2021
07.29

モノシリックICによる全段直結差動OCLパワーアンプ 2

音らかす

回路について

常に述べている事であるが、物を作るのに、その理屈が解らずに手をつけるのは幼児の粘土細工と同じで、作る意味もないし、ろくな物は出来ないものである。と言(「っ」が抜けている)ても18m/m ×24m/m×5m/mという通常郵便切手位の大きさのもの(写真2)の中に第1図に示したように、18石のトランジスタと16個の抵抗体が封入されている集積回路をばらして簡単に中を覗くわけにも行かない。しかも今迄に、IC(Integrated Circuit)を手にした事のないものには、回路図を見ただけでは、何がどうなっているのやら、さっぱり見当がつかないかも知れぬ。と云っても、今から、この集積回路を作ろう、というのではないのだから、あれこれ調べても仕方のない話である。

第1図

幸い手元に、金属顕微鏡があるので中をばらして、写真を撮ってみた。驚いた事に、この集積回路は、2mm角の中に総ての回路が封入されている。科学の進歩とは驚異にあたいするものである。(写真2)=(「写真3」の誤りだと思われる)

そこで、こんなに、ごちゃごちゃした内部構造から、アンプとして働くだけを抜き出したのが第2図に示す等価回路である。残りのトランジスタは、ICを安定に働かす為のものであるから、このパーツを使ってパワーアンプを作る者にとっては、あまり関係のない物だと思えば良い。等価回路で解るように、8石から成り立つ、全段直結差動OCLアンプである。クリスキットソリッドステートパワーアンプP-35と全く同じ形式のものである。違っている所は、差動アンプ(Q1及びQ2)がNPNの石であるために、Q3のドライバーの石がPNPになっているだけで、動作原理は全く同じだと考えれば良い。

第2図

一般に、集積回路には、コストの点と、量産という目的の為に、回路中にコンデンサはあまり使われないものでこのμPC571Cでも、位相補正用のコンデンサは、すべて外づけになっている。等価回路中の点線で示した部分がその外づけ部品である。

それから、このICにも、他の殆どのパワーICに見られるように、出力段は、純コンプリメンタリーではなく準コンプリメンタリー(Quasi Compplementary)になっている点も、P-35とは違っているが、こんなに小型の集積回路中に、PNPの出カトランジスタを作り込む事は、現在の技術では非常に難しく、コストの面でも無理だと思われる。

ここで、回路の説明をより解り易くする為に、第3図に、μPC571Cを使った本機の全回路図を示しておく。回路図と等価回路で解るように、わずか5個の抵抗体と、2個のセラミックコンデンサ、同じく2個のフイルム(マイラーデュポンの商品名)コンデンサ、4個の電解コンデンサ及び1個のタンタルコンデンサだけで、増幅器回路が構成されている。だから後に述べるように、テスタも不要で、ハンダゴテとラジオペンチがあれば数時間で仕上がってしまう事になる。

第3図

P3とP4との間に入っている100pFのコンデンサは、Q3及びQ4がダーリントンになっているので、1個の石と考えた時の、コレクタ、エミッターヘの局部的補正用である為に、超高域迄、周波数特性が伸びる事により、トラブルが出るのを防いている。

このコンデンサの容量値を100 pFに選んだのは、データーの読み方も知らないくせに電気性にこだわるアマチュアの為に、その周波数特性及び、歪率が最良になる所で、決めた数値である。

P-35の時と同じように、これを300pFに取り替えた方が音質がはるかに柔らか味を持つようになる。

P7からP8につないである500pFのコンデンサは、P8が−Vccである為に、交流に対しては、アースと同じ働きをしているので、言ってみれば信号回路の一部からアース間に入れられた、ハイカットフィルタみたいなものである。つまり、最も簡単で、トラブルの出ようのないコンデンサによる位相補正である。

P7からP8に入っている0.22μFのフィルムコンデンサは、同じく出力端子から10Ωと直列にアースされている0.1μFのコンデンサとダブっているので、あえて入れなければならないものでもないが、本機の周波数特性が非常に良く、この0.22μFをハイカットとして入れてもC-2を300pFにした時ですら、69,000Hz迄のびるので、わざと入れてある。

出カターミナルからアースにぶら下っている10Ωと、o.1μFは、ソリッドステートOCLアンプにつきものの、高域補正で、特に説明の要はないと思われる。準コンプリメンタリー出力にもかかわらず、入力に差動アンプが入っているため、常に出力ターミナルがほぼ0Vに保たれているのでカップリングコンデンサは不要である。従って低域特性はそれだけ有利になる。

P8とP9の間にまたがっている1μFの電解コンデンサは、次に述べショートサーキットプロテクタ(Short Circuit Protector)の為のもので、音質には無関係の部品である。

P5・P6の間に入れた0.22Ωの抵抗は、あやまって、スピーカターミナルがショートした折りに、Q7に過電流が流れ、この電流が2A以上になった時に、オームの法則により、0.44V(=2×O.22)以上の電圧が発生し、Q4の手前に入っているトランジスタのバイアスが立ち上がり、そのコレクタにつながっている保護回路(Protection Circuit)が働いて、全段がシャットオフになり、アウトプットの石が飛ぶのを防ぐ仕組みになっている。

この場合、音が出なくなるので、電源を切って数十秒後に再びスイッチオンするか、又はP8とP9をショートさせれれば元に戻るようになっているので、すこぶる便利である。

このように、非常に完成度の高い出力用集積回路である為に、測定及びヒアリングテストで述べるように、非常に素直なパワーアンプで、出力も8Wと、割合に小型ではあるがP-35Mの項で述べたように、十畳位の部屋電波技術は1W以下の平均出力で充分である事から、完全な実用機であると言える。

しかも、たかだか3Wあまりの2A3シングルでも、充分な音量が得られる事を思えば、名前はミニでも、決して小さすぎる事はない。

電源部も、先に述べたように、ICの内部で定電流回路が組み込まれてあるので、ローコストに、非常に簡単なリップルフィルターのみで充分でありノイズも殆どゼロで、深夜JBL14Aに耳をくっつけるようにしても殆ど何も聴きとれない。

保護回路があるのでスピーカ用フューズは不要なのだが、大してコストにもひびかないので、0.5~1Aのものを気休めに入れておいた。

電源部

写真(4)で解るように、回路の割に馬鹿でかいトランスが乗っている。軽自動車に大型ラジアルマウントタイヤーを乗せたように見えるこのトランスはちと贅沢すぎるかも知れないが、それにはそれだけの意味がある。

勿論、パワーアンプでは電源部が最も大切だという原則も、その理由の一つであるが、特に本機のように、比較的パワーの少ないものでは、音質と迫力を持たせるためには、少々贅沢な、というより余裕のある電源は、そなえておきたいものである。

こんなに小型なモノリシックICの事である。大出力パワートランジスタのように強くないのは当然である。電圧最大定格も比較的小さい。

もし、本機にありきたりの、レギュレーションの余り良くない電源トランスを使ったとすれば、当然の事ながら最大出力時と、アイドリング時に大きな電圧差が生じる。例えば、最大出力時が±12Vである本機に使用するトランスのレギュレーションが悪ければ、アイドリング時には±15Vを越える事があり、最大定格ぎりぎりになってしまう。

結果として、メーカーが発表している安全最大定格6.4Wをかなり上まわる8W(1000Hzにおける高調波歪率0.5%時)ものパワーを出しても、ICはこわれない。

本機の真似をして、自作される方はトランスを本機と同程度のレギュレーションのものが使えない場合には、6.4~7W以上の出力を出す事は危険である。メーカーの話によれば、このICの最大出力を6.4Wに設定したのは、メーカー製アンプなどに使用してある市販品のパワートランスを使用した時の事を考えた為なのだそうで、特にこの事は、注意してほしいと言う事であった。