2021
07.15

最高級管球式プリアンプの製作 Chriskit MARK Ⅵ Castom 製作編その1

音らかす

パワーアンプで真空管方式を否定している私が、何故、プリアンプを管球式に固守しているのか、という質問があった。確かにごもっともな御意見である。大方の読者のために、紙面を借りて説明する。

プリアンプが、入口から出口まで、電圧増幅だけで事が足りるのに比べてパワーアンプは、スピーカという、トランスデューサー(Transducer)を駆動しなければならないので、電力変換回路が必要になる。その上スピーカは一般に4~16Ωと、その負荷インピーダンスが低いもので、何キロオーム以上の負荷をつなぐようになっている真空管で、スピーカを鳴らそうと思えばOTL方式でもないかぎり、そこに必らず、インピーダンス変換素子、つまりアウトプット・トランスが必要になって来る。インプットトランス方式で知られているように、トランスフォーマーを介して交流信号を伝えると、そこに必らず、周波数特性等の問題点が生じる事になる。

その上アウトプット・トランスにはその一次側に直流を流さなければ、出力管が働らかないから、トランスの直流磁化という別の問題が起こる。しかも大低の場合、その二次側から、前段にNFBをかける。これがまた大きな問題になる。

これ程面倒で、 しかもどんなに良質なアウトプットトランスを使っても、完全にその問題が解決出来ない部品を背負った回路方式を持つ真空管にしがみついていたのでは、いつまで経っても歪みのない、そしてにごりのない音は得られないものである。といってOTL方式だと、測定器を持たない上に回路知識に乏しいアマチュアに、そのすぐれた特性をそのまま再現させる製作記事は非常に難かしい。まして全段直結なんて代物は、球(たま)のアンプでは考えられないものである。それ程苦労しても、8Ω負荷の管球式OTLアンプとなると、これまた他の問題点が生じて来る。

一方トランジスタは、パワーアンプに要求されているメリットを持ち合わせているばかりでなく、上のような問題が少なく、アマチュアでも測定器なしに、非常に簡単に出来るものであるというのが、上の御質問に対する答えである。

プリアンプの場合は、電力増幅とか電力変換の必要は全くないわけだから球でも、石でも一向に差し支えないのだが、12AX7や12AU7はどこにでもころがっている比較的安価で、10年以上はビクともしない球なので、折角音質で、最高級と折り紙をつけられた本機の基本回路をそのまま生かしたわけである。

石嫌いで通っていた上杉佳郎氏、加銅鉄平氏でさえ、最近の記事で、トランジスタの優れた面を見直しておられる事実も、ここ四・五年の間に、トランジスタそのもの、及びその回路技術がびっくりする程進歩した為であろう。

部品配置について

回路がいかに優秀であっても、プリアンプのようにその増幅度が高く、しかも内部構造が複雑なものでは、部品配置をよほどうまくしないと、良い音は期待出来ないものである。

交流のうちでも、高周波のものは、回路の外に飛び出し易いものである。これは中波放送が560 kHz~1,600 kHzの周波数で、大出力ではあるが、かなり遠方まで放送している事でも想像がつく。

周波数特性やRIAAカーブには神経過敏な方々でも、このあたりになると、全く無頓着。それもその筈で、この飛びつきによる音のにごりは簡単には測定出来ないものであるからだ。したがって、回路図にもとづいて組み立てて行く時に、その部品配置等をうまく設計する以外に方法はない。市販アンプのメーカーとても、その位の事は知ってはいるのだけれど、商品として仕上げるためには、いろいろな使いもしないつまみやスイッチ類をつけておかねばならない。そこで配線がこみ入って来て、音質の点ではうまくない。しかし買う方は、こみ入っているから高級品だと品定めする。だから本機では、パネルデザインに困る程、余分と思われたアクセサリーは使っていないわけで、その上お互いに干渉しやすい部分や部品の配置に必要以上に気を配ってある。したがって、 この記事を参考にシャーシから自作して、自分で部品を集める方々は、この点に注意しなければ、好結果は期待出来ない。シャーシを組み立てる前に、部品表(第2表)にしたがって、部品を一つ一つ点検する。抵抗は、カラーコード表とテスターを使って一本ずつ当たり、予め分類しておくと、後の作業が大いに楽になる。特に抵抗は、基板にとりつける前にもう一度テスターで当るのも、あながち無駄な努力ではない

第2表

これだけ詳しく原稿を書いていてもやはりとんでもない誤配線でトラブルを出す人があるので、 もう一度述べておく。馴れた人には、くどいと思われるかも知れないが、無料で何人もの方々のトラブルの尻拭いをさせられる者の身になってほしい。

シャーシ

すべての部品をとりつける土台である。かなり複雑になったが、それぞれのプロックをお互いに分けるために第14図のような構造になった。フロントパネルは別としても、A板からJ板まで10枚に分かれているので、その各板の詳細図を載せたのでは、それだけで3頁はつぶれる。(自分でシャーシを作りたい方は、郵便切手55円同封の上神戸港郵便局私書箱31号、桝谷英哉宛申し込んでもらえば詳細図を送ります)

第14図

アマチュアの常識の中には妙なジンクスがあって、 プリアンプ用のシャーシはアルミニウムでないとハムが出るというのもその一つである。

今回、カスタムという事で、改良型の試作に、A、 B、 E及びF板と、天板と底板は鉄板に変えてみて判ったのであるが、全然ハムは出ない。こんなことなら何も苦労してアルミストなんぞ塗らないで済んだのに。という事でパーツセットに使用したシャーシは鉄板製で、塗装済みになっているので、組み立て前の塗装は不要である。(C、D、G、H、 I及びJ板はアルミニウムなので、アルミストなどで、白く塗ると仕上がりがきれいになる)大いに労力が省けたのは有り難いばかりでなく、出来上りがきれいで、はるかに丈夫になった。

今回のは、回路がマークⅥに比べて大分違っているので、以前の型に使われてたK板のシールドはなくても良い。

組立配線中は、C板にD、G、H、I及びJ板だけをとりつけただけで作業をすすめないと、箱の中に手をつっ込んでの作業はやりにくいし、あまり感心しない。(写真1参照)

プリント基板

今まで記事を書いた経験から、 プリント基板からシャーシまで自作される方は200名に1名位しかないので、一部の読者のために、大切な紙面を使用するのも勿体ないので、紙面に原寸パターンをのせるのは省いた。1/1.5に縮めたもののみ(面積は約1/2)を第15図にのせておいた。参考になれば幸いである。パーツセットに入っている基板には、シルクスクリーンで、部品配置を印刷してあるので不用と思われたからである。(自作御希望の方は、往復はがきで問い合わせてもらえば、パターンのコピーに要する費用お知らせします)

第15図

今までに、私の耳に入ったトラブルの95%以上は、このプリント基板への部品のハンダづけ不良が原因である。肉屋なんかにあるデジタル表示のついた営業用はかりの工場で聞いた話であるが、専間の工場でも50枚に1~2枚位、検査の段階で、このハンダづけ不良があるそうである。楽しみながら自作するアマチュア仕事である。丁寧に行なえばハンダ不良などない筈である。

前回に回路編で、こんがらがるのを防ぐために、回路図は省いたが、これから先の仕事は、回路図と見くらべながら作業を進めると、プリアンプの仕組みが解って面白いと思われるので、第16図のコピーを作って、時々目を通す事をすすめたい。実体図はあくまで参考という事にしなければ、電子回路はいつまでたってものみ込めないものである。

第16図

ここでハンダづけの要領を一つ。40Wのハンダごてと、40/60のロジン入り糸ハンダがその適当な用具である。まちがっても、ペーストなんかは使わないように。後で必らずトラブルのもとになる。あんなものは一昔前の、風呂釜の修繕用だと思えば良い。

抵抗などの部品のリード線を、銅箔のある面の反対側(シルクスクリーン印刷のある方)から、部品穴に差し込んで、プリント基板にぴったりつけてから、リード線の足を外側へ少し開きぎみにする。充分熱くなったハンダごての先を、銅箔とリード線の両方にくっつけて、約3秒待ったのち糸ハンダをこての先と、リード線の間に当てると、吸い込まれるうにハンダがひろがって行く。近頃の部品は、少々のハンダごての熱位ではいたまないので、オソルオソルつける必要は全くない。

ただし、スチロール・コンデンサだけは、10秒以上もハンダゴテを、リード線にくっつけておくと、その熱がリ―ド線を伝わってショートさせてしまう事もあるので、馴れないうちは、ラジオペンチの先かなんかで、リード線のつけ根のところを鋏んで、熱を逃がしてやるのも良いと思う。これとてもそれ程熱に弱いわけではないので、あまり神経質になる必要はない。

信号基板(1973-8、370、371)には左右チャンネル共27本のラグ端子がハトメで止めてある。(原品は端子番号つき)このハトメは、一応機械的にはつながっていても、電気を通さない場合が多いので、必らず箔の方ヘタップリ、ハンダをつけておかないと、出来上がって、片チャンネル音が出なくなる事請け合いである。こんなにくどくど書いても、トラブルで持ち込んでこられる方々の殆んどが、ここんところを忘れておられるので、 もう一度述べておく。(第6図参照)

中央を走っているアースラインは、強いてハンダメッキはしなくてもハムは出ないものであるが、ごくわずかハンダをのせておいた方が無難であろう。方法の一つとして、プリント基板を何かにもたれさせて、30度位傾斜をつけておいて、ハンダメッキを流すようにつけて行くと、あまり厚ぼったくならない上に、作業がやり易い。ロープスト回路用に取りつける、左右2ヵ所づつのところは、第17図にあるように、ピン型ラグを、基板の箔の方から差し込んで、箔面にハンダでつけておく。こうしておけば、実際にヒアリングテストして見て、コンデンサの値を大きくしたり小さくしたりするのに、いちいちプリント基板をシャーシから取り外さなくて良いから便利だと思う。ハイカット用のマイカコンデンサも平たくつけないで、写真のように立てておいた方が、後から、何ピコかをつけ加えるのに便利であろう。

第17図

真空管基板(1973-9372)へ真空管ソケットを取りつけるときは、完全に取り付け穴にはまっている事を確かめてからハンダづけする事。最高級のプリアンプを作るのである。ザックバランてえのはあまり感心出来ない。箔面の中央に真空管ソケットのセンターピンの上を橋のようにかかっているヒータ用アースライン(写真2)は、1.2m/m位の錫メッキ線をV1のソケットのセンターピンからV2へ、それからV3へと順に渡して行って、V6の後、ヒータ・アース用ラグ端子へつなぐ。この時もラグ端子ハトメのハンダメッキを忘れないように。ついでながら、V2のプレートとV3のグリッドをつなぐ直結用ジャンパー線(Jamper wire)も忘れないように。

各真空管から信号基板まで持って行く4cmづつ位のリード線は、写真3のように、リード線の先を輪にしてそれにあらかじめハンダメッキをかけておき、所定の場所にあるハトメにもハンダメッキをかける。それからリード線をハトメの上においてハンダごてをくっつけると簡単に融着する。

リード線の先を輪にするために、5m/m位皮覆をむくときに、電線にキズをつけると、後で信号基板へつなぐ時にポキリと電線が折れることがあので注意を要する。これ等の線は、プレートが赤又は橙色、グリッドが黄色、カソードが青又は緑と色分けしておくと、見わけがつきやすく、信号基板につなぐのに便利である

ほんの少しで良いから、フィルタ・コンデンサのアースをつないでいる基板のまわりの線に、ハンダメッキをした方が電源のリップルフィルタ(Ripple filter)の効果が大きい。このハンダメッキも、部品を全部つけてから、プリント基板を30度位斜めに立てかけておいて、ハングを、こてで溶かしながら流していくと、あまり厚ぼったくない上に、仕事がやり易い。解り切ったことであるが、フィルタ・コンデンサ、(22μF、350V)の極性を間違えないように。プラス・マイナスが逆になったまま、電源を入れると、10分位で、大音響を立てて爆発する。爆発魔と問違がえられても困る。B+、300Vとそのアース、 ヒータ電圧とそのアースの部分は、 ジャンパー線を使って、左右チャンネルをつなぎ、(第18図参照)すべての基板をシャーシにとりつけてから、それぞれのラグ端子に、二枚の電源基板からの線をハンダづけする事によって、真空管基板にヒ―夕電源を印加する

第18図

電源基板(1973-9 368、369)から出される交流(260V AC及びのトランスヘ行く線)、 直流用(真空管基板へ行く線の)リード線は、部品取りつけと同じ要領で、プリント基板の上から、 リード線の先を5m/m程皮をむいて差し込んで、箔の方ヘハンダづけをする。アース用の線は自色の30芯位の電線を使った方が、S/N比の点で望ましい。実験して見たところ、普通の単係泉との差は、あったようである。気のせいかも知れないが。

よく線の長さを尋ねられるが、これ等の線の行き先はわかっているのだから、適当に判断してほしい。そんな事すら考えないで、実体図だけを頼りにプリアンプを作っていたのでは、何度も述べたように、アンプの原理はいつまでたっても解らないし、良いものは出来ないものだ。(写真5参照)

セメント抵抗は、割合い熱くなるので、ベークライト基板は熱に強いものであるが、基板にぴったりつけないで基板から3~5m/m位浮かせて取りつけた方が良いようである