05.26
ステレオ装置の合理的なまとめ方 その4 グレードアップのための測定器の巻 2
(1)交流電圧計
ミリバルで知られている交流専間の電圧計である。テスタにもACボルトレンジがあるのだが、周波数特性がミリバルに比べるとうまくないし、感度が悪いので、役に立ちにくい。
周波数特性、イコライザ・カーブ、ローブースト、ハイカット、トーンコントロール等、オーディオ機器の勉強のための測定、実験などには、ジェネレータと共にどうしても必要なものでオシロスコープ又はシンクロスコープと共にオーディオの三種の神器と呼ばれる所以である。
感度は高いにこした事はないが、−60dB位のところが良いと思う。−50dBに比べて、それ程割高でもないようである。−60dBとは、600Ω負荷の時、1mW(0.001W)の信号電圧を0dBmと決められた国際基格から割り出した数値である。オームの法則(E=I・R)により、
0.775V2÷600Ω=0.001W
の計算から、775mVを0dBとして、それから60dB下ったところ、つまり、1/1000である0.775mV(−60dB)で、そのレンジが型番により、最少1mV~1.5m Vのレンジまで読めるものの事を言う。
フルスケース(Full scale)1mVだと0dB目盛、0.775mVが右寄りになっていて、フルスケース1.5m Vだと、センターゼロと呼ばれるように、0dB目盛が中央附近にある。
第8図にトリオVT-106F及びVT-106を示して置いた。写真だと目盛りが読みにくいので、編集室に頼んで、線画で画いてもらった。他のメーカーの物でも同じ事である。
カタログデータのための測定には、センターゼロの方が、特にアッテネータを並用する時には、便利なのだが、勉強のためには1mVフルスケールの方が良いと思う。右側のセンターゼロの方はデシベルを基準にしてあり、他のはミリボルトを中心にしてあるからである。
オーディオ回路を全然理解してない人が、プラマイ何デシベルなんて口にしておられるのを見ると、全然英語がしゃべれないのに英語で歌っている駆け出し歌手を連想する。
少し贅沢かも知れないが、出来れば二台持ちたい。一台を入力監視用に、チャンネルセパレーション測定に、あるいは入力出力の両方を測ったり、ゲインを測ったり、NFB量を確かめたりするのに、一台を切換えスイッチで使っていると、不用意にメータに振り切らせて、こわしてしまい、かえって高くつくものである。
取り合えず、まず一台、 という時はミリボルを優先のフルスケール1mVの方が勿論良い。
(2)オーディオジェネレータ:オーディオ機器
オーディオ機器を測定するのに必ず要るのがジェネレータである。これにもピンからキリまであるが、勉強を兼ねた装置のグレードアップ用だと、そんな高価なものは不要である。
オーディオジェネレータは出力信号の安定度の高いもの、つまり、出力交流電圧が低周波から高周波までそろっているものと、出力波型に歪率が少ないものとの二種に別れているようで、その両方を満足させようとなると、かなり高価になるのは止む(「を」が抜けている)得ない。歪率は少ない方が良いのは当然だが、そのために出力電圧が不揃いなのも使いにくい。
測定器は、その使いこなしと使い方の良し悪しで、その性能が決るものである。猫に小判という言葉は、 このためにあると思われる位である。
比較的安価で、始めて測定器を使用する方々にすすめられるものの中で、私が使った事のあるジェネレータは、
菊水電子 418
トリオ AG-101
ヒースキット IG-18
である。勿論、アマチュアグレードであるので、それぞれ欠点はある。例えば、AG-101は、私の使っていたもので解ったのだが、周波数誤差が大きい。60Hzに針を合わせると、64Hz出ていた事である。6%の誤差である。これは問題である。例えばRIAAカーブなど3000Hzで−4.76dBと測りたい時に、3180Hz出ていたとしたら、何のための測定なのかわからない事になる。そのかわり、出力電圧はかなり良くそろっているようである。帯に短し、たすきに長しで、IG-18は周波数はかなり正確だし、歪率も少なくて良いのだが、出力電圧がかなり不揃いで、周波数を変える度に合わせ直さなければならないので、大いに不便である。
という事で、その選択には、それだけ手間をかけて選ぶ他はない。少し贅沢だが、菊水417Aだと尚良い。使っていて確かに具合が良い。上に述べた二つの用途の切り換えスイッチもついているからである。
(3)オシロスコープ
電気は目に見えないものである。その電気を目で見ようというのがこの装置である。勿論、オーデイオ測定の必需品であるが、上の二つが揃ってからで良いと思う。
これもピンからキリまで、二~三万円から二百万円まで、づらりと揃っている。オーデイオリスナーが電気を勉強し、回路を理解するのに高価なものは宝のもちぐされ。
と言っても、今までに使った事のない人には、何を選んだら良いのか見当がつかないに違いない。
機械類などを選ぶのに、その原理や使い方を知らないと、そのものの良し悪しはわからないものである。と言っても、オシロスコープの作り方の解説ではないので、簡単に説明する。
オーディオで一番大切なのは音である。当り前の話であるが、回路のしくみを考えるのに、いろいろな音色を使ったのでは、話がややこしくなる。純粋な音が考えられた。正弦波(Sine wave)である。
スピーカから音が出る。これも当り前の話であるが、何故出るのだろうかと考える人が案外少ない。
電流には直流と交流とがある。これも当り前の事になっている。当り前の事を当り前だと片づけられていたのでは、理屈はのみこめない。
水は高い方から低い方へ流れるものである。その時の高さを水位と呼ぶ。電位と同じである。電位差が大きい程電圧(Voltage)が大きい。水と同じように、電流(Current)の流れるパイプが大きいか、その流れをさまたげるもの (Resistance、Impedance)が少ない程電流が大きく、その分量をアンペア(Ampere)で現わす。そんな事は中学生の時に習った。そのとうりで、ついでに、オームの法則(E=I・R)も勉強した筈である。何の事はない。むずかしいと思われているオーディオ理論の80%までが、そのオームの法則である事を、 もう一度述べておく。
高い方から低い方へと流れるのが直流(D.C.)だとすれば、 交流(A.C.)だとどうなるのかという疑間が生まれる。疑両を感じない人は、この記事を読まなければよろしい。そして、三万円のカートリッジの方が一万五千円のより良い音がする、と決めてかかれば、天下泰手である。カモになろうがなるまいが、これもGNPの成長には役立っている。
試験管に水を三分の一ばかり入れて栓をする。まっすぐ立っている段には地震でも起らないかぎり、何の変化も起らない。水平に置くと、今まで縦長であった水が水平になる。
そこで、その真空管の長さの中央を支点として、 シーソー運動を与えると水が右へ行ったり、左へ行ったり、交互に流れるから交流である。水のベロシテイ(Velocity)つまりねばさは電子のそれよりはるかに大きいので、一秒間に何回も交流しないが、電子だと1ヘルツから数メガヘルツまでの交流が起る。関東で50Hz、西日本で60Hz、これも交流である。これがアンプの中で起ると50~60Hz、または100~120Hzの電圧となって、ハムが出る。
この交流を解り易く考えたのが、第9図の正弦波である。中央にある円板の中心に棒をつけて正確に円運動をさせる。その円周の一部にペンをつけておいて、その前を一方向に正確なスビードで紙を走らせる。当然の事ながら紙の上には円運動の軌跡が画かれる。これが正弦波である。波の中央からの高さrは円の半径と同じである。波の山から山への長さは、紙の走る早さ、つまり時間、tである。一秒間に1000個の山が出来ると1000Hzこれもわかりきった話であるが、その一つの山と一つの谷との線の長さは半径の二倍に円周率をかけたものであるから、交流計算には、2πrが使われ、
2πf=ω
がすべての計算の中心になり、それにオームの法則が加わって
の基本公式が生れた。
これは、あくまで原理で、先に書いたように、その様子を、カソードレイチューブ(Cathode Ray Tube)つまりブラウン管に映し出す装置がオシロスコープ(Oscilloscope)である。
(a)感度:ブラウン管に映し出される波形の高さが1cmになる時の入力電圧で、10mV/cmとあれば、10mVの交流信号を入れた時に、1 cmの高さを持つものの事を云う。感度は高い方が、残留雑音を目で見る事が出来るので良いわけだが、トリオのCO-1504(「の」が消えている)ように、ヘッドアンプを組み込んで、入力電圧をそこで増幅してから、オシロスコープの回路にほうり込む仕組みのものは、ヘッドアンプがかえって邪魔をして、高感度だが悪く言えば、まやかし商品と言う事になる。
と言って、本当の意味で感度が高いのは、値段が張るので、アマチュア向きではない。¥200,000以下のものは、どうせ本物の高級シンクロスコープとは言えないので、ごく普通の回路を持った、中級品のオシロスコープが適当であろう。75mmのものは、小さくて駄目だと言われているが、そんな事はない。テレビの14′′と同じで、20′′に比べて見にくいとすれば、その人の虚栄心の方に問題かありそうだ。但し、眼の悪い人はその限りにあらず。
私は大昔(10年位前)にアメリカで入手したヒースキットを自分で組み立てて、IO 102をまだ使っているが、原稿作成用に充分で、一向不自由はない。残念ながら、メーカーで製造中止になってしまった。 (以下次号)
これまでの主な内容
73年11月号 プレーヤシステムの巻
レコードプレーヤ、フオノモータ、トーンアーム
73年12月号 プレーヤシステムの巻
トーンアーム(続き)、 シールド線、カートリッジ、針先の磨耗
74年1月号 テープデッキの巻
38cm 2トラックステレオテープデッキ、オープンリールデッキ
以上、電波技術 1974年2月号