08.12
オーディオシグナルジェネレータの2
回路について
①サインウェーブ発振回路
今までに一度でもオーディオ発振器を作ろうとこころみた事のある方なら経験ずみの事と思うが、真空管でもトランジスタでも、なかなかうまく発振してくれないものである。せめて筆者の持っている程度のものでも、ひと通り測定器がそろっていれば、何とかまとめ上げる事は出来るかも知れないが、回路知識が不十分で、経験の浅いアマチュアには、測定器なしにこれ等の回路による製作は、まず不可能と考えて良い。
その点、 ここに述べるように、オペアンプによって組み上げて行く方法だと、比べものにならない程簡単で、かなり良いオーディオジェネレータに作り上げる事が可能で、しかも良い加減な市販品よりはるかに特性の良い測定器を作り上げる事が出来る。とにかく、誤配線のないかぎり、必ず同じ特性のものが出来る事は、保証出来る(但し、ジャンク屋で集めてまわった部品によるものは責任を取りかねる)。
正弦演(Sine Wave)の回路には、NECのμPC151Aを2段直結にしてあるのが解る。これはμPC151A1個だけでも同じように発振はするが、作り易さの点と、その安定を重視したからである。
オペアンプ。何でも勝手に省略して、外国語を真似したような日本語が多い。コンパ、コネをつける、カンパ、イミる。数え上げればきりがない。これで英語のつもりだから、語学は苦手だという学生が増える。
Operational lntegrated Amplifier
日本語に訳すと演算集積回路。よけいに解らない言葉になる。したがって、結局はオペアンプの方が通りが良いので、本項でも便宜上オペアンプと呼ぶ事にする。
本来、アナログ式電算機の回路のために開発された集積回路であるが、その方面の勉強をした事がないので、どんな風に使われているのか知らないが、本機では、単なる増幅器として使用するので、その働きのみについて考えて見る。
第1図がその内部構造であるが、石がいっぱいあって、ごちゃごちゃして解り難い。簡単に書いたのが第2図である。おなじみの全段直結差動アンプである。唯その増幅度が200,000倍と、べらぼ―に大きいところが違っている。
第2図で解るように、入口が正と負の二つあって、SEPP(Single Ended Push Pull)の出口がある。その出口から適宜NFBを掛けてリニアーアンプ(Linear Amplifier)として働かせようというわけである。
通常この種のオペアンプは、そのNFBの量に応じて、1番と8番ピンの間と、5番と6番ピンに位相補正用のコンデンサや抵抗を外づけするのだが、本機に使用したNECのμPC151Aには、同図にも示したように、位相補正用コンデンサ30pFが内蔵されているので、外部補正の要はない。このICを選んだ理由がここにある。だから測定器を使わないで、テスターだけでも完成出来るのである。
本機に、位相補正用コンデンサが内蔵しているために高周波特性の比較的良くないμPC151Aを使ったのには、理由がある。
オペアンプは、本来の目的がアナログ式演算機用に開発されたもので、オ―ディオ用のためのものではないので、高周波特性が一般によろしくない。特にμPC151Aは、30pFのコンデンサを内蔵させてあるので、10kHzあたりから上の周波数特性があまりのびていない。第3図がμPC151Aと、μPC55Aとの周波数特性の比較を示したものである。図で解るように、μPC55Aの方が、周波数に対して10倍位特性がのびているのが解る。
しからば、なぜ発振器として10kHzまで位しか使えないμPC151Aを使ったか、という疑間を持たれる方があると思う。理由はこうである。
まず第4図を見ていただこう。
上側がμPC151Aの標準回路で、下側がμPC55Aのそれである。お気付きのように、μPC55Aは、位相補正用コンデンサを内蔵していないので、外づけによりその補正を行なわなければならない事が解る。
位相補正というかぎり、正しく補正されていなければなんにもならない。テスター一丁ではこの補正は出来ない事は当然の事である。
その上、グラフ(第3図)でも解るように、μPC151Aは、オープンループゲイン(NFBを掛けない裸の利得)が、103 dB(141,254倍)μPC55Aのが87dB(22,387倍)と大きく差がある。理屈は長くなるので省くが、このゲインは大きい程ウィーンブリッジ型発振器には都合が良い。
となると、テスター一丁で、間違いなくジェネレータが出来るという約束のあるμPC151Aを使うのが一番合理的だという結論になる。
こういう理由により、本機の発振周波数は、30、100、1,000及び10,000Hzにしぼって考えるのが一番確実な方法であり、オーディオリスナーのためのまとめ方でも再三述べたように100Hz、lkHz及び10kHzの正弦波及び方形波が正しく出ているものであれば、ひと通りのアンプ分析には充分である。
15kHzがあれば、RIAAのスポットテストには尚便利であるが、このようにして一応作り上げたものを一応使いこなせるようになってから、オペアンプをμPC55A と取り換えて、 その頃にはオシロスコープの作り方を発表する予定なので、波形を見ながら補正して行く事が出来る。
プリント基板に、これらの位相補正用C. R. が後日取り付けられるように穴をあけてあるのは、そのためである。こんな風な実験もソリッドステート回路の良い勉強になるものである。
だから、実体図でも解るように、周波数レンジスイッチ(S-1)には30、100、1K、10K、15Kとあるが、とりあえず15 kHzは遊びにしてある。
だから、オペアンプなどと、むずかしく考えないで、 8本足のトランジスタで、それを2本直結で使ったと思えば、事はすこぶる簡単で、私共アマチュアこは、何本も石を並べて、下手に疑った回路に取り組むより、はるかに合理的であると言える。
もっと解り易く考えれば、第2図のように、正③と負②の入力と、出口⑥があり、プラス電力⑦とマイナス電力④をあたえる端子の他は、μPC55Aのように位相補正などに使われる①③及び⑤のピンが生えているものもある。文字(「通」が抜けている)り、8本足の1個のトランジスタと考える事が出来る。μPC151Aでは、内部に30pFの位相補正用コンデンサが入っているので、外付けによる位相補正の必要はない。だから、8本のうち3本は遊んでいると思えば良い。
ウィーンブリッジ発振回路には、サーミスタなどを使ったものまで考えると、幾通りもああるが、テンプを使った回路には第5図に示すような標準回路がある。
回路につながる12個の抵抗と、2個のコンテンサの組み合わせにより、ウィーンプリッジ回路を構成し、それにより、希望の周波数の信号を発振させるようになっている(回路図=Schematic 参照)。
S-1により周波数を切り換えると、30、100、1,000、l0,000、15,000Hzが出るようになっている(とりあえず本機では10 kHzどまりであるので、実体図のようにS-1のところでショートしておき、15kHzは出ないようにする)。
これは、第6図で解るように、RIAAカーブの要点をプロットして行ったもので、プリアンプなどのカーブを測定するのに便利だと思われる。この5点が合っていれば、その中間で狂っている事は、理輪上絶対にあり得ない事は、本誌の読者にはお解りいただけると思う。
180Ω(R-1)とそれに直列に入っている制御用のランプ(H0303)により、常に一定の分量のNFBがかかるようになっている。サーミスタの方が良いと考えているのは誤りで、私の経験ではその品番の選択が正しければ、ランプの方がはるかに安定度の高いジェネレータを作る事が出来る。
抵抗、コンデンサの値は、いろいろな文献にあるように
から、
で、C1とC2及びR1とR2が同じであれば、元の式の通り、
で決まる。第1表に、その発振周波数の計算値を示しておく。計算が面倒な方は、この表にあまり気に止めなくても、回路図(Schematic)で解らなければ、実体図通り、切り換えスイッチに配線して行けば、表の通りの周波数‐で発振するから不思議な位である。
但し、本機では、μPC151Aの高域特性のために、それだけ高域でのNFBが少なくなるので計算通り3,330Ωを入れると、10kHz出ないので、一番近い値を取り出すのに3kΩに200kΩをパラレルに抱かせる事により(2.96kΩ)、この問題点を補正してある。μC55Aの場合には、表の通り3,330Ωで10kHzになり、2,221Ωで15kHzの周波数が取り出せる。勿論こんな半端な抵抗は入手出来ないので、次のように2本の抵抗を使って、合成抵抗値をそれぞれに合わせる。
3,330Ω= 4kΩ/20k Ω
(for 10kHz with 4,750pF)
2,221Ω=3.3kΩ/6.8kΩ
(for 15kHz with 4,750pF)
ジャンパー線を入れたプリント基板の左端の余分なパターンは、上の目的のためのものである。
このようにして、30~15kHzまで取り出せると、第6図のように、RIAAカープの要所々々がプロットして行けるので、測定器としてまことに便利なものが出来上がる。但し、この場合には,μPC55Aのゲインのバラツキにより、180Ωの抵抗を200~300Ωの適当な値に、それぞれオシロスコープにより波形を見ながら、ミリバルも使って、各周波数における出力が一番そろうところで決めなければならないので、テスター一丁では無理である。
したがって、最初は、これ等の測定器を持っている方々でも本機のオリジナル通りに、μPC151Aを使ってとにかく仕上げてから、後日手を加えると、うまく行く。
すべてのC.R.パーツがプリント基板にとりつけられるので、誤配線のしようがない。参考までに、第7図にプリント基板のパターンと、その部品配置を示しておく。
抵抗で長方形のしるしはリケノームRM-1/2G(炭素被膜抵抗)で、両端の丸いのはリケノームRN-1/2G(金属被膜抵抗)であるから、 間違えると、安定度に影響する。と言っても、数値が違うので、パーツセットにより組み立てていけば間違えようはない。