冬休みに行くよ。じゃあねえ」
その瑛汰、昨夕は、横浜の自宅の窓辺にたたずみ、外を見ながら涙を流していたらしい。口ではいろいろ言うが、ボスのそばを離れるのがそんなに寂しいか?
ま、それほど長続きする感情ではないだろうが。
今朝の新聞によると、カーリングの本橋麻里が、チーム青森を脱退して新チームを作ったのだそうだ。
バンクーバーでは自分の力不足を感じた。足りないものを求めるべきだと決断した、という。だけど、足りないものを求めるのに、どうして独立しなければならないのか? 訳の分からない理由である。
こんな話で満足して引き下がってくる記者連中も問題ではあるが。
以下は、私の独断と偏見である。
この人、カーリングでテレビや週刊誌にちやほやされ、勘違いしたらしい。
実力は世界レベルに達していないチーム青森にマスコミが注目したのは、私のおかげよ。私の美貌のおかげ。ほかの人たちは私の引き立て役に過ぎなかったんだから。だったら、私、もっと目立たなくっちゃ。目立つには、チームの一員から脱して、私のチームを作らなくっちゃ。
とでも妄想したのではないか?
確かに、女子スポーツ選手の中では整った顔立ちをした人である。テレビや週刊誌がカメラを向けたくなるのも分からないわけではない。
だけど、彼女がオリンピック選手でなかったら?
ちょいと派手な造作の顔を持つ女の子に過ぎない。彼女より美しい女性は、それこそ5万といる。オリンピック選手の中では目立ったかも知れないが、ご本人が思っている(と私が思っている)ほどの美貌の持ち主ではない。
それに、オリンピックに出たのだって、カーリングというマイナースポーツ、つまり競争相手が少ない種目を選択したからである。それは、オリンピック出場という目標にとっては賢い選択であった。が、マイナースポーツはマイナースポーツである。愛好家が少ないスポーツの世界で独立した彼女を資金面で助ける物好きが、さて、どれだけいるのか? だって、愛好家が少ないということは宣伝効果も少ないっていうことだもんなあ。
それとも、ご自慢の美貌と名声で、すでにはげオヤジをゲットしたが故の独立宣言か?
勘違いによる暴走はどこにたどり着くか?
タレント気取りの女性が落ちぶれた末行き着く先は、おおむねヌード写真集ということになっている。私が妄想するはげオヤジが彼女に飽きたとき、彼女は服を脱ぐ。
いま、彼女は24歳だとか。肌が一番輝いている年代である。望むらくは、できるだけ早くはげオヤジが彼女に飽きますように。どうせさらすのなら、美しいうちがいいもんね。
まあ、私はヌード写真集を買い集める趣味はないのでどちらでもいいのだが、愛好家のためにそう望んでおく。
この独断と偏見、当たっていそうで怖いのだが……。