2023
02.26

ホント、年齢とともに体力って衰えるものなんですね。

らかす日誌

私は知的労働者を自認している者である。ところが今日は肉体労働に従事することになった。話は昨日に遡る。

我が妻女殿の求めによって、我が家に豪華絢爛なベッド用マットレスがやって来たことは、昨年12月13日の「らかす日誌」に書いた。我が家ではそれを妻女殿がお使いになっている畳ベッドの上に置き、妻女殿の睡眠を支えてきた。だから、妻女殿のベッド問題は解決したものと思っていた。

ところが、である。昨日朝になって時代が急変した。突然

簡易ベッドが欲しい」

と言い出されたのである。簡易ベッド? 俺、重粒子線の治療を受けるが、入院はしないぞ。そもそも、

「あんたが寝込んだって、私は介護できないからね」

と宣言されたのはつい先日のことではないか。なぜ簡易ベッドがいる? 豪華絢爛な最高級ベッドで寝てるんだろ?

「あのベッド、高すぎて(床からの意味)、ベッドから出るのに20分もかかるの」

ほう、と思った。我が家に来たマットレスは厚みが25㎝もある。それを畳ベッドの上に置いたから、確かに、ベッドの端に座っても妻女殿の足は床に届かない。足が弱っておられる妻女殿はその姿勢から、ゆるゆると慎重に足を床に降ろしておられたのだろう。なるほど、それに20分もかかるか。だから、簡易ベッドで寝たいって?

私の決断は早い。折角いいベッドがあるのに、簡易ベッドで寝るバカがどこにある? 高すぎる(床から)のなら、下の畳ベッドを取りはずしてマットレスを床に直接置けば良いではないか。

「あ、そうよね」

ということで昨日、私はマットレスをベッドから降ろし、畳ベッドを分解して別の部屋に運んだ。このマットレス、厚みが25㎝もあるだけにかなり重い。分解した畳ベッドのパーツは木製で、これも重量がある。午後の2時間ほどを費やして、私は妻女殿の安眠を確保すべく、働いたのであった。

ふっと思いついたのは夕食の時である。
マットレスを床に置いたから、ベッドから降りる苦労は確かになくなっただろう。しかし、マットレスの厚みは「わずか」25㎝しかない。今度はベッドから降りるのではなく、ベッドから立ち上がる必要がある。力の入らぬ足をお持ちの妻女殿に、座面高25㎝の椅子から立ち上がる能力はあるか? 多分ない。

「だから、明日、マットレスの下に敷く台を作る。何㎝の高さにすればいいか、椅子に座って一番立ち上がりやすい高さを見つけろよ」

しばらくして

「42㎝程度」

という答が戻ってきた。ここまでが昨日の動きである。

さて、マットレスの下に置く台、まあ、これをベッドと呼んでももいいわけだが、実体は少し背の高い簀の子である。最適なベッド高が42㎝なら、マットレスの厚みが25㎝あるのだから高さ17㎝の簀の子にすれば良い。ということは、板の厚みを2㎝とみて、板の幅は15㎝。それをどう組み合わせて……。

今朝、太田市のジョイフル本田までドライブし、材料を買ってきた。店内を見て回ったが、幅15㎝の木はなく、最も近いのが幅14㎝、厚さ1.9㎝の材料だった。ま、10㎝ぐらいいいか。
簀の子は2枚構成とする。台座は「ロ」の字型にし、それにもう1本、補強を入れて「日」の字型にする。そして、幅8.9㎝の板を、適当な隙間を空けながら上に貼る。
こうした設計図を元に買い求めた材料は約8000円。それにカット代330円を加えたのが全支出である。

買い物にかなり時間を食い、自宅に戻ったのは12時近かった。まず肉野菜炒めだけの昼食(そう、私は糖質制限に取り組んでいるのです)を済ませ、お昼のパイプタバコを楽しんで、作業にかかったのは1時半頃だった。

簡単な作業である。下の台を組み立て、上に板を張ればおしまいである。私にはなめてかかった。
ところが、意外に手間取った。それぞれのパーツは木ネジで固定する。だが、この程度の厚みの板だと、長さ38㎜の木ネジをねじ込むと板が割れる恐れがある。従って、まずドリルでネジ穴を開け、その上で木ネジで締めなければならない。
加えて、合板ではない木というのはすぐに反ってしまう。空調、温度管理が行き届いた店内で我が世の春を楽しんでいた板どもは、自然環境に投げ込まれた途端に思い思いに反り返る。これを修正するのは力業でしかない。反った板を力任せに真っ直ぐにし、その状態でネジ穴を開け、木ネジで固定しなければならないのである。

それだけでも疲れる。だから、ここは

「その上」

という言葉を頭に使いたい。
その上、作業のほとんどは中腰で進めざるを得ない。中腰の姿勢は腰に来る。中腰で板の歪みを力任せに真っ直ぐにし(できなかったものも多いが)、その状態を保ちながらネジ穴を開け、木ネジをねじ込む。そんな作業を続ければ腰が痛み始めるのは作業にかかる前から分かりきったことだが、だといって、私がやらねば妻女殿が困る。妻女殿が困るだけなら放って置くという選択肢もあるが、うまく立ち上がれずに転倒し、おかしなところを打って体が動かなくなれば、今度は妻女殿だけでなく私も困る。腰の痛みなんぞ無視せざるを得ないのである。

作り終えたのは4時頃だった。何だか体を動かすのが億劫になった。もちろん、腰は痛む。それに、何度も立ったり座ったりしたためだろう、足もお疲れだ。組み上がってすっかり重たくなった簀の子を動かすには下半身に加えて上半身の力も使う。そんなこんなで、私は疲れてしまったのである。

だが、疲れてもまず後始末をしなければならない。後始末が終われば、出来上がった簀の子を、妻女殿の寝室がある2階に運び上げねばならない。床に直置きしてあるマットレスを動かし、2つの簀の子を敷いて、重いマットレスをその上に乗せねばならない。すべて私1人でこなさねばならない作業である。
だから、

疲れた!

しかしなあ、この程度の仕事なら、もう少し前なら軽々とこなしていた。いまこの借家で使っている3つの本棚は、置き場所のサイズに合わせて私が自作したものである。ということは、6年前までは平気でそんな作業をこなしていたのだ。

すっかり、寄る年波を自覚した1日だった。だから、

「おい、腰が痛い。早めに風呂を沸かしてくれ」

とリクエストし、湯船で20分ほど腰を温めた。温熱療法にどれほどの効果があるのか不明なため、久々に腰に湿布を貼った。明朝はスッキリした腰で目覚めることができるだろうか?

さて、こうした作業で、妻女殿のベッドは床から41㎝の高さになった。

「明日起きてみて、もう少し高さが欲しかったら、簀の子の台の四隅に端材を打ち付ければいい。1枚打ち付ければ2㎝ほど上がるし、それでも足りなければ2枚で4㎝上げられる。とりあえず、明日の朝起きてみてくれ」

イワシの丸干し5本としゃぶしゃぶの夕食(もちろん、ご飯なし!)をとりながら、妻女殿にそう申し上げた私であった。