10.18
2010年10月18日 この野郎!
「瑛汰、いる?」
夕方、横浜の次女宅に電話をした。瑛汰に話があったからである。
「はい、瑛汰です」
と電話に出た瑛汰にいった。
「瑛汰、ボスにありがとうは?」
これだけではほとんどご理解いただけまい。まず、この会話に至る背景をご説明する。
啓樹と瑛汰に、アイロンプリントでマイケル・ジャクソンのTシャツを作ってやったことはご報告した。喜んだ2人に、長女の出産で横浜にいた先々週、新しい約束をした。スター・ウォーズのTシャツである。それぞれ2枚ずつ作る。1枚は、ライトセーバーとする。もう一枚は何がいい?
啓樹は
「オビワン!」
であった。
瑛汰は
「ヨーダ!」
と叫んだ。チビのしわくちゃ爺さんTシャツを着る。瑛汰、かなり変わった趣味の持ち主だ。
昨日、みどり市笠懸のヤマダ電器まで出かけ、アイロンプリントペーパーを買い求めた。帰りに相生のユニクロに寄り、サイズ120のTシャツ2枚、130を2枚仕入れた。
自宅に戻り、画像はネットで探した。適当な映像を見繕い、「STAR WARS」、「THE CLONE WARS」のロゴもダウンロードして、見事なスター・ウォーズシャツを4枚作り上げたのが、昨日の午後である。すぐに横浜に向けて発送した。
「ボス,Tシャツ届いたよ。ありがとう」
昼過ぎ、啓樹から電話が来た。啓樹はまだ横浜に滞在中である。
「おう、届いたか。どっちが好き?」
「うん、どっちも格好いい。ありがとう」
「そうか。いま、どっちを着てる?」
「ん? どっちも着てない。見ただけ」
ま、それはそうである。朝、着替える。新しいTシャツが届いたからといって着替えるわけはない。
啓樹とはそんな会話を交わした。
Tシャツが届いたとき幼稚園に行っていた瑛汰も、午後3時前には帰宅し、ライトセーバーとヨーダのTシャツを見たはずである。が、電話が来ない。
夕方、私から瑛汰に電話をしたのはそんな次第からである。
で、冒頭に戻ろう。
「瑛汰、ボスにありがとうは?」
と感謝の言葉を強要する私に、瑛汰はいった。
「あのねえ、いま忙しいの。いま瑛汰、戦いしてんだから、凄く忙しいのよ」
人様に物をいただいて、自ら謝礼をしなかったために謝礼を求める電話を受けて、この態度。瑛汰、なかなかふてぶてしい。
「瑛汰、Tシャツ届いたでしょう? どっちが好きだった? ライトセーバーと、ヨーダ」
啓樹、ボスから電話。啓樹、電話に出る?
向こうの受話器のそばで、瑛汰が声を出している。一刻も早く受話器から離れたいらしい。思わず、声が大きくなった。
「瑛汰! どっちが格好良かった?」
面倒くさそうに瑛汰が答える。
「どっちもいいよ」
こりゃあ、筋金入りだ。仕方なくいった。
「瑛汰、啓樹に代わって」
啓樹が出た。
「啓樹、瑛汰はTシャツ見たのか?」
「うん、ライトセーバーは見たけど、ヨーダはまだ」
「そうか。な、啓樹、瑛汰にいいなさい。ボスにありがとうっていわなきゃダメでしょって」
瑛汰、ボスにありがとうっていわなきゃダメでしょ!
受話器の向こうで啓樹が大きな声を出した。再び瑛汰が受話器を持った。
「ボス、ありがとう。瑛汰、忙しいから、バイバイ!」
それで通話が途切れた。
おい、瑛汰、
「ボス、帰っちゃダメー」
「もっと、いっぱいいっぱいいて。だから、あと9日いて」
「買えなくてもいい。お願いだから明日までいて。瑛汰、ボスと寝たい!」
としがみついて離れなかったのは、つい先日のことではないか。もう心変わりしたか?
目先、啓樹との戦いに我を忘れている瑛汰。うん、お前は健康に育っている。お前の年齢ではそちらの方がすがすがしい。思わず笑ってしまった。
だけどな。最近は大人にも、いまのお前みたいなヤツが増えていてな……。
啓樹、瑛汰、いい大人に成長しろよ!