2021
05.17

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その1 プレーヤシステムの巻 1-2

音らかす

トーンアーム

アンプやスピーカにえらく情熱をそそぎ込むのに、案外トーンアームに無関心な人が多い。私はよくレコードからテープに音をとる。300枚近くディスクがたまってくると場所を取る以外に、録音が古くなって殆ど聴かなくなるのが、だんだん増えてくる。その点テープだと、新しく良い録音で演奏の優れたレコードが出るたびにふき替えが出来る。そんな目的で、時々レコードを友人から借りる事がある。そんな時殆どといって良い位、音溝がつぶれているのにぶつかって、借りたものの録音が出来なくて返してしまう結果になる。

こんな状態で、装置の良し悪しを話題にするのは、いささかお間違いというべきではなかろうか。 トーンアームと、カートリッジがいけないのである。

しからば、 どうすればトーンアームの良いのを選べるのかという事になる。いろいろな説があるが、家庭で比較的道具を使わないで、トーンアームの適、不適を選ぶ方法、つまりその測定法について述べる。このテストは、トーンアームとカートリッジの両方を同時に見わける方法であるが、 どうせ片一方だけでは音が出ないので、むしろ当然の事である。

用意するものは、文具屋などに売っている、硬質塩化ビニールの下敷きで30cm角以上あれば、厚みはどうでも良い。それ以外に二、三必要なものもあるが、どこの家庭にもあるものなのでその都度ふれて行く事にして、早速テストの準備に掛かる事にする。一つ問題がある。最近のカートリッジは、隋円(「楕円」の間違い)針が安価に作り得るためか、円錐形のものが少くなって来た事である。殆どの場合、隋円(同上)針だと、 レコード溝のV型の両面に当たる両肩のところは、当然の事(「な」が消えている)がら、良く研磨してあるのだが、空間になる中央尖端がザラッぼくなったのが多いので、次に述べる、インサイドフォースキャンセレーション(Inside force Cancellation)のテストでは、 ビニール面に針先がくい込んで行き、テストが出来ない事がある。したがって、円錐針でないとうまく行かないので、あらかじめことわっておく。800倍の金属顕微鏡で調べたら、グレースのF8-Cの先は、隋円形であったが、よく磨かれていて、 このテストに充分使用出来た。これをもって一流品と決めつけるのはいささか早計であるが、日に見えないところに神経がゆきとどいていて気持ちが良い。メーカーの良心だと、あえて私は言う。

幅2cm位で厚さ9m/m位の棒切れを17cm位に切り取り、第1図のように両端に釘を打つ。ビニニルシートを丸形に切り抜くためのコンパスである。センターを決めて、両面から、グルグルけがいて行くと、割合簡単に丸形に切り取る事が出来る。これで準備は終わり。

第1図

レコードの代わりにこのビニールシートをターンテーブルにのせて、カートリッジ指定の針圧をかけてから、33⅓r.p.m.でまわす。そして針をビニール面にそっとのせる。アンプは切っておかないと、ザーザーと音が出るので不愉快である。インサイドフオースキャンセレーションがとれすぎていると、針が外周に飛び出すので注意が必要である。

キャンセレーションが全然効いていないか、キャンセラーがトーンアームに付属していないと、針先はスーッと中に入って行って、センターで止まる。ビニール面のどこに降ろしても、その位置で止まれば、そのアームはインサィドフォースキャンセレーションに関する限り及第でで({で」がひとつ不要)ある。但し、先程に述べた隋円針だと針先がビニール面をカッティングして行くので、どこででもピタリと止まり、このテストは出来ない事になる。

このテストは、ターンテーブルの回転を変えてもそのままの結果が出る。私のは78回転は無いが、78回転でも同じ事である。つまり、それぞれの針圧によって変わって来るわけで、針圧を変えれば、当然もう一度キャンセレーションをとり直す必要があるのは申すまでもない。この時、インサイドフオースキャンセラーのついているアームで、その強さをいろいろ変えて見ても針先がピタリと止まるのは、針先がビニールにくい込んでいる証拠だから、その針では、 このテストは出来ない事になるので、止まったから良いのだ、と思うのは早計である。念のため。

次がトーンアーム、カートリッジのトラッカビリティ(Truckability)(Tractability?)の良し悪しを見わける一つの方法である。勿論、 このテストをもって、すべて終われりと言うわけにはゆかない。メーカーなどにある、何百万円もするような測定器とはわけが違うからであるが、少なくとも、次のテストに合格しないという事は、それがあくまでプリミティブ(Primitive)なものであるだけに、根本的な問題点である事は容易にうなずける。

まず、ラテラルトラッカビリティ(Lateral Truckability)のテストである。

ドーナツ盤と呼ばれる、まん中に大きな穴の開いた盤を、ターンテーブルセンターにその円周が当たるようにのせる。ドーナツ盤の下に、先程のビニール盤を置いておかないと、針が溝から飛び出した折りに針先をいためる事がある。

針先を、そのレコードの外周あたりに置いてから、ソッとスイッチを入れる。写真2のように、 トーンアームが左右に大きく首をふる。この時に針圧を増やさないと、針先がとび出してしまうのも落第。このテストはひとりトーンアームのみに限らず、使用カートリッジによっても変わる。よく針を降ろした途端に、針先がツツッと内周に走って行って、レコードにキズをつけるようなのは、まずこのテストに合格しなぃ。33⅓及び45r.p.m.の両方でテストする。次にバーティカルトラッカビリティ(Vertical Truckability)のテストに移る。さきのドーナツ盤をセンターヘもどして、 レコードの外周の一部を持ち上げて、 1円玉を5枚ばかり下にはさむか、パイロットランプなどをはさむ(写真3参照)。レコードの片側がもち上がるから、そのてっペんに針を降ろして、モータをスイッチオンする。プレーヤ・システムと呼ばれる、アーム付きのものは、殆どこのテストあたりで、うまく行かないものだ。市販品は、一般に、左右動に対しては、割合スムーズについて行くが、上下動には、ギコチないのが多いようだ。店頭で見分ける方法の一つは、カートリッジと同じ位の重さのものを、ヘッドシェルの上にのせて、完全に水平をとり、そっと頭を叩いて上下にふらせて見る。割合永く上ったり下ったりのスイング運動が続き、最後に止まるまでスムーズさが保たれるものを選ぶのが良いと思う。営業妨害になるので名前は言えぬが、舶来の、かなり高価なプレーヤ・システムで試して見たら見事に不合格。或る雑誌で、オーディオ評論家がかなりほめていただけに意外であった。出来る事なら、オーディオショップで購入する折りに、頼んでこのテストをやって見るのが一番安全な買い方である。ことわられたら、他の店で買えば良い。自分が永年使用する道具である。オーディォ評論家先生の美辞麗句だけを信用して買うのは大いに危険である。

この次のテストは、チと苛酷であるが、ついでにやって見るのも面白い。このドーナツ盤をかたむけたまま一方の端へよせる。写真4のように、針先は、水道橋の遊園地のフライイング。ソーサーにのっかったようなものである。上がったり下がったり、右へ行ったり左へ行ったり。とにかくみものである。バーティカルとラテラルの両方のテストがいっぺんに出来る。

この項最後のテスト。これが最も実際のトラッカビリテイの問題点に近いもので、手許にかなりそっていて針とびがするようなのがあると、それを使えるのだが、こんなのは、 レコード屋にクレームをつけて、返品してしまっている筈であるから、 1枚不用になったレコードを、出来れば30cm盤の方が適格なテストになるので、ヘアードライヤーを使って第2図のように変形させる。あまリヘアードライヤーを近づけすぎると、溝まで変形させてしまうので、根気よく熱を与える。ストープの熱を利用して、 2、 3個所凸凹にするのも面白い。±5m/m位のゆがみで良い。

第2図

これ等のテストで針とびを起こすトーンアーム及びカートリッジは、ハィファイト(「と」が抜けている)は逆行しているわけだから、当然音が歪んでいる事になる。

音の入り口でひずんでいれば、出口までに200倍以上、その歪が大きくなる事は先に述べた。

スピーカや、アンプに、 とんでもない金(かね)をかける前に、ここんところ、しっかりしておかなければならないのは、いうまでもない。(以下次号)

以上、電波技術 1973年11月号