2021
05.29

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その5 テープデッキの性能を調べる 2

音らかす

プリアンプのRIAAのカーブが、±0.5dB以下でなければならないという記事が良く見当る。実に結構な話であるが、読者の何パーセントがこの事の技術的意義を御存じなのだろうか。

技術的には御存じなくても、±0.5dB狂っていれば、耳ではっきりわかるという人が多い。残念ながら、何度も自分の耳で実験してみたが、私の耳では2 dB位違っていないとわからない。だから測定値に頼るわけである。

アンプを自作される方の中に『測定器なんかより、耳の方が確かです』という方が良くいる。そんな人には、なぜテスタで電圧なんか測るのかと尋ねる事にしている。テスタなんか使わないで、指につばをつけてさわってみるだけで、そんなに五感のすぐれた方なら、150Vか165Vかの違い位わかりそうなものである。とにかく、オーディオのくろうととは、不思議な人物である。

また話が横道にそれた。申し分けない。デッキの周波数特性は、どういうわけか、各社共、−10dB~−0dBで測定した値をカタログに載せている。ヘッドにあまり大きな信号を送ると高域であふれ出し(Saturation)てうまくない。従って、−10dBまたは−16dBで測ると、 よリカタログ値に近い数値が出る。それでも音楽の再生には、問題はないという事である。

先のテストで、約0.3V出ていたのを、それより10dB下がったところ、つまり0.3V×0.316=0.095V

位の出力信号をもとに測る事になる。

ジェネレータの出力を10dB下げて、ミリバルの読みが0.095V(95mV)あたりを指すところまで少なく出るようにする。本来ならば、VUメータも−10dBのところへ来る筈であるが、アマチュア用デッキのメータは、あくまで目安のもので、あてにならないので、これから先は、ミリバルだけが頼りである。メータの0.095Vのあたりに適当なデシベルの目盛りがないので、もう少こ(「こ」は不要)し下げて0.0775V(77.5m V)のところに0dBがあるので、そこまで下げる。前に書いたように、0dBmが0.775Vであるから、それから20dB下がったところ、つまり1/10の0.0775V(77.5m V)が−20dBレンジでの0 dBである。

1000Hzを、そこでの0dBとして、それから2000Hz、3000Hzと10000(「1000」の誤り)Hzきざみに周波数を上げていって、自分のデッキのカタログに書いてあった周波数特性の最高のところまで測って、カタログどうり、例えば±2 dBになっているかどうかを読みとるわけである。

高い方が終ったら、低域も同じようにして測る。

事をあらだてるつもりはないので、私のとったカーブを掲載するのはやめるが、測定器のある方は、自分ので測って欲しい。測った方には、何故私がメーカー製アンプを使わないで、自作するかがわかってもらえると思う。

誤解があってもいけないので、 ことわっておくが、メーカー製のものはデタラメだといっているのではない。大量生産に近い方法で、しかも商策という枠にしばられながら作られたものと丹精こめて、部品代にそろばんをはじかないで作った自作品とは、自ずから違うと言う事である。しかもジェット機を作るのと違って、メーカーと言えども、部品をハンダづけしただけで出来上がるアンプの事である。自作のように、一台一台作ったものの方が良いと、私は言っているのである。

残念なが(ら)、テープデッキの自作は無理なので、サービスステーションのお世話で調整しなおしてもらったままである。

このテストで電気の勉強をした方は二度と、『さすが、マッキンの音』なんて表現をされるイカ銀評論家の記事を読まなくなること、うけ合い。

この周波数特性のチェックは、先に述べた入出力特性がそろってからでないと、なんにもならない事は言うまでもない。

テープ録音時のレベル

テープデッキを使って、FM放送なんかの録音をしたものを聴かされる度に感じるのだが、録音レベルが低いせいか、かなり大きな音でヒスが出ているのに出合う事が良くある。もしかしたら、オーディオ雑誌かなんかで小さく録音して大きく再生すると音質が良いなんて書いてあったのかも知れぬ。上記のテストでも解かるように、−10dB以下でないと、正しい周波数特性が得られないとすれば、 これにも一理はあるのかも知れぬ。もし、それでヒス音が出なければ、それに越した事はないのだけれど、良い音を出すためには、ヒス音くらいがまんしなければ、というのも、マニアそのもので、オーディオリスナーとしては、賛成いたしかねる。といって、録音オーバーでひずんでしまうような録音は論外である。中庸は徳の致れる(「至れる」の誤り)ものなり、なんて言って、どのあたりが中庸かという事がわからなければ、論語読みの論語知らずという事になる。

オーディオジェネレータとオシロスコープを使って、その波形を見る方法を一席。

このテストには、1000Hzより400Hzの方が良いと思う。先程のようにセットしたデッキの入出カボリュームをそのままに置いて400Hzの信号を、LINE INPUTに入れる。ジェネレータのつまみを調節してVUメータが0dB(100%)を指すところにセットする。テープをかけて、信号(サインウエーブ) を録音する。モニタをTAPEに倒すと、当然出力に録音された波形が出て来る。その信号を、オシロスコープで受けるわけである。もちろん、この状態では画面に比較的きれいなサインウェーブが見られる筈である。

そこで録音レベルつまみを静かに右に回わしていき、VUメータが、+3dBを指すところまでいって止める。そして再生レベル(OUTPUT)を左に回わして、VUメータの針を0dBにもどす。そして、再び録音レベルを上げて行く、その時に、オシロスコープの波形が欠け始めたところで止める(第13図参照)。その時にVUメータが+2dBを指していれば、先程の3dBと合わせて5dBの余裕がある事がわかる。5dBというと、電圧比で、1.8倍であるから、多少VUメータの針がピークレベルメータのそれに比べて、応答性が悪くても、かなり余裕があるので、録音中にVUメータが0 dBを越えて、赤色マークの中に入っていっても、録音オーバーになる事はまずない。通常この余裕度は8dB(2.5倍)以上あるもので、最近の、ローノイズテープだと、更に3~4dB(1.4~1.6倍)位余裕があるものなので、カセットデッキならともかく、録音オーバーはあまり気にする必要はない。まして、ヒス音が音楽にまじって出る程小さな録音レベルで、録音するのは馬鹿げている。

そのために録音中にモニターするのではなかろうか。マニアは、常に耳自漫の筈なのに、 ヒス音だけが聴こえないとしたら、色盲ならぬ、音盲病にかかっているのかも知れない。

もちろん、オシロスコープの波形が欠け始めるまでに、歪は大分上がって来てはいるのだがヒアリングテストをしてみて、切り換えた時に、聴感上音質が変わらなければ、音楽を聴くのにどうって事はない。

歪率計を使って、という事になると最低十五万円はかかるので、オーディオリスナーとしては、少々贅沢すぎると思う。

幸いな事に、私はヒースキットIM-48(混変調波歪率計)とIM-58(高調波歪率計)を持っているので、その精度については、値段相応という事になるかも知れないが、歪率が増えたか減ったか位は立派にわかる。カタログデータではなく、回路理解のためにはここのところをこうすれば歪率が増えああすれば減る。そしてその指示値が10~20%位の誤差があっても、大体の見当はつく。最近になってヒースキットよりもう少し信頼性のある国産のオーディオアナライザーを入手するまではクリスキットの設計には欠かせない計器の一つであった。

歪率計の使い方は、後程、プリアンプ、パワーアンプの測定の項で述べる。

テープレコーダのバイアスリーケージ

テープレコーダの録音ヘッドには、バイアスがかけてある。通常、このバイアス信号は、可聴周波数よりはるかに高い信号を使ってあるため、多少もれてきて、信号にまじっていても気がつかないものである。私の場合も、A-2300Sを入手してからもう半年以上使っているのだが、最近、岩崎通信器の2現像シンクロスコープ(SS-5100)を入手したので、念のために、そのデッキをあたってみたらかなりはっきりと、バイアスリーケージ(Bias leakage)が出ているのを発見した。

バイアスリーケージ位を見るのに、何十万円もするシンクロスコープはなくても、一般のオシロスコープでも割合簡単に見えるものである。第14図がその様子を現わしたものである。写真でも撮れるのだが、解りやすくするために図で示したわけである。例えば、1000HZの信号を録音して、その波形を、オシロスコープでみると上のように、正確なサインウェーブだけが見えるのだが、バイアス信号が漏れていると、下のように、その1000Hzに非常に高周波数が乗って(Modulation)来る。

サービスマニュアルが有れば、アマチュアでもAC電圧計と、オシロスコープ(シンクロスコープ)を使って、バイアストラップ(Bias Traps)回路を調整すれば割合簡単になおせるのだが、余計なところの半固定部品を、間違って回わすおそれもあるので、メーカーのサービスステーションに頼むのが良い。

本来ならば、これ等の調整はメーカー出荷時に完全にチェックしてある筈なのだけれど、池田勇人以来、高度成長が、無軌道に行なわれたためにメーカーの従業員の中には、以前のようにプライドを持って仕事をする人々が少なくなったためか、 メーカーとしても工場管理に頭の痛い事だろうと思う。

アラ探しをするつもりは全くないがここのところしばらく、マニアが増えたせいか、 メーカーが強気になってしまっているようなので、私共オーディオリスナーまでが、一部のマニアのまきぞえを喰って、いろいろ不愉快な思いをさせられる事が多い。一日も早く、生活科学センターのオーディオ版か(「が」の誤り)出来て、少しでも良い品物か、もっと妥当な値段で入手出来るようになって欲しいものである。ついでに、欠陥商品は、ユーザーの力でしめ出したいと思っている。オーディオ機器は、測定器と違って商品価値の判定がむづかしいものだけに、カメラに対する千葉工業大学(カメラ毎日)みたいに、中立の立場にあるものが、テストレポートなどを作って雑誌に発表してもらいたいものである。

オーディオ評論家が、メーカーから金一封をもらって、しろうとだましみたいな評価をしていられるが、もういい加減にもっと信頼性のあるレポートが欲しい。それによって、欠点を進んで改良出来るメーカーの態度が望まれる。

以上、電波技術 19743月号