08.04
モノシリックICによる前段直結差動プリアンプの2 1
実体回路図の見方
実体回路図という言葉は、私が作ったものである。だから今迄に、実体路図を見た事がない、 という方々も多いと思われるので、その見方について少し説明する。
今迄に、大勢のアマチュアの方々に接して感じた事であるが、回路図は頭から解らないと決めてかかって、見ようとしない人が非常に多い。だから解らない。見ないで事が解るのは座頭市位のもので、少なくともハンダごてを使ってアンプを作るのに、回路図を見ないという法はない。
パワーアンプはともかく、プリアンプを作るのに、実体図を見ながらの作業は大変だと思うし、アースポイントの取り方なんぞは、実体配線図では見当がつかないと思う。だから、いつまでたっても入カインピーダンスなんて解らない事になる。
私の所に、舞い込んで来る質問状の申で、一番多いのが、クリスキットマークⅥカスタムを作ったのだが、パワーアンプにKT-88をつなぐのに、どんな点に注意したらよろしいか、と云うお便りである。こんな手合に、一々返事は出したくない、と最近考えるようになった。リコピーで目下、回答を作成中である。こんな方々も回路図に馴れて来ると、馬鹿みたいな質問をしなくても良くなる、と私は思う。
第1図は、本機のファンクションスイッチの実体配線図、実体回路図、と回路図を比較したものである。回路図中、右側にあるのが、アメリカ製のアンプなどに付いている回路図にあるスイッチの表わし方である。合理的でよいのだが、印刷物で縮少された時に見にくいという嫌いがある。
回路を考えるのには、右から2番目の回路図が一番解り良いが、馴れてない者には、 これを基に配線するのは少々まごつくかも知れないので、実体回路図なるものを、私が考案したわけである。
くどくど説明するよりは、実物のスイッチを手に取って見るのが一番である。シヤフトにつまみを付けて、右左に回して見る。フロントパネルで解るように、本機では、右に回し切った時にPHONOになるように設計してある。テスタで当たらなくても眼で見れば解るように、0番ビンと1番ピンが短絡する。そこで左へ一段回すと、今度は0と2がくっついて、次に0が3につながる事を確かめてみる。実物及び実体図で解るように、0番ピンだけが尖端が凸になっていて、他のビンは凹になっている。凸の方が共通の端子という訳である。2回路だと、この共通端子が2個、4回路で4個あるのは当然である。
これだけ説明しても解らない方は、アンプなんか作る資格はないのだから雑誌の広告でも見て、ウィーンフィルの音がするアンプを買って来た方が、手っ取り早く音楽が聴ける。マニアになる一番早道である。
アルプスのM型スイッチの方も第2図に同じ様に比較しておいた。こちらの方は、接点が隠れて見えないので、テスターで当たらなければ、その働きは解らない。Y型もM型も、実体図以外は、片チャンネルのみしか示してないので、そのつもりで見てほしい。
こんな風にして実体配線図なり実物と、実体回路図を比べて見ると、回路の仕組みが割合、解り易いものである。そして、ついでに回路図も見れば解るようになる。
〔組み立て編〕
上の説明がのみ込めたら、プリアンプの組み立ては、改めて説明の要はない位であるが、何分非常にコンパクトに仕上げてある為に、順序よく組み立てて行かないと、それこそ狭い所へ、後からハンダごての先を突っ込む事も出来ない場合が起こり得る。
こんなに小さなシャーシの中に、ステレオ2チャンネルを入れるわけであるから、どうしても配線が複雑になるのはやむをえない。
そこで、次のようにスイッチ、ボリューム等の配線を左右チャンネルで、区別しておいた方が、混同を避ける事が出来る。
①ファンクションスイッチ(S-1)は上側が左、下側が右チャンネルとする。
②モニタースイッチ(S-2)及び、ローブースト(S-3)は、フロントパネル側から見て左側が左、右側を右チャンネルと決める。
③バランス(VR-4)、ボリューム(VR-5)はフロントパネルに近い方が左その反対を右チャンネルと決める。レベルセット用半固定抵抗(VR-1、VR-2、VR-3、VR-6)もそれぞれ、前から見て、左側にあるものを左チャンネル、右側にあるものを右と決めておく。
④プリント基板は、イコライザ、フラットアンプ共、フロントパネルに近い方を左、その反対を右チャンネルと決めておくと、混同が避けられる。
⑤入、出カピンは、市販品の配列に準じて、上側が左、下側を右と考える。
以上で想像がつくように、ステレオの配線には全て、左がチャンネル1という考え方があるので、その通りにやっておくと、すべてに互換性があるので、混同しないで済む。
本項に付属している実体配線図は、勿論この法則に準じたものである。
プリント基板 本機の回路構成の大半がプリント基板上に納まってしまうので、物の順序として、2枚のプリント基板から手掛ける(第3図参照)。これとてもシルクスクリーンで示された通りに、唯、部品を付けて行くのでは面白味はない。
本機はキットではないのだから、一つの抵抗を付けるのにも、その存在価値について、回路図及び等価回路を見ながら考えてみる。『1MΩ(R-17)と100 kΩ(R-15)とによって、1/13端子から6/8端子へ1/10の直流帰還が掛けられているのだなあ』と云った具合にである。
勿論、そんな事を考えなくても指示通りに部品を付けて行けば、必ず所定の特性を持つプリアンプは出来上がるのだが、越味を通しての勉強にはならない。
R-1(33kΩ)及びC-1(100pF)がつながるNFBの穴は、後からリード線を突っ込みにくいので、事務用に使う針ピンを、それぞれの穴に、箔面の方から突っ込んで頭の所で、ハンダ付けしておき、適当な長さに切って、先を輪にしておく(写真1)。シャーシに配線が終ってから、この輪にリード線を引っかけて、ハンダを乗せると事が足りる。
μPC33Cは、百足のように脚が沢山出ているので、注意深くプリント基板にさし込んで、丁寧にハンダ付けする。間隔が狭いので、隣ヘハンダが流れないように。
入力用タンタルコンデンサは、グレーの丸印を手前に見て、右側の脚がプラス側になっている。
電解コンデンサの極性を間違えるとスイッチを入れてから、一分も経たない内に熱くなって、パチンと見事な音がして爆発する。小型のものなので、警察沙汰になる程の事もないが、そこら中、油だらけになって、始末が悪いものである。出来上がったら、踏んづけないように、箱の中にでもしまっておく。
ファンクションスィッチ(S-1)は、シャーシに取り付ける前に配線しておいた方が、はるかに作業が楽である。大型のつまみの手持ちがあれば、シャフトにくっつけておいた方が、安定が良くハンダ付けが楽である。2月号表紙写真及び実体配線図を参考に、左右チャンネルを別々にして、結えておくと、チャンネルセパレーションが良くなり、ハンダ付けの部分がちぎれたりするのを防ぐので、是非実行したい。大方出来上がった頃に、TUNERへつながるシールド線がハンダ付けの部分でちぎれると、始めからやり直す位の手間がかかる。
モニタースイッチ(S-2)は、フロントパネルヘ取り付けておいて、そこに配線の終わったファンクションスイッチをはめ込んでから、それとつなぐように配線して行くと仕事がやり易い(写真2参照)。
フロントパネルはシャーシから離した状態で配線を進めた方がうまく行く。フロントの化粧板は、傷をつけてもいけないので、仕上がりまで取り外しておいた方が良いと思う。
バランス(VR-4)及びポリューム(VR-5)の配線については説明の要はないと思うが、 これらのつまみは、仕上がった時点で、スイッチを入れて10秒以内には、あまり回さない方が良い。集積回路といえども、内部は全段直結差動アンプなので、回路の各バイアスポイントが、所定の電圧に落ち着くまでは、出力用コンデンサ(33μF、C-9)から直流が漏れている事もあるので、この時にポリュームを回すのは長時間の内に、ガリオームにする恐れがあるからである。
ロープーストスィッチ(S-3)は、シャーシ上の配線が全部終わり、プリント基板を取りつける寸前まで、フロントパネルに取りつけない方が、仕事の段取りが良いと思う。このスイッチは、パネルに取り付ける以前に、配線しておく事は勿論である(写真3)。
但し、4個のフイルムコンデンサは後日その値を変える必要が出るものであるから、リード線の方は、からげ配線をしておき、その上に、ハンダにより乗っけるように配線しておくと、ハンダごてを当てるだけで、コンデンサだけが簡単に取り外せる(写真4)。
シャーシの配線 ここまでの作業が終ったら、フロントパネルをシャーシにくっつけて、シャーシ上の配線にかかる。2月号表紙写真を参考に配線を進めて行けば、わけはない。
電源まわりの配線も特に注意をするところはない。回路図と実体配線図を見れば解る。電源まわりが終わったら、電源部から出ている赤、青、自の線の尖端を5mmづつ皮をむいて、テスタを当て、スイッチオンで赤、青それぞれ白に対して±11~12Vになっていれば誤配線はない。