2021
05.22

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その3 テープデッキの巻 1

音らかす

プログラム装置にバラィエティがある事は、オーディオリスナーにとっては楽しい事である。なかでも、テープデッキはその使用法が最も変化に富んでおり、レコードのように、スタジオで録音され、プレスされたものを聴くだけのものと違って、レコーデッドテープあり、 自分でレコードからダビング(dubbing)したり、FM放送をエアーチェックしたり、それだけに性能の良し悪しの考え方にもバラエィティがあるのは当然の事である。

レコードプレーヤーの方は、その方式がダイレクトドライブやベルトドライブなどの種類があり、それを音楽更生するのにMM型、MC型、コンデンサ型などの種類の違ったカートリッジを使用するにしても、ターンテーブルが、毎分331/3回転するという事には変りはない。

一方、テープの方は、毎秒38cm、19cm、9.5cm、4.5cmと多種多様で、その上2トラックステレオからカセットまで。一寸、品種過剰の感があり、 メーカーにとってはむづかしい問題はあるかも知れないが、アマチュアにはそれだけ選択の自由があるわけで、楽しい限りである。問題は、プレーヤーに比べて、万事割高につく事で、それだけに、よけい、選択には慎重を要するのだ、と私は思う。

38cm、2トラックステレオ

最も高級品である。マニアとしては、予算の点はともかく、飛びつきたい気持は良く解る。私も今までに、 さすが38cmだという音質に舌を巻いた事がある。ダイナミックレンジ、周波数特性、S/N、どれをとっても、 レコードより数段上のものである事には間違いない。それでも私は、この種のプログラムソースは、アマチュアにとって、あくまで、私が常に述べている気違いじみた、というより、気違いそのものの、マニア以外には無用の長物だ、と断言する。

すべて、物事を断言するには勇気のいる事で、断言するからには、それ相応の裏付がなければならないし、つっ込まれて、しどろもどろな返事は出来ないからだ。

しからば、何故、38cmが、音質が良いのにもかかわらず、オーディオリスナーに不向きであるかについて考えて見る事にする。

まず、第一にプログラムソースが、コストパフォーマンスは論外としても、お話しにならない程限られていることである。「カラヤン・ウィーンを聴く」事も出来ななければ、マリーナアカデミーの「四季」も手に入らない。そんなら自分で、コンデンサマイクを使って録音すれば良い、とおっしゃるかも知れない。こんな人々こそ、最悪のオトキチの見本みたいなもので、何百万円の録音料を支払うのならともかく、四流どこのコンボを入れるのすら、コネがいる。普段バッハ、ベートベンを唱えている人が、38 cmだと、コンボが出たり、何とか市立吹奏楽団のクワイ河のマーチを鳴らしておられるのに接すると人間の脳みそもコンピュ―夕と同じように、一箇所狂うと、とんでもない答えが出るものだと、つくづく思うのは余計な御節介、 といわれるかも知れぬ。始めから断わってある。オーディオリスナーのための装置のまとめ方である。『マニア』のおつき合いをするつもりはないので念のため。

カセットデッキは、残念ながら、ときどき聴く事はあるのだが、今までに使った事がない。後で述べるが、オーディオリスナーとしての私にとって、テープデッキはあくまで、音楽を聴くためのもので、あまり短い曲は別として、 7号太ハブリールを19.5cm/sec.でまわして、往復すれば一曲又は二曲が楽しめるようにFM放送、レコード、あるいは録音済みテープなどから録音する事が多い。そんな場合に、カセットだと、テープの長さがそれぞれ限られていて、不便だと思ったのが、そもそもカセットデッキに関心を持たなくなった最初の理由である。食わず嫌いだと思われるかも知れないが、今までに、他人が使っているのを聴いた範囲では、低音・高音共に私の好みに合わないし、ヒス音が比較的耳ざわりなのも、あまりいただけない、と言ったら、カセットファンに叱られるかも知れないが……。

ドルビー回路に、初めてアメリカで接した時に、そのいささかブーミィな音にやっぱり思ったとうりだと感じた記憶が先入感になってしまったのかも知れない。

自分が関心を持っていないコンポーネントについて、無責任な事を書くのは妥当ではないから、この位で終わって、次に進む事にする。

オープンリールテープデッキ

もうかなり旧間に属するが、ソニーから263Dが発売された時に、入手したのが、そもそもテープデッキとの馴れ染めである。だから、もう14年あまり、ひもいぢりをやっている事になる。

今にして思えば、その頃の機械は、現在のものに比べて、大いにチャチィものであった。ワンモータ式であったために、テープテンションが効かないので、テープ走行中は、絶えず、ヘッドに押しつけられる構造になっていた。酸化鉄の粉末をコーディングしたテープを、ヘッドに押しつけながら走らせるのである。これで、ヘッドがへらなければ、物理学者に申し分けない位である。しかも、ヘッドのシールドがうまく出来ていなかったために、パッドを手で手前に離すと、ヘッド面が空中に裸になるため、かなり大きなハムが出る。

私はオーディオ評論家ではないから、市中にあるテープデッキを全部調べるわけには行かないので、何とも言えないが、もし、現在市場に出まわっている、ワンモータ式のものに、 こんな仕組みがしてあったら、避けた方が賢明である。

予算の方もあるので、頭ごなしに書くのも考えものだが、ワンモータ式には、今のヘッドの点以外に、見逃せない、泣きどころがある。

ワンモータ式であるかぎり、ベルト以外にリムを使って、巻き取り側のリールを回わさなければならない。何も、公害日本にかぎった事ではなく、空気中には必ず、ほこりが存在するものである。このほこりが、リール用リムやベルトに、どうしたってくっつくもので、湿気と共に、そのほこりが、シャフトや、リムの表面にこびりつく。どちらも、一応は真円に加工してあるのだが、ほこりがこびりついたら、それだけの分、表面がデコボコになる。そして、それがからみあって回転する折りに音を出し始める。

悪い事に、 この音は馬鹿に出来ないもので、クラシックなど、曲が静かになった時に、デッキを置く場所にもよるが、とかく耳ざわりなものである。クリスキットの製作記事で、今まで、たびたび述べて来たが、夜半、ウーファーに耳をくっつけるようにしても、何も聴こえて来ない程S/Nの良いアンプを使って見ても、デッキから出る機械音が出ていたら、文字通り、頭かくして尻かくさず。

と言って、3モータにしたら、この雑音がなくなると思ったら大間違い。ここのところが、 メーカーにとって、頭の痛い問題点の一となるので、あまり大きな声では言えないが、モータの発熱を止めるために、かなり大きなファンがついている。これが、割合大きな音を出す。気になりだしたら、どうにもならぬ問題である。それやこれやで、近くA5300が出るので、取り換える事にしたわけである。ダイレクトドライブ方式は、 この点では大いに有利ではあるが、当分の間、値段の方は強気なのが玉にキズ。手で止めてみれば解るように、レコードを回すのには、殆んど力はいらないもので、設計の良いフォノモータであれば、ダイレクトドラィブであろうと、ベルト方式であろうと、回転音は極めて少ない事は前に書いた。だから、私にとって、テープデッキとフォノモータとのダイレクトドライブの出現が逆になってしまったわけで、実に不都合な話しであるが、トルクの問題で、メーカーとしても作り易い方から先に手を付けたのかも知れない。

テープデッキを購入する折りに、この雑音を調べる事はかなりむづかしい事で、一般にオーディオショップと呼ばれる店は、やかましい場所にあって、医者の聴診器でも借りてゆかなければ、店頭では見わける事は出来ないもので、嫁選びに苦労する。

機械音の次が、内蔵アンプのノイズである。二、三あたって見たら、このノイズが案外大きいのがあるようである。店頭でのテストは比較的簡単である。

適当なテープを一本ぶらさげて行く。店によっては、そのテープは磁気を帯びていませんか? と嫌な顔をするところもあるので、程度の良いのを持って行くか、出来れば、その店で新しいのを一本買うのが賢明な策である。何万円もの買物である。テープー本位ケチって、ノイズの大きいデッキを買ってしまったら、余計に高くつく。

『女賢しうして牛売りそこなう』とは良く言ったものだ。オーデイオ屋に頼んで、在庫品のうち出来るだけS/Nの良いアンプを借りてそれにつないでみる。スピーカから音を出したのでは、まわりの騒音に消されてしまって、わかりにくいので、これも程度の良いヘッドフォンを借りる。自分のを持って行くのが一番よい。

おそらく、店の者は、嫌な客が来た、という顔をするに違いないが、他の電化製品に比べて、大いに割高なオーディオ・コンポーネントを購入するのに、あまり遠慮する必要はない、と私は思う。この時に、アンプ及びデッキのレベルを合わさなければならないが、これにまた程度の良いレコーデッドテープがあれば良い。そのテープをかけて見る。出来るだけヒスの少ないものが良い。

市販品のプリ・メインアンプの中には、かなリノイズの大きいものがあるので、テープを回わす前に、アンプのレベルを適当な位置に合わせ、ノイズが出ないところで止める。テープのアウトプットにレベルボリュームがついていないものは仕方がないが、デッキのレベルを最小にして、テープをスートさせる。ヘッドフォンで聴いていて、音楽が始まったら、デッキのボリュームを上げていって、適当なところで止める。

参考までに述べておくが、デッキについているフォンジャックのアンプは、たいていの場合、かなりお粗末なものがついているので、 このテストには使えないので念のため。これは、独立したプリアンプでも同じ事なので、必ずメインアンプのスピーカ・ターミナルと切り換えられるようになっているフォンジャックを使わなければ、音質もいただけないし、ノイズも多い場合が多いので、注意を要する。

もちろん、 ヒスの大きいレコーデッドテープを使用すると、そのテープのヒスが出て来るので、これもテストには使えない。