07.30
モノシリックICによる全段直結差動OCLパワーアンプ 3
測定について
本機の入出力特性、パワーバンドウイズ、高調波歪率、等の測定結果は、出て来る音と直接関係はないのだが、これ等の特性は、理論上、非常に大切な事柄なので、第4図~第6図迄に示しておいた。
なお、安定度テストについては、別項でオーディオ回路のテスト法などについて連載しておりますので、本機の安定度テストについては、そちらの方で述べる事にする。本機はこれ等のテストに合格したものであることはいうまでもない。
測定に使用した機器は
電圧抵抗値―岩通VOAC707
容量測定 ―岩通VOAC107
電流測定 ―横河電機2051-03
ジェネレーター—菊水電子417A及びNF回路ブロックCR-116
交流電圧計―岩通VOA C707、トリオ106及び106F
高調波歪率計—NF回路、自動歪率計及び目黒MAK-659(NECの研究室で使用したもの)
であり、各グラフは、自分の事務所で測定したものと、NECの応用技術研究所で行なったものとの平均値によったものである。これ等のデーターは3番ピンから4番ピンに掛けてある位相補正コンデンサを100 pFにした時のものである事は、回路の所で述べた通りである。
但し、安定度テストのみは、音質が最も私の好みに合っている300 pFを使った時のものである事は言うまでもない。
ヒアリングについて、私があれこれ書くのは自画自賛になるきらいがあるので、日頃、高価なコンポーネントを取り扱っておられる星電社のオーディオコンサルタントの方々、3人に集ってもらった。組み合わせは次の通りである。
カロ‐トリッジ—シュアーV-15 MarkⅢ
プレーヤ—デンオンDP-3700F
プリアンプ—クリスキット マークⅥカスタム
スピーカ—JBL オリンパス
レコード—エッシェンバッハ/ハマークラービア、ロストロホヴィッチ/アルペジョーネ、アウラムコレギウム/ブランデンブルグ5番、アンセルメ/サンサーンス交響曲3番、東芝テストレコードNF9002、QuartetマイナスワンONK-0101
非常に滑らかな音である。トランジスタにありがちな中高音の鋭さはなく低音もよくしまっていると、お褒めをいただいた。
ボリュームを上げていく。24畳位のリスニングルームで、かなりやかましい程、上げていっても全然クリップしない。アンプの蓋を取るまで、本当にモノリシックICなんですか、と尋ねられた位である。
難を言えば、ボリュームをかなり大きくした時に、オルガンの重低音に少し迫力が足りないのでは、という意見が出た位である。
(このテストを行なった時には、もう一回り小さなパワートランスを使っていたので、この理由もあって、パワートランスを補強し、低音の迫力を少しでも引き出そうとしたわけである。)
スイッチオンで、小さな音ではあるが、プツッと言うのを気にしたが、コンサルタント連中に、この位の音は大低のものから出ますから、と言われて一安心。こんなにローコストで、小型のもの、というひいき目があったのかも知れないが、テスト結果はマズマズという所である。
プリアンプが良いからでは、という御意見が出たので、市販の某社の物に取り替えたら、やはり音が多少ざらっぼくなった。近く発表するプリアンプも自分では実験ずみなのだが、この人達のテストでも合格すると良いがと思っている。
これで自イ言がついた。マルチウェイにだって、4チャンネルにだって、安心してすすめる事が出来そうである。
組み立てについて
組み立てと言っても殆どがプリント基板にくっついてしまうし、部品の数も、おそらく世界最少と思われる程少ないので、説明はいらないと思う。
最初に述べたように、予備アンプとして使うという事も考えて、出来るだけコンパクトで、しかもデザイン的にもまずまず、という事から鈴蘭堂のMECシリーズの金型を使わせてもらって、本機の為に特注した。
次回に述べる本機とバランスのとれたコストパフオーマンスのモノリシックプリアンプにも、同じようなシャーシを使った。
プリアンプとパワーアンプを二つ並べた時のスペース格好共、大いに満足するものが出来た。その為に、あれこれ注文をつけて、何度も作り直しをしてくれた同社の坪木さんに、もう一度お礼を述べたい。
メーカーより、このICの為の放熱器(Heat Sink)が販売されていないので、充分すぎる程の大きさのものを特注して作らせた。このヒートシンクがICの表面に露出している円型のものと、電気的につながり、その円板は、ICのサブトレート(Subtrate)である為に、このヒートシンクを他の金属部に接触しないように注意が必要である。
他に特に注意する事はないが、スイッチを入れる前に、プリント基板の入力側アースポイントがシャーシの一点アースに必ず流れている事をテスタで確かめる事。もし浮いているのに電源を加えると、ICを歌目にしてしまう事がある。
プリント基根にハトメがそれぞれ6個ずつ付いているが、これは機械的には完全に留まっているようではあるが基板と電気的にはつながっていない場合が多いので、フ=リント喜板の箔の方から少量のハンダをのせておく必要がある。音が出ないというトラブルを出す人の80%迄が、この事に原因しているので、参考迄に付け加えておく。
フォーンジャックの配線は、フロントパネルを、サブシャーシに取り付ける以前にしておかないと、あとで狭い所にハンダごてを突っ込む作業をしないといけない。
回路の所にも述べたように、位相補正用コンデンサを100 pFの代わりに300pFを入れる事を忘れないように。何度も、ヒアリングテストをやってみたが300 pFの方が、なめらかな音になるようである。勿も、サブシャーシに穴が開けてあるので、出来上がってからでも、このコンデンサは、簡単に取り替えられるので、200~400pFの間で、自分の好みに合った数値のものを入れる事により、好みの音が出せる。
第7図のプリント基板のパターン及び部品配置図に斜線を入れてあるコンデンサがそれである。
ヘッドフォーンジャックに入れてある100Ωの抵抗は、能率の悪いヘッドフォーンの場合、50Ω以下にする必要があるかも知れぬ。
ついでながら0.22Ωと0.22μFとを間違えないよう、念の為つけ加えておく。0.22が0.22Ωで0.22μが0.22μF(フィルムコンデンサ)である事は言うまでもない。
例によって、本機のパネルは写真5のように、それぞれ内側の4本の皿ネジを取り除く事によって、前後に倒れるので配線が極めてしやすいと思う。
但し、不必要に、このちょうつがいを開けたり、閉めたりしない方がいい。電線を切ってしまう以外に、大した効力はない。ヨリ線は(「を」の誤り)使えば、電線が切れないだろうと言う人があるかも知れないが、これとてもハンダ付け部分は固まってしまうので、曲げたり、延ばしたりした時に、折れる事にはかわりない。
約2時間あれば、出来上がると思うので、各部の点検が終わったら、スピーカターミナルにテスタの2Vレンジをつなぎ、電源を入れて、テスタがちょっと動いて約0Vになれば成功とうわけだ。といっても必ず成功するので、このテストはあえて行なわなくても良い。
ついでに+12V、−12Vが大体あっていたら、完全に作動しているので、スピーカにつないでノイズを調べる。もし、不規則なノイズが出たら、ハンダ付けのあやしい所があるので、すみやかにスイッチを切って、もう一度、ハンダ付けの部分を点検する。
‘これで、工程は全部終了。ICとは誠に重宝な発明である。
(注意)
このμPC571Cは、一つ泣きどころがある。入カインピーダンスが、11.5kΩ(実測値)とかなり低い事である。
ソリッドステートプリアンプとつないで、使用する場合は問題はないのだが、管球式プリアンプとつなぐ場合には、プリアンプの出口に0.9μFのコンデンサを入れないと、低音不足になる。これは常に述べているように
の計算でも明らかな事である。
クリスキット マークVIカスタムは終段がカソードフォロアー(Cathode fonower)になっていて、その電圧が52Vと低い上に、すでに、0.267 μF(=0.047μF+o.22μF)のコンデンサが入っているので、それと並列に0.68μFの250V耐圧のフィルムコンデンサ(クリスキットの取り扱い店で入手出来る。写真6参照)を入れて、0.947μF(=0.267μF+0.68μF)にしなければ、低音が出ない事は、火を見るより明らかである。電気に弱いマニアの為に念の為に述べておく。
入カインピーダンスが低いことを補正するのに、一つの方法がある。つまりR-1(1kΩ)を36kΩに取り替えると、本来のインピーダンス11.5kΩとの合計が約47kΩになる。従って、クリスキットP-35の入カインピーダンスと同じ値にする事が出来るから、プリアンプとの接続等の回路的考えは、すべて同一に扱えば良い。
勿論、こうすることによって、このアンプのゲインが1/4.2に減るのは、やむを得ない。そこで、これを補う為に、20kΩ(R-4)を82kΩと取りかえる事によって、NFBの量を抑えればトータルゲインはほぼ同じになる。
NFBがそれだけ減るという事は、位相補正コンデンサC-2(l00pF)は50pF以下にしないと、補正がとれすぎて、高域が減衰することは勿論である。例によって、NFBが減る事により、周波数特性及び歪率は悪化するが、一部のマニアに喜ばれる古典真空管のボケ味が期待出来るものと考えられる。