2021
07.07

音質を徹底的に追究したソリッドステートパワーアンプ クリスキットP-35製作編の2

音らかす

写真7がその出来上がり。これで回路の70%までが終った事になる。

プリント基板が出来上がったら、電源部に取りかかる。電源部がなければ基板の動作状態が正常であるかどうかを確かめられないからである。この時各パーツの取り付けには、菊型ロックワッシャーを使ってしっかりと止める事。良い物を作るのに、丁寧にやるの’は当たり前。

電源トランスを先に取り付けてしまうと、シャシ(Chassis)が重くなって仕事がやりにくくなるので、後まわしにする。電源部の配線こそ、実体図を参考にして、回路図と照らし合わせれば、非常に簡単に間違いなく出来る。

ネオンランプの配線で『スイッチを切った時に灯がついて、スイッチを入れると消える』と電話を、しかも新潟県あたりから、神戸まで掛けて来る人がいる。何でもかんでも、馬鹿先生に相談しないで、ものの原理を考えればスイッチの2本のピンの所で、入れ換えればいい事がお分かりのはず。どうせ勤務先の電話だろうが、電話賃が勿体ない。

ブリッジ型整流素子はプリント基板に取り付けられる構造になっているので、写真8のような(「に」の誤り)プリント基板に取り付ける。端子が2個付いている方が

22V+22V=44V

の交流入力で、端子4個の方へ、その√2(1.414)倍になった+31V、−31Vの直流が、左右チャンネルに、それぞれ取り出せるようになっているが、 この時点では、まだ直流(±Vcc)側はプリント基板とつながない。フィルタ・コンデンサにのみつないでおく。

パワースイッチ(Power switch)、ヒューズホルダー(Fuse holder)、ネオンランプブラケット(Neon lamp bracket)、AC出カソケット(AC output socket)等をつけ終ってから、電源トランスを乗っける。電源用ヒューズは、アイドリング時で、本機の消費電力は、

100V×0.17A=17W

と、非常に少ないので、0.5Aで良いのだが、スイッチォンの時のサージ電流(Surge Current)のために、 1~2Aが良いと思う。消費電力の少ないのも、コストパフォーマンスの点で、大切な事柄で、石油不足から来る電力節約にもなる。

電源部の配線が終ったら、テスタを使って、アースライン(白色ビニール線を使っておくと、後で点検するときに便利が良い)の各ポイントと、 シャシの間の導通を調べ、完全にアースされている事を確かめてからスイッチオン。直流側に、それぞれ+31V、−31V位出たら配線に間違いなし。まずはメデタシ、 と言っても当たり前なのだけれど……

そこでプリント基板を片側づつとり付けてゆくわけだが、写真9の要領に従って、プラス側が赤又は燈色、マイナス側が青または、緑という具合にビニール線を、基板の箔の方へ、ハンダ付けをする。左右チャンネルの色別をしておけば混合しないので、なお良い。線の長さをよく尋ねられるが、実体図のように配線して、整流素子の所迄、持って来られるだけの長さに、少し余裕を持て切り取る。

スピーカ・ターミナルは、マイナス側は白が当然であるが、プラス側には左右混同しないように、黒とグレーといった風に、適当に色わけしてシャシの後面から見て、左側が入出力共、左チャンネルと決めておくと、装置につなぐ時に、まごつかなくて良い。

プリント基板の1枚に4本の線をハンダ付けしたら、入カターミナルのそばにある、アースターミナルに15cm位の白色ビニール線を配線して、ラグ端子の裏にハンダメッキしてから、シャシヘ20m/mのボルトナット及びスペーサーを使って取り付けて、実体図のように、アースヘ落とすのを忘れないように。このままだと、Q4とQ5のベース間に入る3個づつの2SC984が基板に配線してないので、整流素子(電源部)との結線は、まだ行なってはいけない。Vcc電流源は印加出来ないからである

実体図

二組のヒートシンク(Heat sink)にパワートランジスタを第12図のように、所定の位置にシリコングリースを使って取り付ける。ヒートシンクのシャシヘの取り付けは、 P-25の時の方が、はるかに機械強度があり、実用機としての構造上、良いと思うのだが、作りにくいと言う説もあったようなので、意志にそむいて、今回のような構造にした。

温度保償用のダイオードの働きをする左右3個づつの、トランジスタ(2SC984)を第13図のように、コレクタのピンを切り取って、ラグ端子にハンダ付けをする。ヒートシンクに頭を突っ込んでいる部分にも、温度伝導用のシリコングリースを塗りつけるのを忘れないように。2SC984(NPN)のベース~エミッタ間はダイオードそのもので、ベース側がアノード(Anode=陽極)、エミッタ側がカソード(Cathode=陰極)と考えれば良い。ヒートシンクに部品付けが終ったら、4本のボルトナットを使って、ガッチリとシャシに止める。

第13図

本来、 ヒートシンクはフィン(Fin)を縦に取り付けた方が放熱効果が良いとされているが、図のように固定した方が、はるかにしっかりする。どうせ室温より、20°C以上高くならないので、放熱の点では、全然心配はない。L型金具などを使って止めた、グラグラの物は実用機には不向きである。

パワートランジスタの配線は、後にまわすが、2SC984とプリント基板への配線は、電流(Vcc)を印加する以前に必ず配線をしておく。アノードとカソードをそれぞれ違った色のビニール線を使っておくと間違えないと思う。この線を忘れるとQ4とQ5のベースが宙に浮く事になる。片側のプリント基板からの4本のリード線を、整流素子のそれぞれのポイント及びスピーカ・ターミナル(ヒューズを含む)へ配線してから、B100Ωの金属被膜半固定抵抗は左一杯、つまり、ゼロオームになるように回わし、B20kΩの方は中点位に回わしておく。テスタのリードをスピーカ・ターミナルに差し込んで、DC10Vレンジ位にセットしてからパワースイッチを入れる。テスタの針がちょっと振れて、大体0Vに戻る。もし0Vにならず、大きくプラス又はマイナスを指したら90%までハンダけけ不良であるから、もう一質少量のハンダを使ってシャシの裏からプリント基板のハンダ付けをやり直す。

スピーカ・ターミナルにつながっているパワートランジスタ保護用ヒューズは、 オームの法則(I2・R=P式)により、0.5~2Aで良いが、0.5Aだと、0.5A2×8Ω=2W、2Aだと2A2×8Ω=32Wの計算にもとづいて適当な大きさのヒューズを選べば良い。私は、過去一年間、0.5Aで使っているが、かなり大きな音を出した時でも、一度もヒューズは飛んだ事はない。これから見ても、100Wのアンプなどは、イカ銀先生におどらされた、マニアのためのアンプである事が分かる。但し、測定のために最大出力を出さねば、測定器による色々なデーターがとれないので、2Aのヒューズに取り替えるのはもちろんである。

このテストが終わるまで、絶対にパワートランジスタつないではならない。下手をするとトランジスタを飛ばしてしまう事がある。もちろんこのテストは、片側づつ行なうのだが、 ここまですらすら行ったら、 自信がついたわけなので、パワートランジスタヘ、リード線をハンダけして、プリント基板へ結線するが、(後記参照の事)コレクタが赤又は燈色のビニールリード線(Hook up wire)、ベースが黄色、エミッタが青又は緑色と決めておくとこれも又、後での点検にまごつかないで良い。

基板への配線が終わったら、スピーカ・ターミナルに、テスタをつないだまま、8Ωのダミーロード(Dummy Load)をつないで、本番スイッチを入れる。これまた針がちょっと振れて、ゼロボルトなる。テスタのレンジを最低DCボルトにまわしても、ゼロボルトのままの筈である。試みにB20kΩ(VR-1)を右にまわしたらプラス側、左でマイナス側になったら100%成功である。同じ要領でもう一方のプリント基板を取りつけ、配線をすませる。片側のテストが終わるまでに、 もう一方のプリント基板はシャシにのせないように。二兎を追うものは、一兎を得ずというわけである。

このDCバランスの半固定抵抗B20kΩは、右へまわせばプラスに、左へまわせばマイナスになる。大体、中点でスピーカ・ターミナルに、岩崎通信機のVOAC77で測って−0.001~+0.001Vの間に来るように設計してある。

本機の材料セットから作る場合には星電パーツにNECの協力を得て、部品集めには特に注意をするよう、指示してあるので問題ないのだが、自分で材料を揃える場合に抵抗に誤差が5%もあった場合、或るいはQ3(2SC959)のhFEに大きな違いがあると、(本機はMシリーズに合わせてある)うまく行かないので注意を要する。

このまま入力側にシールド線を使って入カピンヘ配線すれば、立派なパワーアンプとして音の出せるものが出来上がったわけであるが、何分、出力段のコレクタ電流がほとんど流れていないので、B級増幅で、クロスオーバー歪みが大きくて、ハイファィとしては満足出来ないので、Q4とQ5のベースにバイアスを掛けて130~150mAのアイドリング電流を流す。普通30mA位流せば、クロスオーバー歪みは完全に消えるが、青質向上のためにA級との中間位まで、電流を流すように設計してある。

まず、片チャンネルの2SD188のコレクタにつないであるリード線のハンダを外す。このように後ではずすのでからげ配線はしないで置いた方が良い。テスタのレンジを200mA以上のフルレンジの電流測定位置にまわして、プラス側のリード線を基板からの線に、マイナス側のリードを2SD188のコレクタにつなぐ。もう一度、スピー力・ターミナルに、8Ωのダミーロードがつないであるか、どうかを確かめスイッチを入れる。テスタは、一度右に振れて、再びゼロに戻る筈である。そこで、ゆっくりB100Ω(VR-2)を抵抗値が大きくなるように、右に回して行くと急に針が動き始めるから100mA位の所迄回して、そのまま10~20分、放置する。

このあたりで、お茶でも入れて、のんびりとやる事で、『せいては事を仕損じる』はこの為にある言葉だと思えば良い。      (以下・次号)

(なお、製作時にはもう一度アンダーラインの個所をお読み下さい)

以上、電波科学 1974年3月号