2021
08.16

ヒースキットの電子電圧計を考える 1

音らかす

百聞は、一見にしかずと言います。(Seeing is bclieving)本当にうがった言葉だと思います。オーディオ機器のほとんどが、電気を利用していることを考えると、電気に強い方がステレオを楽しむのに何かと便利なことは言うまでもありません。アンプの広告などに、全段直結差動アンプという説明が出ていたとします。電気の理論が解らなければ、差動アンプとは何かということも解りません。

車の免許証を何とかしてとりたいと考えている女性がメカニズムの本を読みます。機械に弱い女性のことですから、大いに頭の痛いことは違いありません。ところが、そんな人でも何かのはずみで、車そのものに興味を覚えたとなると、今度はあまり頭の痛い思いをしなくても、メカニズムの本を読むようになるものです。ところが、免許証をとることをあきらめたとなると、それまでに読んだ事柄は全部きれいさっぱりと忘れてしまうものなのです。彼女の場合、自分で試す機会がなかったからだと思います.`

まず手はじめに測定器を学ぶ

さて積極的に電気を学ぶというつもりになっていただき、以下を読んでください。

トランジスタの働きについて考える1つの方法として、アメリカのHeath-kitのソリッドステート電圧計の回路について考えてみたいと思います。つまり、百間は一見にしかずというわけです。もちろん、自分で試してみる方が良いことは言うまでもないことなのですが…….

第1図がその全回路図です。この電圧計はAC、DC電圧、電流および抵抗値を計るように設計されているのですから、回路およびその働き、あるいは各部品の持つ役割について考えるためには、その1つ1つについて、分解して考えるのが、一番解りやすいと思います。

第1図

この電圧計は大きく分けると次の5つの部分から成り立っています。

  1. プローブ
  2. 4つの入力回路
  3. 増幅部
  4. 出力段
  5. 電源供給部

プローブ部

プローブにはスィッチが仕込まれており、AC、ΩとDCとに切り換わります。第1図の左端がそれです。DCにすれば精密級抵抗1MΩがシリーズに入り、負荷を減らすようになっておりACおよび抵抗の時には、この負荷抵抗がシヨートされます。

入力回路

入力回路にこのプロープが、直接ホーン・ジャックでつながっていて、第2図にDC電圧測定用入力部分をとり出してあるように、入力切換スイッチにより、V、Ω、mAが、 AC、DC−、DC+とシリーズに切り換ります。第2図ではDC+電圧用は切り換えたところで、このスイッチを通った電圧はレンジ・スイッチでアテネートされます。R24~R40までの抵抗(精密級1%)がその電圧分配器を構成しております。R24~R32までは電流計用ですので、DC+およびDC−の場合はシリーズになって、その合計が1,000Ω(1kΩ)。これとR24~R40の合計10MΩとの比は10,000:1になり、図のように0.15Vレンジでは全然アテネートされずに0.15Vの入力で増幅器に入りそこで増幅されメータを動かします。1,500Vレンジに切り換えると1,500Vの10,000分の1でやっばり0.15Vですから、それだけアテネートされて、同じく0.15Vの入力で増幅器に入リメータを動かすわけです。

第2図

2N4304(Q7)は、シンボルで解るようにFETで、増幅器の入カインピーダンスを高くするための石です。C-10は、Q7のゲートからB−につながる線の上にあり、Q7のトランジェント保護の役目をしています。

次にAC電圧計に切り換えた時を考えます。第1図のプローブとACアテネータ回路部にあたります。直流分を遮断するために0.01μF(C1)のコンデンサが入っています。プロープの1MΩがシヨートされることは前に述べました。

ACアテネータはDC用よりはるかに複雑になっていて、レンジ・スイッチ、Q1、Q2およびQ3右側にある出力用レンジ・スイッチで構成されています。図は小さくてわかりにくいかと思いますが、AC電圧の場合、その最小レンジ(0.15、0.5および1.5V)は左側のスイッチでアテネートされずにそのままR5、C6を通って、入力の石、Q1に入ります。これも2N4304(FET)で高インピーダンス入力用です。右側のレンジ・スイッチの最低ポジションは、0.15Vで、DCと同じく増幅器への入カレベルです。このアテネーションを理解するのに、第1表のチャートを参照すれば解りやすいと思います。

第1表

ミリ・アンペア測定入力回路は、わりあい簡単で、オームの法則E=I・Rにもとづいて、一定の抵抗値に流れる電流を、その電圧値で読みとるようになっています。第3図がその分解図です。最小0.015mA(15μA)から1,500mA(1.5A)まで計れるようになっているアテネータは、R24~R34で構成されています。

第3図

第4図がそのE=I・Rの説明で電圧を抵抗で割ると電流になることがお解りだと思います。

第4図

抵抗値を測定するのには、3Vのバッテリ(E2)からとり出した電流をQ4でレギュレートして被測定物を通す仕組みになっています(第5図)。

第5図

Rx1について考えてみますと、Q4には水銀電池(E3)で1.35Vのバイアスが掛っていて、 7mAのコンスタントな電流が流れていますので、この電流がR24~R28の合計10Ωを通って、0.7Vの電圧が発生します。こうして発生した電圧がΩレンジにカップルして、Q7に入り、プローブをショートしないときに、メータを最大値までふらせています。メータの右端は、写真Aのように∞になっています。プローブをショートすれば、電圧値がゼロになりメータは同じく0Ωになります。(ただし、プローブのリード線のわずかな電流抵抗のため、メータは0Ωにならずに0.02Ω位を差=「指」の誤り=します)

プローブの両端に10Ωの測定抵抗を入れると、内部の10Ωとパラレルになって、その合成抵抗が、 5Ωになります。この回路に流れる電流値は、いつでも、0.007A(7mA)ですので、これを電圧値に直すと0.007×5=0.035Vとなり、先程のフル・スケール0.7Vのメータはちょうど半分のところ、つまり目盛の10を指し、R×Iですから10Ωと測れます。

増幅回路

増幅回路は先程述べた入カトランジスタQ7が初段になっています。第6図がその回路だけを抜き出したものです。このFETは、入カインピーダンスが非常に高く、真空管並みだと考えられます。オーディオ・アンプなどがどんどんソリッドステートに置き換えられ、真空管に劣らぬ特性が得られるようになったのも、このフィールド・エフェクト・トランジスタに負うところが大きかったわけです。この石のソースには、抵抗のかわりに、 2N3393(Q12)が使ってあり、いつでも正しく一定の電流が流れるようになっています。R44、R45、R46およびR47はQ7のパイアス設定用のもので、DCバイアスおよびゼロ点調節の働きがあります。つまり、Q7のゲート・バイアスを微調整することにより、メータのゼロ点を正確に合わせることができるわけです。このゼロ調節用ポリュームは、パネル面の右端に親指でまわせられるようになっていて、直径が10cm以上あり、バーニア・ダイアル方式で10回転もするようになっております。大きくまわせばメータの針をセンタゼロまで動かすことができ、プラス、マイナスDCボルトがプロープを入れ換えないで計れます。この半固定の抵抗値がわずか1,000Ωの抗抵値なのに、メータが大きく動くのは、ちょっとおもしろいと思います。

第6図

Q5、Q6およびR42は、入力に誤って過大電圧が入って来たときに、増幅回路をこわさないための保護回路を構成しています。この回路のために、Q7のゲートにはいつでも0.6V以下しか掛からないわけです。

Q8とQ11lは、差動形または平衡形と呼ばれるアンプで、Q11のバィアスは、R22とR23によって、常に約4.9Vに保たれます。平衡形ですので、Q8のベースも同じく4.9Vに合わせなければなりませんが、このバイアスもまたDCバイアス・コントロール(R44)および、ゼロ・セット・コントロール(R45)で行なう仕組みになっています。Q7、Q8およびQ11で構成される増幅部の電流レギュレータがQ13で、この動作は次の説明でお解りだと思います。

Q14とQ15はちょうどダイオードをシリーズに並べたようになっており、R48と共に電圧デバイダーになっていますから、Q13のベース電圧(1.2V)は、R48を流れる電流によって、Q14、Q15でドロップすることにより決められるわけです。Q13のコレクタ電圧はR49の値の如何んにかかわらず0.6Vになりますので、R49はもっぱらQ13を流れる電流を制御する働きを持っています。そしてこの1,500Ωの抵抗を通る電流は約400μAになり、その電流がQ8とQ 11に流れ込んで行きます。もちろん平衡形ですので、 1石当たり200μAになることは言うまでもありません。このようにしてQ8とQ 11のコレクタ~エミッタ電流が、コレクタ電圧7Vとしてとり出されるわけです。

Q7のG(ゲート)に入力電圧が掛かると、Q8のベースの電圧が上がりそのコレクタ電圧が下がり、エミッタ電圧が上がります。これは、いわゆるエミッタ・ホロワ増幅ですので、その電圧がR50とR51およびC15を通ってQ11のエミッタに入ります。先に述ベましたように、Q11のベース電圧は常に4.9Vですので、Q11のコレクタ、エミッタにもQ8と同じ作用が行なわれます。そしてQ8とQ11のコレクタ間の差、または、両者のアンバランスが起り、この差の電圧がQ9とQ10のベースに入って行きます。つまり差動アンプというわけです。