08.22
オーディオ用ひずみ率計は自作出来るか? 1
数ある測定器のなかでも、ひずみ率計がもっとも入手困難な測定器で、自作もむつかしいとされている。しかし、アンプ製作時に、ひずみが最少になるようにするためには、ひずみ率計は不可欠である。そこで、簡易型のひずみ率計が、特殊な精密級の部品を使わなくとも市販部品で出来ないものか、考えてみた。
アンプ製作と測定器
私たちアマチュアが、プリアンプやパワーアンプを製作する場合に、一番問題になるのは、測定器であると思います。よく製作記事などに、“測定器をお持ちでない方は、実体図通りに、部品なども回路図のものと全く同じ物を使わないと、特性などは本機と同じものはできません” なんて書いてあるのに出合うと、測定器なしで、アンプなどを作るのに、 自信が持てなくなるものです。
私の場合でも測定結果つきで、製作記事を発表しますと、読者の方々からいろいろなご質問を受けますが、測定器なしで自作される方々の気が良くわかります。
と言って、ある程度信頼性のある測定器をひとそろい集めるとなると、かなりの物入りで、それこそ、優秀な性能のアンプが何台も買えるほど、費用がかかります。しかしながら、ラジオ技術71年5月号にも書きましたが、測定器なしでアンプを作るのは、物差しを使わないでものを計るようなもの。ただ、手慰みに安物のアンプや6石トランジスタ・ラジオを作る場合は別として、市販品より優秀なセットを、妥当な費用で作りあげようとすれば、やはりある程度信頼性のある測定器を必要としなければならないのは、当然のことだと思います。
ところが、測定器を揃えるとなるとアンプなどと違って、絶対需要量が非常に少ないわけですから、業務用のもので何10万円、アマチュアグレートにしても10万円近い投資が必要になってくるのは、仕方のないことだと思います。メーカーにしても、何千台も出荷できるアンプ類に比べて、その10分の1にも満たない需要にむける、これらのアマチュア測定器を市販するためには、どうしても割り高になるようです。特に、ひずみ率計は、 これらの測定器のうちで、もっとも入手困難なものの一つで、だれでもが慾しがっていながら、なかなか揃えられません。
ひずみ率計
ひずみ率を測るには、Harmonic Distortion と Intermodulation Analyzingとの2つの測定法のうち、後者のIMひずみのほうが、私たちの耳でききとれる “ひずみ” だと言うことですので、この “IMひずみ率計” が、はたして、私たちに自作できるか、という事について、読者のみなさんと一緒に考えてみたいと思います。それと言うのも、いろいろ市販されているオーデイオ測定器のうちで、ひずみ率計がずばぬけて高値なようだからです。
商用で渡米した時に、Heathkitからなかなか面白そうなAudio Analyzerが出ているのをみつけましたので、早速入手して組みあげて使ってみたところ、なかなか重宝で、手頃ですので、その回路をもとにして、何となく、それに近いものが、器用な人にはキットを入手しなくても、自作できないものかと考えたのです。
オーディオ・アナライザ
Heathkit IM-48型オーディオ・アナライザは、真空管電圧計、オーディオ出力計、それにIMひずみ率計の使用ができるようになっていますが、全回路でもおわかりのように、精密級の抵抗やコンデンサの部分が、私たちにはとも入手できそうもありませんので、このキットと同じものを作ることは不可能ですが、そのIMひずみ率計の部分のみを取り出して作ることは、そんなにむつかしい事でもなさそうだと、考えたわけです。
第1表がその特性表で、全回路図は第1図にのせておきます。図で切換スイッチのウェーハーが、 日本式の回路図と書き方が違いますので、わかりにくいかも知れませんが、あとで、その切り換えなどについては、詳しく説明しますので、問題ないと思います。念のために、Heathkitの実体配線図を第2図にのせておきます。
IMひずみ率計の動作
それでは、どうすればHeathkitからひずみ率計の部分だけを取り出し、しかも、入手不能な精密級抵抗を使わないで、とにかく使いものになるものができそうか、という事について考えてみます。
精密級抵抗が使用されているのは、全回路図の左下にあるレンジ・スイッチですので、それを分解したのが第3図です。図の左側の原回路を、バルボルとオーディオ出力計としての用途を無視して、IMひずみ率計の部分のみを使用できるものを作るという前提で市販品から入手できそうな部品におきかえてみたのが、右側の回路です。
もちろん、精密級部品は使えないわけですから、IMひずみ率何パーセントと言う数値は読みとれません。そこまで要求する場合には、Heathkitを入手する以外に仕方のないことで、本項はあくまで、アンプの作成にあたってIMひずみ率が最少になるよう、
◎グリッド・バイアスを設定したり
◎ACバランスをとったり
◎その他、回路の部品を最適値のものを選ぶ
ためにIMひずみ率計が使われるかどうか、という話ですので、そのつもりで読んでいただきたいと思います。
精密級抵抗を使ってあるのは、このレンジ・スイッチだけですので、あとは、このIMひずみ率計がどんな風に作動して、“ひずみ率” を読みとるようになっているかについて、考えてみましょう。
第4図は、本機を使ってひずみ率を測るための予備操作のうち、Low Frequency(50/60 Hz)の出力をセッする状態にしたものです。第4図のようにスイッチを切り換えるためには、第5図にあるパネル面のツマミ類を
① ファンクション・スイッチをLF、HF、TEST
② レンジ・スイッチのかわりに使した3つのポリューム・コントロールは、メータの読みが、適当になるように、
③ テスト・スイッチ(下側右から2番目)をLF、TESTにまわすとプロック回路図でおわかりのように、電源トランスの2次側に出る50/60Hzの交流信号電圧が、Testスイッチ、Functionスィッチを通って、Rangeスイッチでアッテネートされ、メータを働らかせる12AT7/12A AU1/2の回路に入ります。
④ この50/60HZの交流電圧値を、あとで述べる約3000Hzの交流信号と、4:1の割合で混合するために、例えば2Vになるように、Genertor Out putコントロール(恐らく「Generator」)を動かします。
⑤ 次に、6C4の回路で発振させて得られる約3000Hzの信号を、前記のように4:1で取り出すために、TestスイッチをHFにまわすと、第6図のような回路構成になります。
⑥ この時のゲインを、先程の50/60Hzの時の磁になるように、HF Levelコントロールで、0.5Vのメータの読みに合わせると準備完了です。
⑦ いよいよアンプの測定です。アンプを第7図のように接続しますと、第8図の測定回路が生じます。つまりアンプヘの入力を取り出すターミナル(output)へは、1:4の割合で混合された信号(第9図の写真参照)が出てきます。その信号が、アンプを通って増幅され、ひずみ率計の入力(Input)から入り、内蔵負荷抵抗(16Ωなど)と12AX 7と12AU 7場で構成されるフィルタ回路を通って、メータの読みに現われます。
キットから作れば、この時にそのアンプの出力電圧、または、パワーをワット数で読み取れるのですが、本項のように簡易型の場合は、ひずみ率だけを計る目的。しかも、何パーセントと言うより、例えば、DCバランスを正確にとれば、どの位ひずみが感じるかといった目的に使用することしか、利用できないのは、やむをえません。
⑧ いよいよIMひずみ率を読み取ることになります。原理としては、残留ひずみ率を読むわけですから、Functionスィッチ、Rangeスィッチを、パネル面のSet Levelに合わせて、12AX 7のグリッドにつながっているInput Gain コントロールで、メータの針が右端(メータのSet Levelの位置)にくるようにします。
キットから組み立てた場合は、この数値が1%、3%になるわけですが、精密級抵抗が使えない時には、第3図のように1%、10%のみになるのは仕方がありません。
⑨ そぅして、Function スィッチを1M%にまわすと(第10図)、針が左ヘスーツと振れて、止まります。この時の指示値がフルスケールの1/10になっていれば、例えば、 1% 1MのRangeでは、IMひずみ0.1%ということになります。これは、さきほどのフィルタ回路で取れないIMひずみがFunction スィッチを経て、メータ回路に現われるからです。