2021
03.27

6CA7PPパワーアンプの製作 製作/調整編 1

音らかす

前号で、回路構成の各部の働きがのみ込めたところで、いよいよ製作に入ります。(図面番号は前号のつづきです)

あまり愉快な仕事ではありませんが、キットでないので,シャシの穴あけをしなければなりません。回路編でも述べましたように、トランスがかなり大きく重いので、モノーラル2台に仕上げました。

こうする事により、電源のレギュレーションが良くなるばかりでなく、フィルタ・コンデンサの容量に余裕が出来ます。これはリップルの点だけではなく、音のぬけ具合に対して、大きな働きがあります。一般に音声交流電圧は、プレート抵抗の両端に出るように言われていますが、実際は、この抵抗のプレート側と、フィルタ・コンデンサのアース間に出るわけですから、このフィルタ・コンデンサに余裕がある事は、音質上大切な事なのです。もちろん、左右両チャンネル共通より、2台のモノーラルアンプの方が良いのは言うまでもありません。

シャシの加工

第5図がその製作図です。出カトランスにOY36-5の代りにCSZ36-5をお使いになる方は、このままの寸法で良いのですが、タンゴのFW50-5を使用する時は、ねじ穴の位置が違って来ます。

第5図

人手不足のためか、賃金高の所為か、シャシの特注はここ一年程の間にとても難しくなりました。仕方なくリードのGT-3型を購入して来て、穴を開けたわけです。塗装済ですので、余程器用な人でないと綺麗にゆきません。一応焼付塗装ではありますが、一度、ひっぱがして、自動車修理工場で塗りなおす事にして、傷が付くのをかまわず加工しました。そのかわり、クラウンデラックス用のグレーを掛けてもらいましたので、びっくりする程立派に仕上りました。塗装屋さんの話では、アルミニウムに塗装する場合、プライマーに良いものを使わないと、はげ易いという事です。

残念ながら, このシャシは裏ぶたをアルミニウムに、タップを切って、3ミリのボルトで止めるようになっていますので、すぐにネジ山が馬鹿になってしまいます。このために、2月号までのプリアンプのシャシは、ふちを外に曲げて、ボルト・ナット止めにしたわけです。こういう品物がメイドインジャパンの不評の原因になっているのではないでしょうか。舶来崇拝者を生み出す原因が、こんなところにあると思うのです。いくらでも工夫はあると思います。何年も愛用するアンプのシャシにしては、一寸とお粗末だと思います。もっとも、大量生産品で大メーカーが作るものでないだけに、無理もないと思いますが、何とかならないものでしようかね。

部品のとりつけ

穴開けが終ったら部品の取り付けですが、プリアンプに比べると、大いに簡単です。トランス類, チョークコイル,フィルタ・コンデンサは後で付ける事にして、その他のもの、と言っても真空管のソケット、入・出カピン、T型ラグ板2枚づつ、メータ、スィッチ、パイロットランプだけですので、わけなく取り付けられます。初段管のソケットはシールド付きをお勧めします。測定の項で述べますが、S/Nの点で大いに役立ちます。シールドケースをかぶせても、6267の内部コンダクタンスの変化には全然影響はありません。

GTソケットは、質の良いものを使わなければ、出力管のように大きな電流が流れるものには、良く接触不良を起こします。もし、 6CA7の5Pが浮いたら、ゼロバィアスで一瞬のうちに、球がアウト。ソケットのビンの向きは実体図通りにしなければ、後で配線の時にまごつきます。

実体図(第6図)には、3結、ウルトラリニア切換用スイッチが入っています。表から見て一寸まわしにくいところにあるようですが、何分このスイッチはやたらにまわすものではありませんので、わざとこんな場所を選んだわけです。しかも、180度まわすようになっていますが、これはデザイン上、このようにしただけです。

実体配線図

配線をはじめる

ヒータ線から配線してゆくと、やり易いようです。初段管に近い方の出力管がV4ですので、 V1とV4のヒータを共通にしてV2とV3をつなぎます。トランス側はまだ、パワートランスが付いていませんので、ボルト穴に通して、ぶらぶらしないように止めておきます。もちろん、単線を使用します。プリアンプの製作のときに理由は、詳しく述べました。

ヒータが終ったら、C電源回路(バィアス用)に移ります。このようにプロック毎に配線してゆくと、誤配線がありません。ダイオード及びリップルフィルタ・コンデンサの極性に充分注意して下さい。ダイオードは取り付ける前にテスタで導通テストを行ないます。逆方向が無限大に近く、順方向が約75ΩであればOK。私は、これがショートしていたために、コンデンサをパンクさせました。パチンと見事な音がします。この当りは配線が混み合いますので、ビニールチュープをコンデンサのリード線にかぶせて、 ショートしないように注意を払います。

アース線の処理は、実体図を参考に、他の位置に落とすと、ハムの原因を作ります。この通りに配線すると太いアース母線を張る必要はありません。つまり、A、B及びC電源のアースはトランスのそばに一点におとす事が、S/Nを良くするコツです。

配線はしっかりと、からげ配線と呼ばれる方法で、ラグ端子板(サトーパーツ製T型ラグ、ML-182、6P及び8P)にリード線を巻き付けて、その部分をハンダゴテで焼いて、充分熱くなってから、ヤニ入リハンダをくっつけますと、及い込まれるようにハンダがうまくのります。良く、ハンダゴテの先にハングを溶かして、それをピンに移すようなやり方で、ハンダ付けする人がいますが、これではテンプラハンダになりかねません。

抵抗類は店頭に並べてあるうちに、大分さびていますので、リード線を小刀の背中などで良くこすって、ピカっと光らせてから取り付けると、うまく付きます。くどくどと述べるようですが、もし、どこか一カ所でもハンダが浮いていたり、何ヶ月かたって不良個所が出たら、たちまちゼロバイアス。ペースト類は、たとえ無酸性でも絶対に使用してはなりません。アメリカ製のキットなどには、ペーストを使用したものは、保証カードが適用されない旨、必ず書いてあります。

6CA7のグリッドリーク抵抗、100kΩ(R-12、 R-13)は、中点でB5kΩ(VR-3)が働き、DCバランスがとれるようになっています。このVR-3の両端からアースされているブリーダ20 kΩ(R-14、R-15)を忘れるとDCバランスがとりにくくなります。

初段管は3結ですので、PlとP6、 P3とP8をつなぎます。実に配線のしやすい球だと思います。V1とV2を繋ぐラグ板は第7図のように、別に配線すると楽です。挿し画で解かるように、私はベーク板を切りぬいて自作しましたが、8ピンのハーモニカ型ラグ板を使用しても同じです。自作した理由は、今月号の表紙写真でわかるように、ネームプレートをすぐこの上に付けましたので、ボルトの穴の間隔の都合で、他に意味はありません。

150 pF(C-2)は、後でオシロを観察しながら位相補正をする時につけますので、配線の時にはあけておきます。測定器無しで製作する場合は、この補正部品は、配線の折に付けておけば良いでしょぅ。しかし、その場合は、本機の通りに、部品も全部そのまま使用しないと、うまくゆきませんので、念のため。

なお、C-2とR-5とは、C-2を位相補正の時に後からつけ易いように、回路図と実体図では違っていますので御注意下さい。

V2の2Pからアースされる30 pF(C-8)は, ソケット用ボルト穴にアースラグをもうけて、それに落すわけですが、調整の時につなぎますので、アース側は浮かせたままにしておくと良いでしょう。(オシロを見ないで作る時は、ここもハンダ付けしておきます)

V3とV4のソケットのP1とP8は全部シリーズにつなぎ、都合の良いピンから、出来るだけ正確な15Ω(R-20)の抵抗を使って、C電源用アースピンにつなぎます。30Ωの精密級をパラレルに(2本をくっつけて)つなぎますと、なお、正確になります。この抵抗は前に述べましたように、プレート電流を正確に測る為のものですから、正確なほど良ろしい。と言っても、どうもメータにも誤差がありますし、真空管のバラツキもある事ですから、あまり神経質になる必要もありません。

DCバランスをシャシの外から点検出来るようにする為の陸軍端子は、外から一部金具が見えていますので、うっかり手を触れると、400V近い高圧がかかっていますので、物凄いショックを受けます。従って、内径10mmのビニール・チュープを短く切ってかぶせておきます。オーデイオ・リスナーは、電気に強い人々ばかりとは言えませんので……。

V2のプレート、 V3とV4のグリッドとを1KΩを通してつなぐコンデンサC-6とC-7及びC―4、C-5は、V2側のみハンダ付けをして、V3、V4側は後でハンダ付けします。ショートするといけませんので、ビニールチューブを忘れないように。

V2のグリッドと、V3、V4のプレートに渡すクロスオーバー型位相補正コンデンサ1.5pF(C-3、C4)は、1.5pFという数値のものが入手出来ませんので、3 pFのチタンコンデンサをシリーズにして使います。

私が製作した4台とも実体図のようにV2-1をV4に、V2-2をV3につないだのですが、正帰還にはなりませんでしたがどの記事を見ても、例のギャーという音が出たら…と書いてありますので、念の為にこのようにしました。この通りの部品を使用すれば、始めから実体図のようにつないでおけばよろしい。正帰還にはなりません。普達、正帰還になった時は、出力管のプレート側を入れ換えるようです。3極管の時には、それで良いのですが、切換スイッチがあったり、ウルトラリニア結線になったりするので、出力管のところでの入れ換えが面倒なので、出力管のグリッド側で入れ換えるわけです。

すべての配線が終ったところで、トランス類等、まだ取り付けていない部品をボルトで取り付けます。かなり重い上に、電圧チェック等の為にさかさまにする事がよく有りますので、出カトランスの角にガムテープ等を張り付けておくと、傷が付かなくて良いと思います。参考までに。

電源トランスにつなぐ二本のDS1Kはまだ付けないでおきます。それから出カトランスのP7とVR-5(B30kΩ)とをつなぐリード線はNFB回路ですので、 VR-5側を外しておき(測定ぬきの場合は実体図通りにつないでおきます)各部をもう一度誤配線がないか、回路図と、実体図の両方とてらし合せて、綿密に確かめます。NFB、位相補正回路が全部外れているかもう一度確めて下さい。友人に見てもらうと、同じところの誤配線を見のがさないですみます。