05.19
ステレオ装置の合理的なまとめ方 その2 プレーヤシステムの巻 2-1
トーンアーム(続き)
トーンアームを店頭で見分けるのに一つの方法がある。最近のトーンアームは、ほとんどの場合スタティックバランスになっているようだ。アームの上下動は、テコの応用であり、テコである限り、必ず支点がある。市販品を全部調べた事は無いので、あまり責任は持てないが、写真5に示したような構造のものが多い。断面図は第3図のようになっている。時計などの軸受けによく使っている仕組みである。歯車のように円運動をする場合には、 この構造が適当であるが、テコのようなシーソー運動にとっては、ナイフエッジが一番合理的な方法であり、そのために計量器は、ほとんどすべてナイフエッジになっている。
仮に、第3図の両側の軸受けを締め過ぎると、軸は動かなくなり、ゆるめると、ガタガタになる。
先日、頼まれて、トーンアーム選びのお供をした事がある。驚いた事に、10本ばかり調べた中で、スムーズに動くのが一本だけしかなかった事である。軸受けの擦り合わせが悪いのか、締め過ぎのせいである。だから、 レコードのソリについて行かないトーンアームが、随分市場に出回っているのだと思う。
地球に、重力と摩擦がある限り、この問題はつきまとう。だから、ナイフエッジが一番合理的な、しかも、安価な方法として計量器に使われているのである。国産メーカーの反省を促したい。
店頭で見分ける簡単な方法として、写真6のように、 トーンアームを平らな台の上に置き、シエルの上に、カートリッジの代わりに硬貨を置いて水平をとる。そして、シエルの上に郵便切手を1枚ソッと置く。これで頭の下がらないのは明らかに落第。又、切手をそっと取り除いても、元に戻らないのもお勧めは出来ない。
『トーンアームとノイズ』こんな事を書くと、トーンアームとノイズとどんな関係がある、と言う人がいる。大ありのコンコンチキである。数年前に舶来嫌いの私が、 SMEをイギリスヘ行ったついでに仕入れて来たのも、そのためである。
SMEが最高のものだと誤解されてもいけないので、ことわっておくが、SMEにも具合の悪い点が一つある。したがって、手ばなしでお勧めするわけには行かぬ。
自重を軽くする為か、材質がアルミニウムである。困った事に、一番大切なところ、つまり、首の付け根のところも、すべてアルミニウム。首を抜いたり刺したりするときに必要な接点のところも、同じ材質で出来ている。このピンが中に入ってしまって出てこなくなり、シエルとの接触不良がよく起こる。しかも、そこに使ってある絶縁材が、溶剤に弱い樹脂なので、ごく少量のアルコール以外では、クリーニング出来ない。したがって、引っ込んでしまう度に、おっかなびっくりで、丁寧にゴミを拭きとって、 ピンのバネのところをもう一度外へ出さなければならない事になる。私のように、滅多に首のすげかえをしない者でも、年に一度位はこのトラブルに遇う。或る日突然に片方だけ音が出なくなるのは、まことに不愉快である。
その上、カウンターバランス用錘を動かすのに、ヘックスレンチ(Hexwrench)を使わなければならないので、カートリッジをのべつ取り替えている人々には不向きである。ここんところは最近新型(3009、S2 Improved)が出て、螺線を切って、錘を回せば、出たりひっ込んだりするようになっているので、便利になった。
話をもとに戻すが、ほとんどのトーンアームは、プリアンプとの接続用シールド線とのつなぎ目が、 SMEのような磁気シールドをしていない。(写真7参照)
このせいか私の製作記事を参考にプリアンプをお作りになった方々から寄せられるハムの原因の大半が、トーンアームにあった事は特筆に価する。
このテストは至って簡単である。プリアンプのPhonoの入カピンを外してから、プリアンプに灯を入れて見れば判る。厳密にテストする為には、Phono入力ピンに、めくらピンジャックを刺し込んで、ショートしてハムが止まれば、ハムの原因は、 トーンアームにある事はまぎれもない物理的現象である。
不幸にして、この実験でトーンアームからハムを拾っている場合の対策はピースの空鍵を利用して止める事が出来る。第4図のように罐を使って、トーンアームの根元のところをシールドすれば止まる。
アマチュアに出来るこんな簡単な事を、何故メーカーはやらないのだろう。
シールド線
プレーヤーが、あらゆる点で完全になったところで、アンプとつなぐシールド線という段取りになるが、市販品の中には、 とんでもない粗悪品があるから、気を付けなければならない。
1メートルあたり470pFもの大きな容量を持っているのもあった。メーカーの名前を言って事を荒立てるのは止そう。
470pFあれば何故高域が落ちるのかと言う質問が出る。シールド線とは、御承知のように、まん中に芯線が入っていて、この線を信号が通る。その信号線を外部誘導雑音から守る為に、その周囲をブレード(braided)またはスパイラル(Spiral)状のシールド線がとりまいている。本来芯線とシールド線とは、その間にある、ポリエチレン又は塩化ビニール等で絶縁されていて電気は通らないのであるが、絶縁物の材質及びシールド線の構造の為に、シールド線その物が一種のコンデンサの働きを持つようになる。その時の1メートルにあたり470pFもあったり、35 pFしかなかったりするものが出来て来る。しからば、470pFあるシールド線で、プリアンプとパワーアンプとをつないだ時の事を考えてみる。
第5図がその接続の様子である。パワーアンプが管球式の場合は一般に入カインピーダンスが高く、仮に330k Ωとすれば、シールド線の影響で、図の右側のように、パワーアンプの入カインピーダンスの330k Ωと並列に470pFが入るので
の計算から1,026Hzより高い周波数に対しては、高域フィルタが入った事になり、高音不足が起こるのも当然の事である。
選び方は割合簡単で、コンデンサの容量などを測るための、ウィーンブリッジ測定器(デリカ・ミニブリッジM1A、サンワ0ブリッジE 1-411)で測定すれば、非常に正確に出る。大抵のパーツ屋には在庫しているようなので、頼んで測ってもらえば間違いのない買い物の出来る。行きつけのパーツ屋を決めておくと、 こんな時に役に立つものである。私が今までに入手したものの中で、Technics低容量コードRP-032が一番具合が良かったので2C2Vとか、3C2Vのような、テレビ用同軸ケーブルで自作して、ピンのところで、のべつトラベルを出しておられる方にお勧めする。線間容量も35pF/米と、3C2Vなどより少ない上に、色分けがしてあって、しなやかで、 ピンジャックもしっかりした、まことに申し分のないシールド線である。