2021
03.01

作りやすくて性能のよい 12AX7×4、12AU7×2 ステレオ・プリアンプの製作 1

音らかす

世はまさにトランジスタ時代。最近とみに進歩してきたICのおかげで、とくにその傾向が見られるようになってきました。テレビ電話の普及が目の前になってきたのもICの発達のおかげであると思えば、まことに喜ばしいことです。ますます労働賃金があがってきている現状から見ても、ステレオ・アンプのすべてがトランジスタ化され、ソリッド・ステートアンプの美名のもとに、幅をきかすようになったのはむしろ当然といわねばなりません。

管球式アンプが段々と入手困難になって、マランツのプリアンプ#7が何10万円のプレミアムがついたとか、つかないとか、まぼろしのアンプという異名を持つようになったのも、やはり管球式アンプのよさが認められてのことだと思います。

こういった問題点が管球式のプリアンプの自作ということになるのですが(メイン・アンプの場合は割り合い簡単で、ラックス等からキットも出回っている)やはり、材料費に比べて製品の市価がかなり割り高なので、簡単には作れません。切り換えスイッチの面倒な配線、いろいろなコントロール部分などあれこれやりにくい面があるうえに、ハムが出たり、高域がおちたり、周波数特性がくるったり、ひずみが出たりでなかなか思うようには行かないものです。現に筆者も、今までに技術誌の記事をもとに、本機を作るまでに4台(10年ほどの間に)自作してみたがこつがのみこめなかったせいか、本機に比べて、はるかに性能のおとるものでした。

そういう状態にあった頃の昨年10月に、本紙に発表された上杉佳郎氏のマッキントッシュC-22のイミテーションの記事に気がついて、多少面倒だとは思ったが、思い切って手がけてみることになったのが、この記事を発表することの、そもそものきっかけです。

私は2ヶ月がかりで作り上げました。その後、耳のうるさい人々を機会あるごとにわずらわせてヒヤリングテストを何回も行っているうちに、これだけのアンプがこんなに安価に、しかも割合簡単にできるのか、と何度か尋ねられたので、諸先生方にはいささか面はゆい気がしたが、しろうとの私が筆を取(る)気になったわけです。

部品を集めるのに役立つと思いますので、第1表に使用部品の一覧表をのせておきます。

部品一覧

 

回路を決める

本機の回路を第1図に示します。ごらんのようにイコライザ・ユニットはマッキントッシュC-22からRIAAの部分をそっくり拝借しました。マランツのイミテーションは今までに何回も記事が出ていたが、カソード——カソードのフィード・バックによって周波数補償を行っているせいか、とかく発振したり、ラジオ信号が入ってきたり、しろうとには、作りにくい回路です。それに比べて、本機に拝借したマッキントッシュのイコライザは、プレート—カソードのフィード・バックで、非常にありきたりの回路です。

第1図

回路図

【イコライザ部】
一般に、アマチュアの作るアンプのRIAAのイコライザは第2図のような回路が多く、ロール・オフ(高音を下げること)周波数は、次の計算で決まります。


(注)1000分のマイクロファラドにしたのはオームの代わりにキロオームにしたためで、こうすれば0をいくつもつけて計算を複雑にしなくてすむからである。

次にターン・オーバー(低音を持ち上げること)の計算は、

これをグラフに表すと第3図になり、RIAAのカーブに比べて低音部が少しやせて、音に厚みが足りなくなります。筆者の4号機はこの点で不満であったから、少々億劫であったのだけれど本機を作る気になりました。といってターン・オーバー周波数を650〜700Hz位に持って行くとRIAAのカーブに合わなくなる。この点があるのでマッキントッシュC-22のイコライザが一般のそれといくらか変わっているのではないかと思われます。第4図に、C-22のイコライザ回路だけを示します。

この回路にある280P(C7)を無視して、1.8MΩと4.7MΩの合成抵抗値は6.5MΩと考えて、これを上の式に当てはめるとターン・オーバー周波数は757.63Hzと出ます。ところが、後に述べるように、測定してみるとちゃんとRIAAに合う。このあたりになるとしろうとのあさましさ、理論的になぜそうなるかは説明できません。また、よい音を聴くのが目的であるとすれば屁理屈をいう必要もなかろう。ただしこれらの抵抗体とコンデンサは精密級を使わないと、カーブが合わなくて苦労するばかりでなく、この回路が本機の一番かんじんのところですから、時間をかけても正確なものを選びたいと思います。筆者は理研電具の代理店(十一電気)に頼んでリケノームRM-1の±1%のを入手したし、コンデンサは秋葉原のラジオ・ストアで±2%のスチロール・コンデンサを手に入れることができました。抵抗1個といえども、本機を構成する大切なパーツで、ジャンク箱をひっくりかえして古いものを探し出したりはしないほうがよいようです。各段のプレート抵抗、B回路に入っている負荷抵抗は2W形がよく、筆者はリケノームRM-2形(ノイズレス級2W形)を使用しました。これは高S/Nをかせぐのに絶対必要です。

イコライザ段のすぐ後にくるV3の回路はメイン・アンプにこれと似たものがよくあります。理論的になぜこれがよいのか説明できないが、これもマッキントッシュの回路をそのまま真似しました。ただし、カソード電圧が、168Vに対してグリッドが165Vと3Vのバイアスがとってあるが、上杉氏のお話しでは0.6V以上あれば音質的に差し支えないそうです。筆者は原回路の4Vに近づけるためにR-9とR-10の値を回路にあるような数値にすることによって測定結果のような電圧分布を得ました。

C-5は0.47μ以上のものを使わないとよい周波数特性が得られないから注意を要します。C-3の0.01μは大きいものを使うと、ずっと低域のところでカーブが持ち上がるから指定のものを使って欲しいと思います。これはイコライザを構成するために深いNFがかかっているからです。

【ファンクション・スイッチ部】
次が、ファンクション・スイッチです。第1図のように、一寸変わっています。一般市販品のアンプが、マランツを含めて、テープ・デッキからの再生をモニタ・スイッチをモニタ側に倒すことによって行う不合理さを解決する目的で考え出した回路です。モニタ・スイッチを倒すだけで、ファンクション・スイッチがフォノになっていようと、チューナになっていようとテープが鳴るという切り換えスイッチはどうしても間尺に合わない。テープに録音しながらモニタするときには、ソースがフォノであったりチューナであったりするのは当然のことですが、レコーデッド・テープを再生するのはモニタしているのではないのだから、マランツやマッキントッシュのファンクション・スイッチにはテープ・ヘッドはついているのに、TAPE(デッキ)がないのは妙な工合で、今どきテープ・ヘッドから直接プリアンプに入れるようになっているデッキはあまり市販されていないし、ヘッドなんてものはそれぞれ特性が違っていて、RIAAカーブのようにどのカートリッジでもどのレコードでもRIAA1本で足りるというわけにはいかないものです。国産の高級品プリアンプは、マランツやマッキントッシュの真似をしているのかもしれません。

このようにして本機はファンクション・スイッチに、2段6回路3接点を使用しました。アームが2本ついていたり、再生専用のテープ・デッキ(プレーヤ)をもう1台お持ちの形は3接点を4〜6接点にすれば、ことたります。本機にはフォノ、チューナとテープ(デッキ)だけをつけてあり、モニタ・スイッチを入れることによりレコードからもFMあkらもテープに録音しながらモニタができます。そしてテープを再生している時にあやまってモニタ・スイッチを音が出てこないだけで何ら差し支えありません(ただし、デッキがティアックA4010のようにテープ・プレーの他にソースもモニタできるようになっているデッキの場合、このスイッチがソース・モニタになっているときにプリアンプのモニタスイッチを入れるとハウリングを起こすのは致しかたがない。実験してみたうえで、ティアックさんにおうかがいしたら、VUメーターがふり切ってもそう簡単にこわれないし、デッキのプリアンプには何もトラブルは起こらないだろうという返事だった。このあたり読者の中によい知恵があったらおうかがいしたい)

次が、メイン・ボリュームです。A500kΩ2連(VR-3)を使っており、別に変わったことはないが、今までよく技術雑誌で見かけるアンプには第5図の回路のような配線になっているのが多いが、本機ではコンデンサは全く省いてあります。チューナ等から直流電圧がもれるとコンデンサで直流止めがしてないのでガリオームにすることがあるうえに、ボリューム全開のときにはよいのだが、しぼっていくと2次側のインピーダンスが変わるのでハイが落ちる欠点があります。マランツ、マッキントッシュにはコンデンサが使われていないのは、この欠点を犠牲にしても音質をよくする方法を採用しているのだと考えられます。直流もれのほうはともかく、ハイが落ちるほうはシールド線の使い方で解決できるので配線の場合にのべます。