2021
07.19

クリスキット・マークⅥカスタムとクリスキットP-35によるプリアンプとメインアンプの音のまとめ方 2

音らかす

NFB量と再生音について(P-35)

トランジスタ・アンプは、真空管のそれと比べて、一般にNFB量が多い。これがトランジスタ・アンプの音の硬さに影響していると言う説がある。これは一理ある事で、私も実験して見た。

第5図がその説明である。本機のNFB量は、R-4(1kΩ)と R-5(33kΩ)とで決められてあり、33kΩ÷1kΩ=33の計算通り33倍(30dB)のゲインがとれる。今、仮にR-4を560Ωに取り換えたら、上の計算式にあてはめると解るように、59倍(35,4dB)のゲインを持つパワーアンプになるがNFB量が、5.4dBだけ少なくなることが分かる。

第5図

これで試して見たら、多少音がぼけ気味になるようである。勿論、これは私の装置につないだ時の話で、それぞれのスピーカ、リスニングルームによって変わることは、言うまでもない。

これも簡単に音作りが出来る。NFB量を変更するにはR-5/R-4(33k Ω/1kΩ=33)を変えれば良いのだが、R-5を動かすとすれば、Q1、Q2の差動が狂うので回路全体のバランスがくずれるから、R-4の方を小さくする。前回に述べたように、抵抗は、パラレルに並べると、2本の値による合成抵抗値が、公式により、簡単に得られるから、適当な抵抗を基板の裏からR-4とパラレルになるようにハンダづけするだけでよい。第5図の右側の表がそれぞれの値によるNFB量の変化を示すものである。

このように変えて行くと、NFB量が減少して行くにしたがって、再生音がウワームトーンになる。よく石の音は硬いとアマチュアの方々がおっしゃる。特性がシャープになると、音がとぎすまされた感じになるので石の音はどうも、と言う事に原因があるらしい。

私の経験では、メーカー製アンプで、そのカタログデーターを良くしようと言う事に設計意図がある製品に、この傾向が強いようである。

300Bの音とよく言われる。私も二度ばかりお耳にかかった事がある。びっくりする程良い音ではなかったが、何かしら暖か味を感じたように記憶している。

ここに述べるNFB量の細工によりその暖か味を出そうと言うわけである。しからば、どれが良い音かと尋ねられても返事に困る。それぞれの好みがあり、条件が変わる。最高級アンプの自作である。自分の好みに合わせるのも、趣味の一つ。但し、5 dB以上NFB量を減らすのは、回路設計上あまり賛成出来ない。折角すぐれた安定度を持つアンプの持ち味をこわしたくないからだ。

入力アッテネータについて(P-35)

常々私は、パワーアンプの入力側にボリュームを入れるのはうまくないと述べている。ところが、P-25のときには毎月二十数台位しか、パーツセットが動かなかったものが、P-35になってから急に品切れ状態が続くようになり、球党の方々がかなり本機に転向し始めるようになった。

どうしてもマルチアンプに使い度いと言う方々が増えて来る。マルチアンプに使う場合には、どうせ周波数を分割するのだから、入力ボリュームが、周波数に影響を与えても一向に差し支えないのだが、私のように単体アンプで聴き度い人々の事の方が大切である。

あれこれ実験してみて、入力にアッテネータを入れる事にした。これなら周波数に対する影響については問題ない。その上、上記のNFB量によりトータルゲインが上がった分だけこのアッテネータで減衰させてやる事が出来るので、パワーアンプの感度は同じでしたがって、プリアンプのボリュームはそのままで同じ音量が出るので、正に一石二鳥。

第6図がその説明である。スイッチ(アルプスM型特注)は11ポジションあるから、回転角度は300度で、普通のボリュームと同じであるし、小型なので使い易い。(部品は、クリスキットの取扱い店に問い合わせてもらえば入手出来る)(第1表参照)右へいっぱいまわせば、音量が最大(減衰量0dB)になり、一段づつで約1dBづつ下がり、−9dBの次で音が出なくなる。これだけあれば、マルチアンプのそれぞれの音域に使って十分の減衰量があり、スイッチであるから、いろいろ動かせても、すぐに完全にもとの位置になるので、ボリュームなんかと比べものにならない程使い易い。

第6図

第1表

図でお解りのように、11接点の切り換えスイッチを、右回し一杯で減衰量が0 dB、一段回して−1 dB、−2 dB、−3 dB、−4 dB、……といった具合いに−9 dBまで1 dBステップで減衰していき、最後の一回わしで∞(無限大)の減衰、すなわち出力は0になるように設計してある。このようなアッテネータで−2dBワンステップのアテッテネータにすれば、音量変化が大きすぎてうまくない。(但し、これはP-35のように、その入カインピーダンスが、45kΩのものに合わせての話で、それ以外の時は計算しなおす必要がある)

もしこのアッテネータを、マルチアンプ方式に使うとすれば、−8 dB減衰しても、例えば、能率の良いスコーカなど、減衰がたりない事が生じてくることも考えられる。そんな場合には、図に示したように、右回し一杯で減衰量0 dBから一段回したところで、いきなり8 dB減衰し、さらに−9 dB、−10 dB、−11 dB……といった具合いに−16dBまで1 dBワンステップで減衰していき、最後に、出力が0になるようなアッテネータを使用すればよろしい。

上記二つの動きを一つのアッテネータにとり付けようと思えば、21ポジションのスイッチを使わなければならない事になり、回路が実に複雑になる。オーディオアンプは測定器ではないのだから、こんな複雑なアッテネータは不向きである。

アッテネータをパワーアンプにとりつけるとなれば、当然のことながら、スイッチ取り付け用の穴をあけなければならなぃ。P-35のシャーシは、鉄板で出来ているためにあけにくいと思われるが、第7図のような型紙を少し厚手の紙に写しとって、ていねいに丸穴をくり抜き、それをシャーシの前面の左端にあてがってマジックインクなどで穴の位置を写しとる。3mm位の穴はドリルで簡単にあけられるので、センターをいがめないように穴をあけてから、リーマーと丸ヤスリを使ってきれいに仕上げれば、直径9mmぐらいの穴はきれいにわけなくあく。

第7図

マークVIのマークVIカスタムヘの改造

以上でクリスキットによる音作りの説明は終わるが、最後に、お約束した通り、クリスキットマークⅥのマークⅥカスタムヘの改造法について述べる。

ステレオコンポーネントに限らず、新製品が出たときに、買い換えさされるのは、あまり愉快な事ではない。メーカーにとっては、これも商策の一つで、金もうけと言う事になると、致し方のない事であろう。

幸いクリスキットは、私の趣味で、金もうけではないので、市販アンプやキットに比べてパーツセットと言う商品(?)の性質上、はるかに少ないマージンでクリスキットを取り扱っているオーディオバーツショップには申し訳けないが、新製品だから買い換えなければいけないような設計はしたくない。私のロマンチシズムであるかも知れないが……。

本機を試作した折には、それぞれの好みもあるだろうという事で、マークⅥとマークⅥカスタムの両建で行こうかと、UNITE(ユナイト)の連中と話し合っていたのだが、お作りになった方々のすべてが、この新型の方が低音と言い、中高音の澄み切った音と言い、はるかに良いという事なので、マークⅥのパーツセットは販売中止してしまった位なので、御面倒でも、改造するだけの価値がある、と私は思う。

余談はさておと、本論に入る。

①記事でおわかりのように、信号基板は大分変更されている。でなければモテルチェンジの意味はない。半分近い部品は前回と共通出来るのだが、一度基板に取り付けた部品を、苦労して取りはずしても大したメリットはない。折角最高級のプリアンプを作るのである。ハンダごての熱でいたんでいるかも知れない部品なんぞ使い度くないし、大して節約にもならないものである。
まず本体から、ハンデごてで各リードを丁寧に外してから、信号基板を取り去る。
②信号基板を取り去った後、VR-1、VR-2、VR-3からファンクションスイッチヘ行っている線を、これ等入カレベルボリュームのところでハンダを外す。ついでにそれ等につながるアース線(白色ビニール単線)も外ずす。
③PHONO用シールド線を、ファンクションスイッチのウェーファーIの0ピンとIピンのところで外す。
④ネオンランプ、パワースイッチの配線をそれぞれ外すと、フロントパネルが、すっぼりと外れる。
⑤ここまで来ると真空管基板からのリード線あたりが、すっきりと見え易くなくなるので、V5のプレートから出ているリード線を左右チャンネルとも取り除く。そのかわり、V6のプレートヘリード線を入れる。
⑥V5のプレートとV6のグリッドをつないである、コンデンサC-19(01μF)は不用になるので両チャンネル共取り外して、チリ箱へ。
⑦V6のプレートに入っている左右2個の47kΩ(R-27)の両端リードを、ビニール線でつなぐ事により、これ等の抵抗をショートさせる。
⑧V5のプレート抵抗は100kΩのままでも差し支えないのだが、その抵抗の両端に100kΩの抵抗をパラレルに入れて50kΩに減した方が、歪率が減り、音質が少しばかりだがクリヤーなる。(これ等の作業は真空管基板を外さなくても、球を抜きとれば、割合簡単に出来る)
⑨これから先は、本機の製作記事の通りに行なって行けば良いのだが、フロントパネル(銘板)だけは新しいのを使用する。例によって、この改造用部品はクリスキットの取り扱い店で入手出来る。第2表が、その改造に要する部品の一覧表である。

第2表

真空管基板は、回路図その他でお気付きのようにB+の配分が多少違っているが、音質には全く影響はない。従ってこの基板まで取り換える必要はない。第一そんな事をする段になると、新しく作り直す程の手間がかかるだけである。

以上で本項の説明は終るが、説明中に不明なところがあれば、遠慮なく問い合せてもらえば、出来るだけお役に立ちたいと思っている。マニアと呼ばれて、その気になって、あれこれ迷いながら、いつまでたっても、欲求不満から抜け切れない方々に、理屈を理解してもらって、少しでも楽しく音楽をと願っている。

本稿が出来上って、少しでも音が良くなった、と思われた方があったら、お便りをいただき度い。こんなお便りに接する度に、書いて良かったと、いつも思っている。

〔神戸港郵便局私書箱31号 TEL(078)221-1633 桝谷英哉〕

以上、電波技術 1974年7月号