06.30
ステレオ装置の合理的なまとめ方 その15 スピーカシステムその1-2
ネットワークには−6dB/Oct.、−12dB/Oct.と−18dB /Oct.の3種類がある。つまり、1オクターブ(Octave)当たり6dB、12dB及び18dB減衰するという意味だから、例えば−12dB/Oct.のネットワークを1,000Hzより下を切るように使ったとすると、図に示したようなカーブで、低音へ行く程、音が出なくなるような働きをする。700Hzにクロスオーバー周波数を持って来ると、直線部は少し左の方へ伸びるが、スロープを描いて減衰する事には変わりはない。
そして、クロスオーバー周波数を、スコーカーの低域限度ギリギリ又は、それ以下に下げる事は、このスコーカーの特性ギリギリの所を使う事になるので、先程述べたように、音質上あまり感心しない。
話は前後するが、ここではあくまでスピーカユニットを使って、自分でシステムを組み上げて行く場合の話である。市販に山と売られているメーカー製スピーカシステムは余りお勧めしたくない。これ等のメーカーに別にうらみはないので、詳述は避けるが、格好良さを狙って、明らかに不合理と思われるようなバスレフ形にしたり、バァックロードホーンに仕上げてみたり、ひどいのになると、ドーム形スコーカーという美名のもとに、銀ピカのグリルを付けてみたりしてあるが、とんでもない音が出るのが良くある。
イカ銀評論家先生の提燈記事にダマされて、オーディオショップで聴いてみたら、えらく迫力があるように聴こえる。喜び勇んで買い込んで持って帰った。やっぱり○○先生の何とか的コンポ作戦に出ていた通りである。音がガラッと良くなった。てな事を言って喜んでいられるのもせいぜい3ヶ月。高音がザラっぽい。低音にしまりがない。こんな筈ではなかったが、といってみても後の祭。捨て値で売るのならともかく、おいそれと買い手はつかないものである。といって、もう1台買い込む勇気もない。勿論、改造なんて出来っこない。
とまあこんな事が、スピーカシステムには良くおこる。スピーカシステムという限り、一つのまとまった物と考えるのが妥当であろう。
本来、システムカメラ(System Camera)等のように、使い道によっていろいろ、付属品が取り換えられるようになっているものだが、私の知る範囲では、我が国のスピーカシステムは一般にスピーカユニットを交換する事が出来なくなっているので、一担、問題がおこると、システムをそっくり手放して、また別のものと買い換える他はない。
スピーカなんてものは、ステレオ屋で5分や10分聴いた位では、その良し悪しは解らないものである。バーの女性と同じで、ちよっと目には、それが商売だから奇麗に化粧をして、比較的金の掛かった服装をしているせいもあって、魅力的に見えるのもいるが、 しばらく話しているとガッカリさせられるのが多いものだ。まして個人的に付き合ってみて、普段着でロクに化粧もしてないと、正気では付き合いかねるのが良くある。
だから、ちよっと見、じゃなかった、ちょっと聴きには歯切れが良くて低音が豊かに感じるスピーカシステムは、特にそれがステレオ屋などで、馬鹿でっかい音を出している場合と、家へ持って帰ったり運ばせたりした後、じっくりと聴き込むのとは条件が違う。その内、荒ばかりが気になって、結局は損をして手放してしまう。それに懲りずにまた別のを買い込んで、ガラッと音が良くなったと感じたのも東の間。また買いかえる。悪循環である.
だから、私はスピーカシステムは、自分で箱を作ったり、誂えたりして、スピーカユニットにより自分で組み立てて行く事を勧めている。スコーカーが気になったら、そのユニットだけをまずグレードアップするだけで、音がよみがえる。
ユニットにしたって、システムに使ってあるものには見掛けの割に、お粗末なのが多いし、ネットワークに致ってはJBLのようにかなり高価なものでさえ、中味をのぞいてみるとガッカリするものである。と言って専門メーカー製のネットワークには、ひとを馬鹿にしたような値段がつけられている。YL製のものは値段が高いから音が良い、なんてのは私の性に合わない。高価なものの方が良いと考えるのは劣等感の現われである。
ついでに書いたつもりが、えらく長くなった。話を元に戻そう。
−12dB/Oct.のネットワークによリクロスオーバー周波数1,000Hzで切ると、1,000Hzで約−3dB、1,000Hzから一オクターブ下った所、つまり500Hzで−12dBになるという事になる。そしてそのまま降下して行って500Hzから更に一オクターブ下った所、250Hzでは−24dBてな具合に減衰して行く。従って、もしこのネットワークを周波数の下の方だけを切るように設計してあれば、図の斜線の所だけが、スピーカから音として聴こえる事になっているのが解る。
そこで少々面倒くさいかも知れないが、このネットワークの為の計算式を考えてみる。数字はダメと頭から決めつけないで、一度は見てほしい。見なけりゃ事が解らない、と以前に述べた。第49図がそれである。公式中のfcはCut of Frequencyの事で、俗に言うクロスオーバー周波数の事である。私の装置を例にとって1,000Hzを当てはめ、スピーカのインピーダンスRを8Ωとすると、
だと分母にルートの記号が入っている為に計算上問題が残るので、分母の√2をなくす為に、分母と分子の両方に√2を掛けると
となり、√22=2であるから
で、それにfc及びRを当てはめると、それぞれ1,000Hzと8Ωであるから
回路図に示したように、14μFのコンデンサが2個必要になる。
同じようにL1を求める為には、この公式には分母に√がないので、そのまま数値を当てはめると
から
と解る.
数学に弱い人々の為に、島田公明氏(NF回路プロック社の取締役)の『オ~ディオ回路とその測定』の中に上の公式を実用単位で表わしたものがあるので、読者の便宜の為に引用すると、
といった具合に同じ値の答が出る。
先に述べたように、自分で巻くのも大変だし、1.8mHの値のものを作るのは、測定器なしでは不可能である。このヘンリー数を測るのに、ミニブリッジという名前の商品があるので調べて見たが、測定にコツがいったり、測る度に違った数値が出るので、あまり安価なものでない事も考えると、良い商品だとは言えないと思う。ズバリ言ってお勧め出来ない。メーカーの近くに住んでいる方で、 この測定器の使い方のコツを度々教わる事が出来る場合には使いこなせるようになるかも知れないが……。回路は非常に簡単なので、第50図に示したように、適当な板の上にC(コンデンサ)とL(コィル)を並べて、それぞれをつなぎ合わせて、入出カターミナルを取りつければ、ネットワークが出来上がる。
トランスメーカーに1.2m/mφで、導線の良い電源を使って、1.8mHのコイルを作るのに、どの位か尋ねてみたら、一個当たり¥800位だろうという事であった。2個で¥1,600、Cには箱形オイルコンデンサのように入手の比較的むずかしいものを使わなければならないという法則はないので、他のコンデンサの中で一番適当なものには、ポリエステルフィルムコンデンサ(写真27)があるので、その中で2μFを7本、並列に入れて14μFにすれば、一本当たりが¥270としてCが全部で14本だから¥3,780で全部並ぶ。
コイルとコンデンサをアマチュアのお手伝いという事で、私の会社の女子社員に手許にある測定器を使ってアルバイトさせて±5%位のものに合わせるのに、多分2WAY用、組みで¥600位はかかると思われるので、材料代が、板代、ターミナル金具を全部入れると、
コイル ¥800× 4 3,200
コンデンサ ¥270×14 3,780
測定料 ¥600.
合計¥7,580(ターミナル金具、板代別)、位でステレオ用ワンセットが、出来上がる勘定である。
以前、私の装置の所で述べたようにYLに特注して、今から2年近く前ですら一組¥14,000ステレォで¥28,000。オーディオメーカーの中には、マニアを相手に馬鹿みたいな値段をつけるものが多い。マニアも高価だから良いと思っているとすれば天下泰平。中味がからっぽの高度成長のサンプルみたいなものである。
3WA Yについては、次回にまわすとして、このようにして設計製作したネットワークを、実際にスピーカにつないだ時の例をあげて、そのクロスオーバー周波数の決め方について述べてみる。私の装置は、誌面にも発表した通りJBLと(「の」の誤り)LE14AとLE175DLHの2WAYのアメリカ製である。
私は現地のメーカーの代理店に友人がいるので、国産の同等品より安価に買える場合は別だが国内に輸入されると、かなり割高になるので、それだけのコストパフオーマンスがあるかどうかは疑間がある。舶来だから良いと思っている人があるとしたら、それは白人に対するコンプレックスである。
そこで、もっとも一般的なスピーカユニットとして、パイオニアの)PD-100(¥19,500)とPW-A31(¥14,000)を例にとって考えて見る。ことわっておくが、私はこのスピーカを使った事があるわけではないので、音質については何とも言えないが、近頃あまり儲からないせいか、メーカー製のスピーカユニットの種類が非常に少ないのでもともとスピーカの専門メーカーであったバイオニアのオタログからひっぱり出したわけである。
PD-l00が500~18,000Hz、 PW-A31が20~3,000Hz、これを解り易くすると第51図のようになる。本当の周波数特性はもっと山あり谷あリギザギザの線になるが、原理的な説明の為のもので、お間違えのないように。
クロスオーバー周波数を1,000Hzに選んで線を入れると、 PD-100では500~1,000Hzが遊びになりPW-A31の方は、1,000~3,000Hzの音では鳴らない事が解る。つまリウーファーからあまり高い音を出したり、スコーカーからあまり低い音を出すと音が濁ってしまう。殊にホーン形スピーカにメーカーの指定する最低周波数より低い信号を入れると、 こわしてしまう事がある。
このように端の方を切りとって、それぞれのスピーカの音の良い所だけを使おうというのが、マルチウェイスピーカの根本的な考え方である。
こんな事を書くと、 トゥィターつまり18,000Hz以上はどうなるのかというマニアがいるかも知れぬ。先に述べたようにPD-100の音を聴いた事がないので結論めいた事を言うわけには行かないが、下手な3WAYよりはバランスのとれた2WAYの方がはるかに音が良いものだといっておこう。
2より3の方が良いと思うのは、質より量という事にもなりかねないし、スピーカエンクロージャーリスニングルームにも問題がある事を無視して、ヤミクモにして知ったかぶりするのも考えものである。
以上、電波技術 1975年5月号
私の手元にある「ステレオ装置の合理的なまとめ方」はここまでです。もっと先を読みたい気もしますが、致し方ありません。