2021
06.04

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その8 プリアンプ測定の実際 1

音らかす

【大道より、お断り】

連載している「ステレオ装置の合理的なまとめ方」ですが、その7が掲載されていたはずの電波科学1974年6月号が私の手元にありません。桝谷さんが私に渡すのをお忘れになったようです。このため「その7」は復刻出来ず、欠番になります。
この間、ライターとしての桝谷さんは脂がのりきった絶頂期にあったようで、「ステレオ装置の合理的なまとめ方」を連載しつつ、製作記事も同時並行して連載されています。時系列順に掲載すると混乱しそうだったので、製作記事は「ステレオ装置の合理的なまとめ方」終了後に回しました。その製作記事も、1974年6月号の分はありませんので、欠番になることをあらかじめお断りしておきます。

 

前回の説明で、プリアンプのイコライザ段におけるRIAA特性の理論及びその測定に関する概略が解った。そこで今回は、その測定の実際について考えて見る事にする。

RIAAのイコライザは30~15,000Hzの周波数範囲で測定するのであるから、それぞれの発振周波数が出来るだけ正確で、しかも各周波数での出力信号電圧が一定である事が望ましい。しかしながら、我々アマチュアが入手出来る程度のものは、或る程度のところで妥協しなければならない。かなり正確で、しかも信頼性があるものとなると、最低¥400,000位はするからである。

いろいろ調べて見たが、出来るだけ安価で、コンパクトな計器で、周波数確度がある程度正確で、出力信号電圧がそろっているもの、と言う要求に合ったものに、菊水電子の418がある。前回にも述べたが、この機種には一つ欠点がある。どう言う理由によるのか知らないが、その出力電圧が少々大きすぎる。

最大出力が約8Vもあり、プリアンプはおろか、パワーアンプの測定にも大きすぎて使いものにならない。

一応アッテネータはついているのだが、−20dB(電圧比1/10)のみで、それ以下は、ボリュームを使うようになっており、小刻みな調節が非常にやりにくい。メーカーにこの事は申し込んで見たが、今だに何の音沙汰もないところを見ると、そんな要求には同機の2倍以上高価で、図体が倍以上もある417Aの販売政策によるものと思われる。と言って、他に適当な機種がなければ致し方がない、と言う事で、原稿を書く時の必要性から417Aを一台購入した。

そこで早速、前述の自作アッテネータを作ろうと思って、パーツ屋を当たって見ると、驚ろいたことにプラグはメーカーで製造中止。とかくこの世はままならぬ。417Aには切り換えスイッチがついていて、周波数測定用と低歪率用に切り換わるようになっているので、 もし、その歪率が少なければ歪率測定用にも使えるので、買い換えて見てはと思って、手持ちのNF回路プロック製の歪率計DM-152Aで当たって見たら。それ程特性が良くなかったようなので、歪率測定用スポット発振器は後日自作するということ言う事にして、418を手元に残すことに決めたわけである。

決めたからには何とかこの発振器をアッテネートしなければ使いものにならない(もう一台あるヒースキットIG-18は、周波数を変える度にかなり大きく出力信号電圧が狂うので、RIAA測定にはまうまくない)。

そこで考えついたのが、写真17のように改造する事である。この時に注意しなければならないことがある。炭素被膜抵抗はその製造法から、その抵抗体がスパイラル状になっている(第18図参照)。10,000Hz位までは別に問題はないのであるが。それ以上の周波数で方形波を出した時に、このスパイラルの抵抗体がコイルの働きをするので被測定物の入力インピーダンスが低い時に高域であばれる。写真18がその様子である。二現像シンクロスコープ(岩崎通信機のSS-5100)の上側に現われているクリスキットP-35への入力波形にリンギングが見られる。

写真17

第18図

これを解決するには、スパイラル状になっていない抵抗体を使用しなければならない。市販のパーツでこれに合格するものに金属被膜抵抗がある。ソリッド抵抗でも良いのだが、ノイズの点で気になる。

こんな風に手を加えると、もと8Vも出ていた信号が0.8Vになり、附属のアッテネータで20dB落とすと、0.08V(80mV)レンジになるから、それ以下は、ボリュームで0Vまで割合スムーズに加減できる。

これでジェネレータの段取りはついた。次に必要なものはミリバルと呼ばれる交流電圧計である。これにもピンからキリまである。私の知っているものでは、最高¥270,000。もちろん信頼性はあるかも知れぬ。けれど、常に述べているように、アマチュアの測定の目的はあくまで回路などの理解のためであり、自作したもの、及び市販のオーディオコンポーネントが正常に働いているかどうかを確かめるためのものである。したがって、或る程度信頼性があれば、そして本項に述べる測定の他、我々アマチュア用機器としての性能を持っているものであれば充分事足りる。

よくアマチュアが、自分のイコライザ・アンプを測定してみたら、RIAAカーブが、プラスマイナス零点何デシベルの誤差に入っていた、と言っておられるのを耳にする。勿論、結構な話であるが、今までに述べたように、私共が割合簡単に入手出来るこの種の測定器による測定値は、それ自体±1dB以上の誤差があるものである。例えば、ジェネレータの周波数に8%もの誤差があり、400Hz出ている筈のところで、432Hz出ていたとしたら、もうそれだけで正確な数値である+3.81dBから1dB近く低くなる周波数になっているので、これで1dBばかり狂っている事になる。ミリバルの誤差がフルスケールの3%で、3.81dBと出ている筈が3.5dBから4.1dBの間の誤差を持って目盛りを読んでいる事になる。つまり±0.3dBの誤差である。先程のジェネレータの誤差の1dBと合わせると、±1.3dBの測定誤差になる。

こんな風な測り方をして、もし、その方の自作アンプのRIAAカープが±0.2dBに入っていたとしたら、そのアンプの方が狂っている事になる。アマチュアの測定なんて、大体こんなものである。それで良いわけで、私共通常の耳では2 dB近く狂っていないと、そう簡単に聴きわけられないなのだから。

そんなら測定器はどんなものでも良いのか、と言う事になる。ところがそうはいかない。あまり信頼性のないものだとすぐに使いたくなくなるもので結局は無駄な買物をした事になる。その上ミリバルはRIAAカーブの測定以外に、オーディオ機器の測定に必ず要るもので、その利用度はきわめて高いものなのだから、あまりお祖末なものはおすすめ出来ない。

トリオ106及び106Fか菊水164などが値段の割に信頼性があり、私共アマチュア用には、とにかく使える。強いて言えば、菊水の方が専門メーカーなので、より良いかも知れないが、選ぶ時の絶対条件は、−60dB(フルスケール)1~1.5mVで、それより感度の鈍いものは、すぐに嫌気がさして使わなくなる。

測定器の接続について

ジェネレータから出ている信号をプリアンプヘ、そしてそこで増幅されて出て来る信号をミリバルで受けるだから、第19図のようにつなぎさえすれば良いのであるが、一般に測定器の測定端子にはワニ口クリップがついるもので、プリアンプの入力ピンジャクにつなぐ事が出来ない。測定器用のシールド線の先端に、雄(オス)のピンジャックをとりつけておけば一番良いのだが、ワニ口を使いたい時に困る。

第19図

両方の使い方をするためには、写真19のように加工しておけば便利だと思う。

写真19a

写真19b

第19図には、左の端にオシロスコープ(シンクロスコープ)がつないである。これはプリアンプからの出力波形を観察するためのもので、 ミリバルだと波形がゆがんで来たり、ひどい時にはクリップしたりしていても知らずに測定している事になるからである。

前回に述べたクリスキットの測定に基づいて、その実際について説明する。

測定器及び被測定アンプに灯を入れて、ジェネレータのアッテネータをしぼり切ったまま10~20分位放置した方が安定度が出て良いと思う。

ジェネレータの発振周波数を1,000Hzに合わせ、ミリバルを+10dBm(フルスケール3Vまたは5V)のレンジにまわしてから、ジェネレータのボリュームを静かにまわして行くと、ミリバルの針が動き始める。針を0dBの目盛りに合わせると、そこが2.45Vになっているのが分かる。

次にジェネレータのダイアルをまわして、正確に2kHzに合わせると、−2.61dB(1.81V)のところまで針が下がって行くのが見える。勿論、これは理論値であって、こんなに細かく読み取れる筈がない。−2.5dBをちょっと過ぎたところ位いしか読めない筈である。−2.61dBと読めたらそれは、RIAAの表を先に見ているからである。

次に3kHzに合わせると、更に針が下がって、今度は−4.5dBを少し過ぎたところで止まる筈である。つまり、−4.76dB(1.42V)だと言うわけである。次の4kHzになると少し問題が生じて来る。−5dBをすぎると、ミリバルの目盛りがこまかくなって読みにくくなる。そこでひとまず−6.5dB(約1.2V)を少し過ぎたところを指している事を確認してから、レンジスイッチを一段左へ、つまり今度は0dB(フルスケール1.5V)レンジに合わせる。10dB下ったところ、電圧比では1/3.16になったわけである。

当然の事ながら針は右へはねて、+3.5dBあたりへ来る。正確には、10dB−6.64dB =+3.56dB(1.14V)になればRIAAにどんびしゃり合っていると言うわけであるが、 この位の測定器では、それ程信頼のおける数値は出ないものである。レンジを切り換えた時に、正確に−10dB(1/3.16)にならないからと、メータのリニアリティー(Lineality=亘線性)の不正確さによるものである。

5kHzで+1.77dB(0.95V)、6kHzで+0.38dB(0.81V)と当たって行くと、7kHzで今度は0dBを通りすぎて−0.85dB(0.70V)(10dB −10.85dB=−0.85dB)に来る。

同じようこ12kHzでまた−5dBを通りすぎるから、再びミリバルのレンジを更にもう一段下げる。合計−20dB(1/10)のレンジになったわけである。その時のメータが+4.72dB(0.42V)(20dB −15.28dB=+4.72 dB)を指していればそのプリアンプは正確だ、と言う理屈である.

こう書いて行くとややっこしいように思えるが、実際に測定器を使って実験して行くとそれ程でもない。百聞は一見にしかずである。

15kHzが終ったらまずミリバルのレンジスイッチを右へ2段まわして、最初測定しはじめたところにもどしてから、 ジェネレータをもとの1,000Hzにもどさなければならない。この間に17dB(7倍)以上の差があるのでミリバルの針がピンと振り切って、メータを痛めてしまうおそれがあるからである。

1,000Hzから30Hzまでの測定は今までと逆の行程であり、周波数が低くなる程ゲインが上がって行く事になる。

このような測定は、あくまで新しく回路を考えてプリアンプを作り上げた時の事で、クリスキットのように、今まで何台も作られたものの場合は、100Hz、1,000Hz及び10,000Hzの3点のみをスポットで測定するだけで充分である。念のために30Hzも当たって見るのも良い。これ等の4点が合っていれば、他の周波数は必ず合っているからである。

(注1)写真18で上の写真は、カーボン被膜抵抗を使用したアッテネータをつけたときの写真である。100,000Hzでオーバーシュート・リンキングが見える。下側の写真は、金属被膜抵抗によるもので、このリンキングがない。
それぞれ上段がパワーアンプヘの入力波形で、下段がパワーアンプの出力である。上側の写真はP-35のC-4が20pFのみ、下側の写真は20pF+100pFの場合である。