2021
03.04

作りやすくて性能のよい 12AX7×4、12AU7×2 ステレオ・プリアンプの製作 4=完

音らかす

ヒータ回路の電圧降下用のホーロー抵抗は、ワット数に余裕は持たせて、電流を流すとかなり温度が上昇するので、ビニール線などが直接ふれないように気を配らないと、後でトラブルのもとになります。

このように本体、前板、後板とそれぞれ配線が終わったら、まず真空管側(D板)を本体にボルトとナットを使って組み立てます。塗装をしてあるので、ボルトで止める部分は、ナイフかサンド・ペーパーを使って部分的にはがしておかないと、電気的にD板と本体がつながらないのでシャーシ・ケースの働きをしなくなり、外部誘導をうけてハムが出るから忘れないように組み立てたら、直空管(真空管?)のソケットから出ている色分けしたリード線を、基板のそれぞれのピンにハンダづけを行ったうえで同用にD板をとりつけ、シールド線、リード線をそれぞれの位置にハンダづけします。

トーン・レベル(VR-4)の中点からV4のグリッドにつながる線は、シールド線を使用する場合、シールドは、VR-4のアース・ピンに、アースすること。理由はV4のカソードに100μFのバイパス・コンデンサが入っているのでカソードにシールドをアースできないからです。この辺はあまり誘導ハムの心配のないところだから、リード線を使ったほうがよい。回路のところでのべたように、ボリュームをしぼっていくと、シールド線個有(固有?)のCが働いてハイが落ちるので注意を要します。

バランス(VR-7)の中点からV5のグリッドに行く線はV5のカソードにバイパス・コンデンサが入っていないので、ボリュームのところでシールドをアースしないで、カソードに、つまり3番と8番のピンにアースすればVR-7をしぼって行っても、ハイが落ちることはありません。したがって、ボリュームのアース・ポイントにシールドをアースしないよう念のため。

これからは、めいめい自己流もあることだから、順序は自分のやりよいようにやればよいが、あらかじめ頭の中で計画を立て、ところどころスケッチしておけば仕事がきれいに上がります。

これで配線が全部終わったわけですが、真空管を差し込む前にテスタを使って誤配線がないかどうかを十分に調べましょう。作った本人より、他人が調べたほうが有効な場合が多い。一人で調べていると、同じ勘違いをして、つまらぬミスを見のがすことがありますから。

念のために1点アースポイントをシャーシから一度はずし、アースの部分を初段からテスタでいちいち当たってみて、どの点もシャーシにアースしていないか確かめてみます。途中でどこかが間違ってシャーシに落ちていると、ハムの原因になります。各アース・ポイントが、1点アースの線につながっていなければならないのはいうまでもない。これらの点を確かめたうえで1点アース・ポイントにもとどおり配線します。こうして、各アース・ポイントが太目のアース母線を通って、回路も、B電源のマイナス側も、ヒータのマイナス側も各チャネルごとに、背中合わせになっている1点アース・ポイントに落とすことができます。ヒータ線のアースは上下いずれのアース・ポイントにつないでも、差しつかえありません。

配線が終わったら、真空管とパイロット・ランプを差し込んでから電源を入れます。電源を入れたらすみやかに、V6の5ピンとアース間の直流電圧を計り、69〜75.6Vの範囲にあるかどうかを確かめ、もし75.6Vより高ければ直ちに電源を切って、ヒータ電圧調整用のホーロー抵抗の値を調べて69〜75.6Vの間になるようにします。69V以下の場合、真空管の動作が不良になるし75.6V以上だと真空管のヒータを焼き切るおそれがあります。

約30秒で各部の電圧配置が回路図のようになるから、テスタで調べてみます。回路図にある電圧は、電源100VACの時にHEATH KIT IM-25のトランジスタ電圧計で計ったものですから、内部抵抗の低いテスタで計ると幾分下目に出ることがあります。10%位の違いは一向差し支えないが、カソード電圧はなるべく丁寧に調べます。もし球が悪いか誤配線の時には大きく違ってくることがあります。V3のグリッド・バイアスはできるだけ3〜4V位になるようにしなければならないが(回路図の通り配線すればそうなるわけである)0.6V以上あればよいということです。V3のプレート電圧はB電源のところを2、3か所当たって300V位のところから取り出します。この段はカソード・ホロワになっているので、B電源のリップルが少々残っていてもハムが出る心配はありません。

これでプリアンプは全部できあがりましたので、各入力のゲインのレベル合わせを行ないます。

【調整について】
プリアンプは、メイン・アンプと違って、出力管がないために、調整らしい仕事はないが、ゲインを合わせる必要があるので、あえて調整と書きました。手持ちのカートリッジの中で比較的標準だと思われるものに、プリアンプを繋ぎメイン・アンプをとおってスピーカから出てくる音を聴きながらプリアンプのメイン・ボリュームを中央位までまわしたとき適当な音量になるよう、前に述べたNF用半固定抵抗をセットします。メイン・アンプとスピーカの能率がよい場合、かなり深くNFをかけなければ音量が大きすぎてボリュームをすこししかまわせないので不便です。いろいろ実験から、NFは少々かかりすぎていても発振したり周波数特性がくるったりしないようです。もちろんこの時に左右チャネルのバランスも合わせた上でVR-8をセットします。チューナおよびテープ入力には半固定抵抗があるので、これも実際に音を出してみて、フォノから切り換えたときに入力ともがだいたい同じ位の大きさになるようにレベル・セットします。

最後に、トーン・コントロール段の入力側にあるB500Kの半固定抵抗も両チャネルとも適当な位置にセットして、トーン・コントロール・バイパス・スイッチをまわして、トーン・ロントロール「(コントロール?)を入れたときにバイパス時とゲインが違っているのを調整します。これは是非ということもないのですが、トーン・コントロールを入れたり出したりしたときにあまりゲインが変わるのは不愉快だからです。(できればこの調整は、発振器とオシロ・スコープでやりましょう)

これで全工程終了です。指定どおりの部品を使っていれば、性能のかなりよいプリアンプができ上がっているはずです。もしハムが出たら、回路のアースのとり方が間違っているか、電源部のマイナス側の線のアース・ポイントをチェックします。トランスが悪いとハムを出すことがあるので、トランスに耳をあててみて、ブーンと音が出ていたら、取りかえるより他に手はありません。3A40Bは、その点完璧であった。

第13図のようにセットして音を出してみたら、大いに満足すべき音が出たし、音にうるさい友人5人にそれぞれ耳も貸してもらいました。自己満足になってはいけないからです。本物のマッキントッシュC-22およびマランツ#7を持っておられる人のところまで持ち込んで、耳で聴きわけられる程の違いは見られなかった。

【測定】
周波数特性のうちRIAAカーブはグラフより第2表にあるようにそれぞれの周波数の出力デシベルに、本機の測定結果を示してあります。左のRIAAの表とすこしずれているが、測定の誤差もあるので、これだけ正確にできていれば先づ申し分はないと思います

第12図はチューナ入力よりシグナルを入れて、トーン・コントロールをバイパスさせたときのカーブです。音域が多少落ちているのはシールド線の影響のためだろうと思いますが、カタログ等にある30,000〜40,000Hzなど全く不要なので、あまり気にすることはありません。シールド線のよいのを使えば、もうすこしはよくなると思われます。

トーン・コントロール・カーブは測定しても意味がないし、バイパスして聴くのだからという理由から、省略しました。

なお、測定に使用した機器は、バルボルがHEATH KIT IM-25(ソリッドステート)、オーディオ・ジェネレータがトリオのAG-201、オシロスコープは同じくHEATH KIT・MODEL 10-12、ミリバルはトリオのVT-100残念ながら筆者はひずみ率計を持っていないので、ひずみ率を計ることができません。

 

【終わりに】
シャーシのまま裸でも、音楽を聴くのが目的なので一向差し支えないが道楽となればあまりみっともないのもどうかと思うので、本機は巻頭の写真のようなキャビネットに入れてあります。

以上でこの項を終わりますがくどくどと書き並べたので、ベテランの方々には蛇足であったかもしれません。とにかく、誰にでもできるということなので、できるだけ詳しく書いたつもりです。なお、不明な点があれば、編集室切付で遠慮なくお尋ねいただければ、筆者の解る範囲でお役に立ちたいと思います。

(以上)

(注)パネルにChriskit MARK Ⅴとありますが、これは私のアメリカン・メソジスト・チャーチでの洗礼名を使ってあり、パネルのかざりのためで商品名ではありません。

 

筆者注:この記事はラジオ技術1970年8月号に掲載されました。そのままの復刻を心がけましたが、パンチミスも含めて誤りがあるかもしれません。ご容赦下さい。